第100話 朽津間ビル
沢田と上原が殺人鬼を片付けたところで、建物の奥からひょこりと顔を出す者がいた。
慎重に歩み寄ってくるのはイリエだった。
「ど、どうも……お久しぶりです」
「久しぶりじゃねえか。まだ上原を殺す気か?」
「違いますっ! 私はただ案内人として派遣されただけなので!」
イリエは慌てて首を振って否定する。
彼女の言葉に沢田は首を傾げた。
「案内人?」
「はい……こちらへお越しください」
一行はイリエと共にエレベーターに乗った。
イリエは特定の階数ボタンを何度か長押しする。
するとエレベーターはゆっくりと下降を始めた。
沢田は縮こまったイリエに尋ねる。
「あれからずっとビルにいたのか。脱出するチャンスくらいあっただろ。ここを気に入ったのか?」
「私だって本当は外で暮らしたいですよ。でも葛城さんが私の体内に爆弾を埋め込んでいるので……」
「都合の良い労働力にされているわけですね」
上原の言葉にイリエは泣きそうな顔で頷く。
沢田は鼻を鳴らして「いい気味だ」と呟いた。
突如、モニターが明滅し、葛城が映し出される。
葛城は七年前……そして三十年前から変わらない容姿で挨拶をする。
『やあ、依頼通り来てくれたようだね。感謝するよ』
「何の用だ」
『君達が退屈している頃だと思ったね。新しい朽津間ビルに招待したのだよ』
エレベーターの外から絶叫や銃声、爆発音、そして笑い声が聞こえてくる。
高瀬は息を呑んで固まっていた。
パンチは低い声で唸って威嚇する。
イリエは顔を青くして耳を塞いでいた。
沢田と上原だけが懐かしそうに微笑んでいる。
「嬉しくて涙が出そうだ」
「ですね」
画面の中での葛城が手を打って告げた。
『さあ、地下二十五階で待っているよ。イリエ君も頑張って戻ってきたまえ』
「え!? そんな! 待ってくださいよ、ねえ!」
モニターが暗転し、葛城の姿が消える。
イリエは肩を落とすも、慣れた様子で愚痴を洩らす。
その手には拳銃とナイフが握られていた。
昏い双眸は殺し合いに対する覚悟を固めている。
およそ十秒後、下降を止めたエレベーターの扉が開いた。
広がる暗闇の先では、無数の気配が熱気と狂気を発散している。
殺人鬼体が新参者を歓迎しているのだ。
沢田と上原はエレベーターの外に進み出て銃を構える。
二人の尋常ならざる眼力は、対峙する殺人鬼を凌駕していた。
「よし、皆殺しパーティーだ。どっちがたくさん殺せるか勝負だな」
「良いですね。負けませんよ」
「高瀬! お前も強制参加だ! 通信空手の成果を見せてみろ!」
「は、はいっ! 頑張りますっ!」
漲る狂気に唆されて、彼らは深淵へと踏み込んだ。
本作はこれで完結です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
新作も始めましたのでよろしくお願いします。




