第13話 駐車禁止
朽津間ビルの外に一台の車が停まっている。
運転席に座るイリエは、憂鬱な表情でぼやいた。
「どうしよう、なんで戻ってこないの……早く帰りたいよ……」
焦りと不安が募り、彼女は手で顔を覆う。
車内に戻ってから既に三時間が経過しようとしていた。
ペットボトルの緑茶を飲み干した後、イリエはふと考える。
(もう一人で帰ろうかな。別に大丈夫だよね。私は悪くないもん)
彼女が決断しようとしたその時、運転席の窓をノックされた。
そこにはジャンパースカートを着た金髪の若い女が立っていた。
「あのー、すみませーん」
「えっ」
イリエは戸惑う。
まさかこんな場所で声をかけられるとは思っていなかったのだ。
彼女は少し警戒しつつ応じる。
「あ、あの何ですか」
「ここ駐車禁止なんですけど。許可とか取ってます?」
「いや、許可とかは……」
「困るんですよねえ、こういうことをされたら。迷惑なんですよ、ハッキリ言って」
金髪の女は不機嫌そうに言いつつ、車のドアを開けるように促した。
イリエは車を降りて渋々と謝る。
「すみません、すぐに車をどかしますね」
「いやいや! 謝って済むことじゃないですよー。ちゃんと罰を受けてもらわないと」
「ば、罰……?」
「あなたの命と車を没収です」
女が不敵に笑って告げる。
次の瞬間、イリエは後頭部に強い衝撃を受けた。
何か考える間もなく、イリエは気を失って倒れる。
彼女の背後には、ジャージ姿の黒髪の女が佇んでいた。
その手には木製のバットが握られている。
金髪の女は、スキップしながら黒髪の女とハイタッチをした。
「ヒヨリ、ナイスー!」
「あ、ありがと……マナカ」
金髪の女マナカは、気絶したイリエを何度か蹴る。
彼女はこれ見よがしに嘲笑ってみせた。
「へっへーん、騙されてやんのー! 駐車禁止とかあるわけないだろ!」
「この人……何者?」
「どうせ心霊スポット好きとかでしょ。たまにいるんじゃん、そういうヤツ」
鼻を鳴らしたマナカは、イリエを仰向けにして顔に触れる。
そして目を輝かせた。
「若い女! 顔はそこそこ! 悪くないねえ、高く売れそう!」
「やったね……あたし、チョコ買いたいな」
「うちもチョコ好きー! ポテトチップスとかも買っちゃおうよ! あとイチゴケーキとか!」
二人の異常者は、イリエを挟んで盛り上がっていた。




