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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第36話 愚かな猛進

 イリエとナベとカトウは、崩れかけた階段を上がっていく。

 遠くから聞こえる銃声や悲鳴には既に慣れ切っており、いちいち反応する者はいない。

 山刀を振るナベは退屈そうにぼやいた。


「誰も出てこねえじゃん。つまんねえの」


「安全な方がいいよ……殺し合いとか嫌だもん」


「何言ってんだ! こんな機会、二度とないんだぜ!? 楽しまねえと損だろうが!」


 怒鳴ったナベは、肩の傷が痛んで顔を顰めた。

 彼は鼻歌を奏でながら、瓦礫混じりの階段を軽快に上がる。

 その姿にイリエは危機感を覚えた。


(自覚してるか分からないけど……ナベは無理やりテンションを上げている……そうじゃないと、怖くて苦しくて……やってられないんだ)


 次の階に到着したところで、イリエはナベの前に回り込んで提案する。


「ねえ、やっぱり外に出ようよ。アサバも殺されたんだし、通報しなきゃ……」


 イリエの喉に山刀の切っ先が突きつけられた。

 発言を止めたイリエは、戸惑いと恐怖で動けなくなる。

 ナベは眉間に皺を寄せて彼女を睨んでいた。


「ナ、ナベ……?」


「何度も言わせるなよ。これは大儲けのチャンスなんだ。途中で諦めるわけねえだろ」


「死ぬかもしれないんだよ?」


「こっちには最強のカトウがいるじゃねえか。もう何が来ても負けやしねえって」


 自信満々に言うナベは、最後尾を歩くカトウを見やった。

 散弾銃を携えるカトウは、二人が辛うじて聞き取れる声量で呟き続けている。


「にじゅうごかい……うえ……は……」


「ほらな? オッサンだって二十五階に行きたがってる。仲間外れはお前だ。そんなに帰りたいなら一人で逃げろよ」


「そ、それは……」


 イリエは反論の言葉を失う。

 不安を露わに黙る彼女をどう思ったのか、ナベは優しく肩を抱いて囁いた。


「意地悪なこと言ってごめんな。でも今は喧嘩してる場合じゃないだろ」


「……うん。私こそごめん」


「気にすんな。ビビっちまうのも分かるけど、だからこそ助け合って進むのが大事なんだ」


 イリエの頭を撫でたナベは、機嫌よく先行する。

 その背中を見たイリエは、これまで以上の焦燥感を覚える。


(ナベはもう駄目だ。後先考えずに突っ走ってる……ついていったら私まで破滅する)


 振り返ったイリエはカトウに話しかけた。


「ねえ、ここからすぐに脱出できる方法ってある?」


「うえ……うえ……にじゅうご……」


 カトウはイリエの顔を見ず、うわ言のように繰り返すだけだった。

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