表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第1話 奇妙な依頼

 黒スーツを着た若い女、上原は探偵事務所のドアを勢いよく開いた。


「せ、せせせっ、先生! 大変ですっ!」


「なんだやかましい」


 椅子で新聞を読む壮年の男、沢田は鬱陶しそうに顔を顰める。

 上原は膨らんだ茶封筒を沢田に差し出した。


「これが郵便ポストに入ってたんですけど……」


「ん? ただの封筒じゃねえか」


「いえ、中身の感触がちょっと……」


 怪訝そうな上原から茶封筒を受け取り、沢田はハサミでさっさと開封する。

 封筒を逆さにすると、札束が滑り出てきた。

 沢田と上原は、デスクに落ちたそれをまじまじと見つめる。


「……こ、こりゃ只事じゃねえな」


「一体いくらなんでしょうかね……」


「ざっと百万ってところか」


 札束には一枚のメモ用紙が挟まれていた。

 メモに気付いた沢田が引き抜き、そこに記されたメッセージを読む。


 ――朽津間ビル25階3号室にお越しください。依頼の前金は百万円、ここまでお越しいただけたら一千万円差し上げます。


 沢田は低く唸り、メッセージを何度か読み直す。

 それからメモ用紙を折り畳んで胸ポケットに仕舞った。

 彼は眉間に皺を寄せて嘆息する。


「おいおい。怪しすぎるだろうが」


「誰かのイタズラですかねえ」


「金は本物だ。単なる悪ふざけってわけじゃないだろう」


 沢田は札束を指でめくって確かめる。

 確かにぴったり百枚あった。

 上原は不安に満ちた表情で言う。


「どうします? 警察に相談した方が……」


「依頼を受ける。誰だか知らんが、ビルに行くだけで一千万だろ? 断る理由がねえよ」


「さ、さすがに危なくないですか」


「問題ない。ちゃんと準備すればいい」


 立ち上がった沢田は、百万円をコートのポケットに押し込んだ。

 そして不敵な笑みで助手に問う。


「一千万が入ったら何食いたい? なんでも奢ってやるよ」


「えっ!? じゃあ回らないお寿司! あっ、それと霜降りの肉とか!」


「よし、わかった。この依頼が終わったら全部食いに行くぞ」


「やったー!」


 上原は両手を上げて歓喜する。

 直前までの不安げな様子は吹き飛んでいた。

 そんな上原を一瞥し、沢田は財布を持って事務所の扉を開ける。


「昼メシを買ってくる。その間に朽津間ビルについて調べといてくれ」


「了解ですっ!」


 張り切る探偵と助手は、一千万円の獲得に向けてさっそく動き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ