第27話 武器と餌
数分後、沢田は割れた姿見の前に立つ。
腰と胸のホルスターにはそれぞれ拳銃が収められ、手には短機関銃を持っている。
コートの下には防刃ベストを着込んでいた。
見つけた時点で脇腹の一部が裂けて血が付着していたが、彼はそれを見なかったことにした。
「遺品だろうが使えりゃ何でもいいだろ」
苦い笑みを浮かべた沢田は、不安そうに佇む上原に声をかける。
「準備できたか?」
「は、はい……一応……」
上原は安全第一と書かれた黄色いヘルメットを被っていた。
手には特殊警棒を握り、腰にスタンガンを吊るしている。
彼女の武器を確認した沢田は尋ねた。
「銃はいらないのか。余ってるぞ」
「さすがにちょっと抵抗があって……使い方も分かりませんし」
「それもそうだな」
「代わりに荷物持ちを頑張りますっ!」
そう言って上原は予備弾薬を詰め込んだダッフルバッグを背負う。
恐怖と緊張を抱きながらも、本人なりに貢献しようと張り切っていた。
助手の頭を撫でた沢田は、ふと古賀に質問する。
「今更だが、なんでこんなに銃があるんだ?」
「あんたみたいにビルに持ち込む輩が多いのさ」
「なるほどな」
沢田は持参した拳銃を見て納得する。
棚のナイフを手に取った古賀は、それを弄びながら語る。
「銃だけじゃない。ビル内は違法物品のオンパレードだよ。探せばなんだって見つかる」
「そりゃ便利なことで。ここが日本だって忘れちまいそうだ」
「さっさと忘れな。朽津間ビルでは、外のあらゆる常識が通用しない。狂気に身を委ねて環境に適応するんだ」
「狂気ねえ……平穏無事に生きたいもんだぜ」
沢田は顎髭を撫でてぼやいた。
一方、古賀は無言で部屋を出ていくと、鎖を引きずりながら戻ってくる。
「準備はできたね。それじゃ、こいつらを連れていきな」
古賀の持つ鎖の端には、首輪の付いた男が繋がっていた。
男は口と目を縫われており、くぐもった叫びを発している。
沢田はうんざりした顔で古賀に訊く。
「おいおい、物騒だな。誰だよ」
「アタシが捕まえた殺人鬼さ。腹を空かせた人喰いどもの前に放り出せば、ちょっとは時間を稼げるよ。危険なエリアを突破するのに使えるね」
「餌にしろってことか?」
「察しが良いね。ちょうど使い道に困ってたんだ。在庫処分させておくれ」
「ははは、ひでえ扱いだな」
沢田は笑う。
もはや笑うしかなかった。
こういったことに慣れているのか、松本は顰め面で何も言わない。
唯一、上原だけが明確な拒否反応を示す。
「あの先生……さすがに生きた人間を囮にするのは……」
「仕方ねえだろ。手段なんて選んでいられねえよ」
「そ、それはそうですけど……」
上原は反論しようとしてやめる。
力が無ければ何も言う資格を持たない。
今の自分には選択の余地がない。
ビルに踏み込んでから現在に至るまで、彼女は散々に思い知ったことであった。




