第34話 運ばれる女
建物全体を揺らす爆発音により、上原は目覚めた。
起き上がろうとした彼女は、自身が袋のような物に包まれて、何者かに担がれていることに気付く。
絶え間ない揺れを感じながら、上原は困惑する。
「えっ、何」
上原は袋を縦断するジッパーを発見した。
彼女は僅かな隙間に指を差すと、慎重に開いて顔を出す。
登山用の寝袋に入った上原を運ぶのは、煤で汚れ切った禿げ頭の男だった。
狭い木造の階段を上がる男は、全身のあちこちに血がこびり付いている。
寝袋を持たない手には、生首を串刺しにした鉄筋を握っていた。
おぞましい容姿に上原は悲鳴を洩らした。
「ひっ」
「おお、起きたか」
寝袋を担ぐ男は、暢気な声で反応する。
彼は一瞬だけ振り返り、明るい笑みと共に挨拶した。
「おはよう」
「お、おはようございます……?」
「調子はどうだ」
「普通です……たぶん」
「そりゃよかった」
親しげな男の態度に上原は戸惑う。
同時に彼女は、気絶する直前の記憶を思い出した。
(私、人喰いに捕まったんだ。ということは、これから食べられるの……?)
己の現状と運命を想像し、上原は青い顔で身震いした。
その様子に何かを察したのか、男は肩をすくめて訂正する。
「先に言っとくが、おいらは人喰いじゃねえからな」
「えっ、そうなんですか?」
「潜入するための演技さ」
男は得意げに述べる。
次の瞬間、彼の表情が禍々しいものへと変貌した。
半目で涎を垂らし、悪意に満ちた声を発する。
「……オレ、オマエ、クウ」
「えっと、迫力ありますね」
「だろ? 連中も仲間だと思い込んでたぜ。おかげであんたを楽に助け出せた」
男のポケットからは数本の赤い筒が覗いていた。
筒の先端からは短い導火線が伸びる。
(まさか……ダイナマイト? さっきの爆発もこの人の仕業なんだ)
上原は早々と納得した。
この異常な空間では何が起きても不思議ではないと考えていた。
続けて彼女は恐る恐る男に尋ねる。
「あの……私、どこに連れて行かれるんですか?」
「すぐに分かるよ。もう少し待ってくれ」
階段を上がり切った男の前には、分厚い鉄扉があった。
男は何度かノックして呼びかける。
「おーい、開けてくれー」
数秒後、扉がゆっくりと開く。
そこに立っていたのは黒道着の老女、古賀だった。




