第35話 老女の企み
不敵に笑う古賀が、男を室内へ手招きする。
「ご苦労だったね」
「おうよ。簡単すぎて退屈だったぜ」
「そりゃよかった。あの二人は?」
「知らんね。爆発に巻き込まれたか、人喰いにやられたか……」
男が推測を述べると、古賀が首を横に振った。
古びたソファにふんぞり返った彼女は、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「探偵はともかく、沢田はどうせ生きてるよ。殺しても死なないような男さ」
「確かにな。おいらの仕業ってバレたら仕返しされそうだ」
「くれぐれも黙っときなよ」
「もちろん」
頷いた男は上原を床に下ろした。
上原は寝袋から抜け出すと、不思議そうに見上げる。
「古賀さん……?」
「そんな顔してどうしたんだい」
「いや、あの……ちょっと状況が分からなくて」
「そうかい。じゃあ軽く説明しよう」
古賀がソファから立ち上がると、男の肩を叩いて紹介する。
「こいつは工藤。アタシの部下で、汚れ仕事の専門家。最近は人喰いどもの調査を任せていた」
「よろしくどうぞ」
工藤は唇を上げて大きく笑う。
彼の歯は交互に並ぶ金歯と銀歯で構成されていた。
「工藤は囚われたあんたを救出し、ついでに人喰いどもの巣を爆破した。今頃は奴らもパニックだろう。ざまあみろってんだい」
「あの、助けていただいたことには感謝してます。でも私、先生のところに戻らないと……」
「ダメだ。あんな腑抜けには預けられないね。人喰いエリアくらい突破できると思ったが、まるで期待外れだよ」
舌打ちした古賀は上原に顔を寄せた。
ぎょっとした上原が仰け反るも、その分だけ迫って古賀は告げる。
「そんなわけで、今からアタシ達があんたの保護者だ。二十五階まで連れて行ってやるよ」
「えぇっ!? どうしてそうなるんですか!」
「答える義理はないね」
古賀が隠し持っていた注射器を上原に首筋に刺した。
中の液体が注入された瞬間、上原は脱力して気を失う。
古賀は彼女をひょいと持ち上げて担いだ。
一部始終を見ていた工藤は同情する。
「かわいそうに。理由くらい教えてやってもいいんじゃないか」
「馬鹿言うんじゃないよ。この子が受け止められるはずがないだろう」
「そりゃそうだが……」
「物事には順序がある。今はこれくらいがベストなのさ」
古賀が上原の顔を一瞥した。
それから彼女は呟く。
「――朽津間ビルの新しい管理者として、ちゃんと運んでやらないとね」




