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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第30話 冷酷な判断

「おい、上原……」


 沢田は助手の名を呼ぶ。

 いくら待っても反応はない。

 歯噛みした沢田は、さらに声を張り上げて呼んだ。


「上原っ、どこだ!? さすがに笑えねえぞ! 返事しろッ!」


「分かってんだろ。あの嬢ちゃんは攫われた」


「……うるせえ」


 沢田は早足で部屋から出ようとする。

 松本が手で制して尋ねた。


「どこへ行くつもりだ」


「決まってんだろ。上原を助け出す」


「危険だ」


「じゃあ、見捨てろって言うのか!」


 沢田は怒鳴りつけた。

 今にも銃を向けそうな剣幕だった。

 対する松本は冷徹に返答する。


「最上階に向かうのがお前の目的だろう。多少の犠牲は受け入れろ。それがこのビルでの掟だ」


「掟だと? そんなクソルールなんざ知るか」


「今度こそ死ぬぞ」


「気合で生き延びてやるよ」


 強気な沢田を見て、松本はため息を洩らす。

 彼はおもむろに葉巻を取り出すと、ライターで着火して吸い始めた。

 紫煙をゆっくりと吐き出した後、松本は静かに語る。


「……人喰いを支配する殺人鬼がいる。通称はグール。人肉好きの変態だ。嬢ちゃんを助けに行けば、必ず戦うことになる」


「それがどうした。あんたほど強けりゃ、誰だって殺せるだろ。俺だって銃を持ってるし」


「相手は数十人のカニバリズム集団だ。死を恐れず、食欲のままに襲いかかってくる。グールに挑むということは、さっき以上の攻撃を受けるわけだ。その脅威を理解できるか?」


「…………」


 諭された沢田は、床を見つめて黙り込む。

 彼自身、どれだけ無謀なことをするつもりなのか認識していた。

 故に反論する言葉を持たない。

 松本の主張が正しいのだと分かっていたのである。


「そもそもグールとの喧嘩はつまらん。何度か殺したことがあるが、別の人喰いがグールを名乗るだけだった。いくら勝っても意味がない」


「襲名制か。人喰いのくせに、そういう所は文化的じゃねえか」


「不満か」


「助手を拉致されたんだ。嫌味くらい言わせろよ」


 沢田は落ち着きのない様子で髪を掻き毟る。

 コートから煙草を取り出すも、少し迷ってからポケットに戻す。

 やがて沢田は盛大に舌打ちをすると、松本を見上げて告げた。


「悪いが無駄話は終わりだ。俺は上原の救出に向かう」


「そうか。俺は最上階に到達するまでの手助けはするが、寄り道には付き合わない。残念だが――」


 松本が言い切ろうとしたその時、沢田は凄まじい勢いで土下座した。

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