表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と血と…【The dragon's blood go into overdrive】  作者: 西順


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/45

縁起物

「ほら、お前ら、もう時間だ。さっさと移動しろ」


「もう!?」


 エンマがイオマンテをわしゃわしゃしている間に、どうやらホームルームの時間は終わってしまったらしい。


「まだ、3人としか挨拶してないんですけど?」


 とエンマが戸隠に訴えるも、


「それは能力測定の時間にでもやれ」


 とのすげない返事。これにしゅんとしたエンマは、ハッと何かを思い出したかのように目を見開き立ち上がると、


「シュラっち、ラセっち、折り紙持ってる?」


 と周りからしたら意味の分からない事を口にする。が、シュラとラセツには、それだけで意味が通じたらしく、


「はい」


「これも」


 とラセツが折り紙を出すと、シュラの方はボールペンを取り出し、エンマに差し出した。


「タガっち、ちょっとだけ待ってて、今すぐ般若心経書いちゃうから!」


 エンマはタガにそう言うと、ラセツの左横の席に座り、凄い早さで般若心経を書いていく。それを覗き込むタガは、


「……物凄い達筆ですね」


 と感嘆していた。


「まあね。短い人生で1億回くらい書いてきたからね」


 エンマの言に、それは言い過ぎだろう。とタガは横のラセツとシュラを見遣るが、


「エン兄、梅ばあ様に叱られる度に1万回とか10万回とか書かされてきたから、多分合計したら、本当にそれくらい書いてきたかもね」


 とシュラが肩を竦める。それには開いた口が塞がらなくなる級友たち。何をやらかしたらそれだけ書かされるのか、逆に興味が湧くが、今はそんな場合ではなく、更衣室へ移動しなければならない。何なら般若心経なぞ書いている場合でもない。


 なのでタガがエンマに、「後にしよう」と声を掛けようとしたところで、


「はい、書き終わった!」


「もう!?」


 とエンマがそう口にした事に驚くタガ。いくら短い経典とは言え、こんな短時間に書き終わるものなのか? とタガがその文を覗こうすると、エンマは般若心経が書かれたその折り紙を三角形に折り始めた。


「え? それで終わりじゃないの?」


 タガが尋ねれば、


「もうちょっとだけ待ってて」


 とエンマは折り紙を慣れた手付きで鶴に折っていく。


「はい、完成!」


 表面に般若心経の書かれた折り鶴が、エンマの手で完成し、「はい」とエンマはそれをタガに渡そうとしてくる。が、これを受け取って良いものなのか、タガには分からず、またもラセツとシュラの方へ視線を向ける。


「縁起物だから、貰っておくと良いよ。うちの寺では、エン兄が般若心経を書いた折り鶴は、稀に寺務所で売りに出される大人気品なんだよ。これのお陰で願いが叶った。なんて話が出回ってて、年末は梅ばあ様に凄い数書かされてるぐらいだからね」


 それは確かに1億回くらい書いている事になりそうだ。とタガは思いながら、ぴっしりと綺麗な折り目の折り鶴を、エンマの手から丁重に受け取った。


「ほら、お前ら、さっさと更衣室行け! 遅刻するぞ!」


 エンマのあまりの早業に、驚いてその場で足を止めていた特一学級の級友たちだったが、戸隠の言に慌てて更衣室へ向かうのだった。


 ◯ ◯ ◯


 体育館で他の学級の学生たちが整列する中、遅れてきてその横に並ぶ特一の学生たち。


「いやあ、何とか間に合ったなあ」


「司馬のせいで、危うく遅刻する事になりそうだったがな」


 ふうっと額の汗を腕で拭うような仕草をするジャージ姿のエンマの後ろから、大福がチクチクとエンマの罪を口にする。


「あっはは、間に合ったんだから、ギリセーフ」


 とエンマはそれを軽く受け流し、そんなエンマに嘆息をこぼす大福だった。


「全員揃ったな! 今日は午前中に皆の能力測定をし、午後には、1年では初の、擬似戦闘訓練室を使った各学級対抗戦をして貰う! 午後の対抗戦だけでなく、この能力測定も皆の査定、点数に入るので、そのつもりで行動するように!」


『はい!』


 戸隠教官が、他の教官たちより1歩前に出て、今日のスケジュールの説明をする。その姿から、エンマはどうやら戸隠が学年主任なのだろうと当たりを付けた。


(まあ、特一の担任だもんな。それなりの能力と地位があって当然か)


 などとエンマが考えているうちに、他の学生たちは三々五々動き出す。どうやら仲の良い級友で集まり、体育館とグラウンドで行われる能力測定を回るらしい。


「どこから行こうか?」


 特一の男子学生たちは、シュラとラセツがエンマの下に集まったのを見て、自然と皆エンマの下に集まってきた。そうして、どこへ行くかシュラがエンマへ尋ねてきた。


 それに対してエンマが教官たちから手渡された用紙に目をやると、握力、背筋力、長座体前屈、反復横跳び、立ち幅跳び、垂直跳び、100メートル走、5000メートル走、と上体反らしが背筋力に変わっているくらいで、中学でやっていた体力測定と変わらない項目が並ぶ。が、そこに龍気量と言う、見慣れない項目を見付けた。周囲を見渡せば、何やら排気量を測る機械のようなものに、息を吐いている場所があり、そこで龍気量を測るのだろう。それにしても、


「流石はこの高校に入学を許されただけあり、皆、普通の高校生とは比べられないな」


 とエンマは体育館内で行われる能力測定を行っている1年生たちを見回し、素直な感想を漏らす。


「まずは体育館での測定が終わらせよう。それから外のグラウンドで100メートル走と、5000メートル走。その後、休憩を挟み、場所を訓練館へ移動して、近距離攻撃、中距離攻撃、遠距離攻撃の測定だな」


 口を開いて間抜け顔で体育館を見渡していたエンマに、大福が説明してくれた。エンマは成程と頷きつつ、


「近距離とか中距離とか遠距離って、武器は何でも良いの?」


 とエンマが大福に説明を求めると、大福はその説明をコーメイにパスした。


「武器の指定はないよ。既に持っている自分の武器を使用しても良いし、訓練館にある武器を試してみても良いみたいだね。まあ、最初だから、お試しも兼ねているんじゃないかな? どんな武器が自分に合っているのか、分かっていない学生もいるだろうし」


 これに納得するエンマ。ちらりと見れば、特一の女子は女子で固まって行動するようだ。


「まあ、項目順に上から埋めて行けば良いんじゃない? 特に急いでいる訳でもないし」


「ま、そうだね」


 とエンマの意見にシュラとラセツが首肯する。ここら辺は寺育ちだからか、周囲で測定を行っている学生たちが、自分が龍血でどれだけ能力が向上したかで騒いでいるのに対して、特に競争意識もないらしく、穏やかだった。


「そうだな。俺たちの凄さを見せ付ける意味でも、堂々と最後に回れば良いか」


 大福からしたら、エンマたちの落ち着き具合は、強者のそれに見えたらしく、これに同調するように首肯する。コーメイもそれに倣い、タガは自分を仲間と言ってくれたエンマと、行動を共にする気のようだ。


「では」


 とエンマたちはまず、握力測定へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ