第10話 暴力に次ぐ暴力
「絶対に止まるなよ!」
「い、言われなくても! 分かってますって!」
沢田達は階段を数段飛ばしで駆け下りる。
悠長に罠の有無を確かめる余裕はなく、何も引っかからないことを祈るしかなかった。
沢田は一瞬だけ振り返る。
ガスマスクの男は雄叫びを上げて、ハンマーで壁や床を砕きながら追いかけてくる。
足はそこまで速くないものの、その尋常ならざる迫力は見る者を恐怖させるのに十分すぎる代物であった。
前を向いた沢田は冷や汗を掻く。
(ホラー映画の世界にでも迷い込んだのか!? 冗談じゃねえ!)
あっという間に四階まで戻った二人はぎょっとする。
三階への階段を塞ぐようにして、赤いスーツを着た大男が仁王立ちしていたからだ。
その巨躯は二メートルを超え、はち切れんばかりの筋肉を有している。
古傷だらけの顔は、鋭い眼光を以て二人を見据えていた。
上原は絶望のあまり佇む。
「挟み撃ち……」
「くそ、やるしかねえか!」
沢田は拳銃を構える。
銃口を向けられた大男は、臆することなく沢田に命じた。
「どけ」
「……は?」
「そこをどけェッ!」
凄まじい剣幕と共に大男が動き出す。
沢田は咄嗟に発砲を試みるが、大男に襟首を掴まれて投げ飛ばされた。
「うおあぉ!?」
軽々を宙を舞った沢田は壁に激突し、そのまま気を失う。
一連の光景を目の当たりにした上原は、震えながら大男を見上げる。
「あ、あの……」
「…………」
大男は上原を無視して横を通り過ぎる。
遅れてやってきたガスマスクの男は、依然としてハンマーを振り回していた。
新たな標的が現れたことに何の疑問も抱かず、フルスイングで大男に殴りかかる。
猛速で迫る打撃に対し、大男は無造作に右手を突き出した。
彼は素手でハンマーを受け止める。
鈍い衝突音が鳴るも、大男は顔色一つ変えずに立っていた。
彼は左手を握り締めて、お返しとばかりに眼前の男へ叩き込む。
刹那、血と肉片が爆ぜた。
巨岩の如き拳がガスマスクにめり込み、頭蓋を砕き、脳を木っ端微塵にした。
頭部が潰れた男は手足を痙攣させて、くたりと倒れ込む。
男はハンマーは握ったまま、二度と起き上がることはなかった。
一撃で抹殺した張本人である大男は、血に染まった拳をスーツで拭う。
彼は気絶した沢田をひょいと担ぎ上げると、腰を抜かした上原を見下ろす。
上原は驚きと恐怖ですっかり縮こまっていた。
「あうああ……」
「来い」
それだけ告げて、大男は四階の通路へと移動した。
大きな背中がフロアの奥へと消える。
取り残された上原は、慌ててその後を追った。




