第20話 解体ショー
「うわっ、うわっ、やめてくれぇっ!」
アサバは必死に悲鳴を上げる。
彼は身体を揺すって暴れるが、チェーンソーの脅威から逃れることは敵わない。
フックに貫かれた肩の痛みをいたずらに悪化させるだけであった。
凄惨な展開を予感し、イリエは顔面蒼白で震える。
(こ、殺される……アサバが……)
ナベが背後からイリエの背中を押す。
彼は脂汗を垂らしながら告げた。
「今のうちに逃げるぞ」
「イリエは……?」
「あんな奴ほっとけ。もう手遅れだ」
「なんでそんな酷いことを言うの! 放っておけるわけないでしょ!」
「じゃあ、お前があいつを助け出すのか? チェーンソー男はどうするんだ。会話で平和的に解決でもするのか?」
ナベに睨まれたイリエは言い淀む。
彼女はチェーンソーを持つ巨漢を一瞥した。
不快感を煽るモーター音が焦りと恐怖を強めていく。
「そ、それは……」
「いいか、他人のことなんか考えるな。生き残ることに集中しろ。分かったか?」
「…………」
念押しされたイリエは黙り込む。
その時、アサバがイリエ達に気付いた。
彼は泣きそうな顔で懇願する。
「おーい! ナベ! イリエ! お願いだ、助けてくれぇ……っ!」
イリエとナベは言葉を発せない。
段ボールを被る巨漢が、無造作にチェーンソーを掲げたからだ。
振り下ろされた回転刃がアサバの左腕に食い込み、凄まじい音を立てた。
アサバは首を振って叫ぶ。
「いだだだだだっ!?」
ぼとり、と左腕が落ちた。
断面から血が噴き出して床を汚す。
巨漢の殺人鬼は、無言でチェーンソーを構え直し、アサバの右腕に押し当てた。
「あがっ、ぎぎぎぎぎぎぎぎ!」
アサバが苦痛を訴える中、右腕もあっけなく切断された。
それでもチェーンソーは止まらず、今度は彼の腰を切り裂いていく。
悲鳴はだんだんと小さくなり、やがてモーター音に掻き消されてしまった。
イリエとナベは凍り付いていた。
逃げ出すことすら忘れて、友人が解体される一部始終を眺めていた。
およそ三分後、チェーンソーの音が止まった。
アサバだった肉塊が床に散乱していた。
フックには僅かな肩の肉しか残っていない。
他はすべて切り落とされて、原形を留めずぐちゃぐちゃになっている。
不気味な静寂を破ったのはカトウの喚き声だった。
「うわひいいいっっ、ひひひあああああ!」
「おい馬鹿っ」
ナベが咄嗟にカトウの口を塞ぐ。
しかし、声を聞きつけた巨漢が振り返る。
彼は新たな獲物を見つけると、再びチェーンソーを吹かした。




