第32話 人喰いの王
脳が沸騰するような激痛に、沢田は堪らず絶叫した。
「ぐああああああぁぁっ!?」
彼は屈み込み、作動したトラバサミの状態を見る。
鋸歯状の金属板が脚に食い込んでいた。
歯は皮膚と肉を破り、骨まで達している。
沢田は金属板を掴んで力を込めるが、びくともしなかった。
「ふっ、ふざけんなよ、クソ……!」
彼が悶絶する間に、新たな人喰いが接近してくる。
沢田は無理な姿勢から射撃を行った。
真正面から銃弾を浴びた人喰い達は、悲鳴を上げて絶命していく。
激痛に苛まれながらも、沢田の銃捌きは冴え渡っていた。
「上原を返せこの野郎ッ」
予備の拳銃まで撃ち尽くし、沢田はどうにか視界内の人喰いを全滅させた。
脂汗を垂れ流す彼は、震える手で弾倉を交換する。
そしてトラバサミを睨んだ。
「一か八か、銃で撃ってみるか……?」
「その必要はない」
追いついた松本が、トラバサミを素手で押し戻す。
人外じみた彼の筋肉だからこそ為せる荒業であった。
沢田はすぐさま脚を引き抜いて尻餅をついた。
抉れた傷口からどくどくと血が溢れ出す。
そこに松本がタオルを当ててきつく縛り上げた。
「ぐっ……」
「我慢しろ。嬢ちゃんを助けるんだろう」
「そ、そうだが……」
「なら自力で歩け」
松本に促された沢田は、片脚を引きずって歩く。
一方、人喰いは廊下の奥に集まり、二人の様子を傍観していた。
襲おうとはせず、不自然なほど大人しく待っている。
試しに沢田が十を向けても反応はなかった。
これには沢田も戸惑う。
「何だぁ? 怯えてやがるのか?」
「それちがう」
抑揚のない声が響き渡る。
部屋の扉の一つが開き、骨の椅子を担ぎ出されてきた。
椅子には異様に痩せた青年が座っている。
目元は骨の仮面で隠し、両手の口元は血で染まっていた。
骨の椅子を担ぐ人喰い達は、廊下の半ばほどで足を止める。
沢田は椅子の青年を銃で狙いながら尋ねた。
「お前がグールか」
「そう。おれ、ぐーる」
「上原を返しやがれ」
「だれ?」
「とぼけるな。お前らが攫ったばかりの女だ」
沢田が語気を荒げて言う。
青年は首を傾げて唸り考える。
ややあって青年は、斜め後ろの部屋を指差した。
「うえはら、えさ。だいじにほかん――」
刹那、指し示したばかりの部屋が爆発した。




