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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第24話 鉄拳制裁

 遠くで鳴り響くチェーンソーの音に、沢田は眉を寄せた。


「物騒だな」


「ここでは銃声や爆発音だって珍しくない」


「ははは、戦場かよ」


「戦場の方がマシだろう」


 先導して階段を上がる松本は、前を向いたまま軽口に付き合う。

 鋭い光を帯びた双眸は、油断なく進路を睨んでいた。

 最後尾を歩く上原は落ち着きがない。

 浮かない表情に気付いた沢田が声をかける。


「どうした」


「いえ……なんとなく、ここの光景に見覚えがある気がして……」


「どうせホラー映画とかだろ。こういう場所で殺人鬼に追われるって、よくあるストーリーじゃねえか。映画マニアのお前のことだ、それで既視感があるだけだろう」


「そ、そうなんですかね」


 上原は自信なさげに応じる。

 彼女の不安を払拭するように、沢田は別の話題を投げた。


「映画と言ったら、この前の新作はどうだったんだ?」


「あっ、割とよかったです。続編としてしっかり楽しめましたね」


「俺もチェックしてみるか」


「絶対オススメですっ!」


 上原はすっかり元気になって笑う。

 一連のやり取りを聞いた松本は呆れ果てていた。

 次のフロアを覗きつつ、彼は深々とため息を吐く。


「緊張感がねえな……状況を理解しているのか?」


「気晴らしだよ。別に警戒心は解いてない」


「本当か?」


「証明してやるよ」


 沢田が松本の前に進み出る。

 次の瞬間、近くのボロ布に隠れていた男が跳びかかった。

 身構えた沢田は、素早い動きで男を投げ飛ばす。

 そして股間を踏み潰して意識を奪った。


「ほらな? 意外とやるだろう」


「…………」


 誇る沢田に対し、松本は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


 その後も三人はビル内を上がっていく。

 階段や手作りの抜け道、壁の中といった様々な経路を使って進む。


「このビルは破壊と増築が常に繰り返されている。だから内部構造を完璧に把握する者はいない」


「迷宮になってるってわけか。面倒だな」


「住人が縄張りにしている場所もある。気を抜くな」


 途中、殺人鬼が襲いかかってくる場面があったが、松本が一撃で沈めていく。

 相手がどんな武器を持っていようと、彼の拳が等しく粉砕した。

 瞬殺された殺人鬼を見て、沢田は率直な感想を洩らす。


「弱いな」


「強い奴ほど慎重になり、俺には挑んでこない」


「なぜだ?」


「殴り殺されると確信しているからだ」


 松本は血に濡れた拳を見せて述べる。

 驕りではなく、経験に基づく絶対的な自信が込められていた。

 その逞しい姿に感心しつつ、沢田は興味本位で尋ねる。


「このビルであんたが最強なのかい?」


「今のところ負けたことはない……が勝負がつかない奴もいる。そういう輩とは何度も殺し合っている」


「そいつは遭遇したくねえな」


 沢田は苦笑気味にぼやく。

 彼の頭上から、音もなく人影が落下してきた。

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