第22話 戦闘準備
予想外の武器が登場したことで、イリエは困惑する。
彼女の脳裏には、死体を漁るカトウの姿を過ぎっていた。
(死体の中に銃が隠されていた……?)
散弾で手を負傷した巨漢は、怒りのままに雄叫びを上げた。
そこからチェーンソーを拾わず、カトウに殴りかかる。
カトウは散弾銃を発砲した。
巨漢の顔面のうち、半ば以上が吹き飛ばされる。
破れた段ボールから眼球がこぼれ出した。
「……ッ」
巨漢が転び、四肢を痙攣させる。
カトウに反撃を試みているが、満足に身体が動かないようだった。
暴れるたびに脳の破片が床に散らばる。
呆気に取られていたナベが我に返り、作動中のチェーンソーを掴み取った。
彼は力いっぱいに叫んで己を奮い立たせると、倒れた巨漢に斬りかかる。
チェーンソーが巨漢の頭部に食い込んだ。
夥しい量の鮮血を飛ばしながら、回転刃が顔面から首にかけて容赦なく縦断していく。
巨漢の手足の痙攣がひときわ大きくなった。
ナベは肩の激痛を耐えて、決してチェーンソーを放さない。
「この野郎ッ! 早く、死ねぇ! 」
絶叫するナベがチェーンソーをついに振り抜く。
巨漢の殺人鬼は死んでいた。
頭部から首、うなじにかけて左右に分断されている。
被っていた段ボールが外れていたが、その人相はもはや判別不能だった。
「ハッ、ざまあみろ! 馬鹿が、俺達に逆らうからこうなるんだ!」
チェーンソーを捨てたナベが死体を蹴る。
感情に昂ったが故の行動だった。
ひとしきり蹴った後、彼は途端に険しい顔になる。
冷静になったナベはカトウを見やる。
「くううぅ……うえ……」
カトウは散弾銃の排莢と装填を行っていた。
素早い手つきではないものの、迷いのない慣れた動きである。
ナベはその様子を訝しむ。
(こいつ……何者だ? 頭がおかしいだけのホームレスじゃない。問い詰めても答えねえだろうが……)
ナベはカトウに手を差し出した。
彼は端的に要求する。
「おい、銃。こっちに寄越せ」
「うう……」
「危ねえだろ。さっさとしろ!」
カトウが語気を強めた瞬間、銃口が彼に向けられた。
ナベは目を見開いて固まる。
「てめえ……ッ!?」
「…………」
カトウは散弾銃を突きつけたまま動かない。
引き金にはしっかりと指がかかっていた。
虚ろな瞳の奥では、仄暗い殺意が微かに瞬いている。




