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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第16話 コンビプレー

「なんじゃァ……? 小娘が何の用じゃい」


 老人が間延びした口調で問う。

 その足元には、よく砥がれた巨大なハサミが置いてあった。

 刃渡りだけで一メートルを優に超えており、本来の用途から逸脱した凶器であるのは言うまでもない。


 マナカは老人を指差して驚く。


「あっ! "ハサミ爺"じゃん! こんな所に隠れてたんだ!」


「ほう、儂を知っておるのか……」


「そりゃねえ。有名な殺人鬼は把握してるよ」


「……知識自慢で満足かえ?」


 老人は、じっとりと挑発的な眼差しで問う。

 マナカは目を細めて笑い、嬉々として銃口を向けた。


「じゃあ満足させよ」


「言われずとも」


 老人はハサミを掴み取ると、両手で開閉させながら疾走した。

 甲高い声を上げ、跳ねるような挙動で距離を詰める。


 マナカは飛び退きながら銃を撃つ。

 老人は弾をハサミで弾いて突き進む。

 受け損ねた一発が頬を抉るも、動きを鈍らせることはなかった。


 その姿にマナカは感心する。


「おっ、やるねえ」


「ひょほはああああああぁっ!」


 奇妙なかけ声と共に、老人がハサミでマナカの胴体を狙う。

 腹部を切断される寸前、マナカは真上に跳んで躱した。

 そこから着地までに数発の銃弾を放つ。

 老人は素早くハサミで遮るが、すり抜けた一発が太腿に命中した。


「ぬっ」


 老人は顔を顰めてよろめく。

 同時にマナカが踵を返して走り出した。

 横穴の入り口には、バットを持つヒヨリが待っていた。


「ごめーん、一人じゃ勝てないかも!」


「じゃあコンビプレーだね」


「うん、よろしく!」


「任せて」


 バトンタッチしたヒヨリは、ゆっくりと前に進み出る。

 老人はハサミを閉じた状態で突き刺しにかかる。

 ヒヨリはそれをバットで軽々と受け流した。


 軌道のそれたハサミの先端が、横穴の壁を削って火花を散らす。

 攻撃に失敗した老人が勢い余って前のめりになった。

 そこにマナカの銃弾が容赦なく撃ち込まれる。


「当たれーっ!」


 無理な姿勢を取りながらも、老人は身を翻して避けた。

 しかし、横殴りのバットが顎に炸裂して膝をつく。

 間髪いれずに銃弾が老人の両肘を撃ち抜き、彼はとうとうハサミを手放した。


 拳銃を下ろしたマナカは相棒に呼びかける。


「今!」


「はーい」


 ヒヨリが助走をつけてドロップキックを繰り出した。

 スニーカーの靴底が老人の顔面にめり込み吹っ飛ばす。


 バウンドして転がった老人は、むくりと起き上がる。

 左右の目が充血し、潰れた鼻からは血が流れ出していた。

 老人は苦痛に呻きつつも、落としたハサミに手を伸ばそうとする。


「ぬおお、おお……っ!」


「はい、おしまい」


 鳴り響く銃声。

 老人の右目に穴が開いた。

 ハサミ爺と呼ばれた殺人鬼は、静かに倒れて息絶える。


 その死に様を見届けたマナカとヒヨリは、楽しげにハイタッチをする。


「いえーい、大勝利」


「やったね」


「古参の殺人鬼は強いなぁ。無傷で倒せてよかったー」


 安堵するマナカは巨大なハサミを拾う。

 鋭利な刃には、落とし切れない血の染みがこびり付いていた。


「いいねえ……"コレクター"に売ったら喜びそうじゃん」


「あいつ、殺人鬼の武器とか好きだもんね」


「そうそう! 新しい銃とか買っちゃおうかなー」


 新たな成果を得た二人は、無邪気にはしゃぐ。

 横穴の外で目覚めたイリエが逃げ出したことなど、今の彼女達は知る由もなかった。

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