第38話 配達
十分後、簡潔な自己紹介を済ませたナベ達は、松本の案内で同じフロアの別室に移動する。
そこには食糧と医療用品が保管されていた。
松本はナベを座らせると、フックが貫通した肩と握り潰した腕の処置を始める。
消毒と縫合を行う中、ナベは何度も声を上げた。
「痛えっ」
「いちいち喚くな。我慢しろ」
「あんたのせいだろ……」
「最初に攻撃してきたのはお前だ」
松本は淡々と応急処置を進めていく。
肩の傷はガーゼを当てて、開放骨折した腕は木の板と包帯で固定する。
「処置できるのはここまでだ。あとは痛み止めを飲んでおけ」
「……わかった」
ナベは顰め面で応じ、渡された薬を飲む。
度重なる出血と激痛により、彼の顔は土気色になっていた。
衣服も汗でぐっしょりと濡れている。
イリエがハンカチを取り出し、ナベの顔を拭う。
「だ、大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるか」
「ごめん……」
「あああああうああああ」
「クソッ、静かにしてくれよ!」
ナベがカトウに怒鳴る。
カトウは壁に額を密着させたまま、無感情な声を洩らしていた。
叱られても反応せず、散弾銃を抱いている。
一連のやり取りを観察していた松本は、呆れた様子でぼやく。
「動画撮影でこのビルに来るとは……馬鹿なことを」
「じゃあ、松本さんは何が目的なんですか」
イリエがむっとした顔で口を挟む。
松本は表情を変えずに答えた。
「俺は喧嘩だ。命がけの戦いがしたくて滞在している」
「それ、私達を馬鹿にできませんよね?」
「……まあ、理由は他にもあるがな」
小声で呟いた後、松本はナベに問いかける。
「この先は殺人鬼だらけだ。上の階ほど危険が増える。生きて帰るなら今が最後のチャンスだ。今すぐ一階まで戻るなら、俺が送ってやるが」
「必要ねえよ。俺達は最上階に行く」
「死ぬぞ」
「根性で生き残る。それで大儲けするんだ」
「……勝手にしろ」
説得が無意味だと悟った松本は、部屋から立ち去ろうとする。
その時、部屋の扉が僅かに開いた。
廊下側から若い女の楽しげな声が発せられる。
「お届け物でーす」
扉の隙間から球状の物体が投げ込まれた。
床を転がった物体を見て、イリエは「ひっ!?」と腰を抜かす。
それは干からびた人間の頭部だった。
眼孔にはダイナマイト、口には手榴弾が押し込まれている。
松本が生首を入口へ蹴り返すと、ナベ達に向けて叫んだ。
「離れろッ」
閃光と爆炎が室内で炸裂した。




