第36話 愚かな猛進
イリエとナベとカトウは、崩れかけた階段を上がっていく。
遠くから聞こえる銃声や悲鳴には既に慣れ切っており、いちいち反応する者はいない。
山刀を振るナベは退屈そうにぼやいた。
「誰も出てこねえじゃん。つまんねえの」
「安全な方がいいよ……殺し合いとか嫌だもん」
「何言ってんだ! こんな機会、二度とないんだぜ!? 楽しまねえと損だろうが!」
怒鳴ったナベは、肩の傷が痛んで顔を顰めた。
彼は鼻歌を奏でながら、瓦礫混じりの階段を軽快に上がる。
その姿にイリエは危機感を覚えた。
(自覚してるか分からないけど……ナベは無理やりテンションを上げている……そうじゃないと、怖くて苦しくて……やってられないんだ)
次の階に到着したところで、イリエはナベの前に回り込んで提案する。
「ねえ、やっぱり外に出ようよ。アサバも殺されたんだし、通報しなきゃ……」
イリエの喉に山刀の切っ先が突きつけられた。
発言を止めたイリエは、戸惑いと恐怖で動けなくなる。
ナベは眉間に皺を寄せて彼女を睨んでいた。
「ナ、ナベ……?」
「何度も言わせるなよ。これは大儲けのチャンスなんだ。途中で諦めるわけねえだろ」
「死ぬかもしれないんだよ?」
「こっちには最強のカトウがいるじゃねえか。もう何が来ても負けやしねえって」
自信満々に言うナベは、最後尾を歩くカトウを見やった。
散弾銃を携えるカトウは、二人が辛うじて聞き取れる声量で呟き続けている。
「にじゅうごかい……うえ……は……」
「ほらな? オッサンだって二十五階に行きたがってる。仲間外れはお前だ。そんなに帰りたいなら一人で逃げろよ」
「そ、それは……」
イリエは反論の言葉を失う。
不安を露わに黙る彼女をどう思ったのか、ナベは優しく肩を抱いて囁いた。
「意地悪なこと言ってごめんな。でも今は喧嘩してる場合じゃないだろ」
「……うん。私こそごめん」
「気にすんな。ビビっちまうのも分かるけど、だからこそ助け合って進むのが大事なんだ」
イリエの頭を撫でたナベは、機嫌よく先行する。
その背中を見たイリエは、これまで以上の焦燥感を覚える。
(ナベはもう駄目だ。後先考えずに突っ走ってる……ついていったら私まで破滅する)
振り返ったイリエはカトウに話しかけた。
「ねえ、ここからすぐに脱出できる方法ってある?」
「うえ……うえ……にじゅうご……」
カトウはイリエの顔を見ず、うわ言のように繰り返すだけだった。




