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龍と血と…【The dragon's blood go into overdrive】  作者: 西順


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自己紹介

 朝のホームルームの時間となり、教室に入ってきた特一学級担任の教官が教壇に立つ。その姿は軍事教官らしく、がっしりした体格で、背筋がピンと伸びており、皮膚には薄く透明感のある鱗が貼り付いていた。そして教官は、肚の底から響くような声で、特一学級の学生たちに話し掛ける。


「えー、本日より、この特一学級で諸君らと共に対龍対策を学ぶ事になった……」


 とここで教官に呼ばれたエンマが教室へ入ってきて、巨体の教官、戸隠(とがくし)力雄(りきお)の横に立つ。


「紹介に預かりました、司馬エンマです。自分でも何でこの学級に放り込まれたのか分かりませんが、5年後、市民に寄り添い、頼りにされるような軍人となる為、しっかり頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします」


 エンマが自己紹介と共に頭を下げると、シュラとラセツが煩いくらいの拍手で迎え、他の学生たちもパチパチパチと、それなりの拍手をするが、その表情には、困惑が隠し切れずにいた。


「そう言う事だから、まあ、仲良くしていけ。将来軍人となった時、頼れる味方になれるようにな」


『はい!』


 戸隠の言葉に、大きな声で返事をする特一学級の学生たち。それを見届けた戸隠は、窓際のデスクに移動し、


「では、これから午前の授業までは、互いの理解を深める時間とする。各々が司馬に自己紹介をして、チャイムがなったら着替えて第二体育館へ集合だ」


『はい!』


 心地良い返事に、戸隠は鷹揚に頷き椅子に腰掛けた。その視線は、エンマたち特一学級の学生たちが、どのように立ち回るかを観察していた。


 それに気付いたとかではないが、教室を見回しエンマは眉を下げる。


「大ちゃま、学生の数と机の数が合ってなくない?」


 エンマの指摘通り、机が20台あるのに、学生数はその半分、10人しかいない。


「ここは特一学級だからな。ここより下の学級の学生が、良い成績を出したら、この学級に編入してくる。だから学生数よりも机の数が多いんだよ。って言うか、いきなり渾名で呼ぶな」


 と大福は不機嫌そうではあったが、級長らしく、ちゃんと答えてくれた。


「成程。でも学生数少なくない?」


 教室にいる学生は、丁度男子5人に女子5人だ。そこにエンマが加わるので、男子は6人となる。全校学生1100人の学校で、1クラス11人は少ないだろう。本来なら、20席埋まっていておかしくない。


「それだけ特一に編入されるのは難しいって事なんだよ」


 大福の説明に、それ程のものか。と頷くエンマ。それからエンマは学生たちを1人1人見回していく。


 エンマはシュラ、ラセツ、大福、コーメイの男子学生4人とは、既に面識があるので、知らない男子学生は、1人だけだった。その1人に視線を向けると、その学生が立ち上がり、エンマに近付いてきた。褐色の肌に南国の海を思わせるコバルトブルーの髪をした少年が、笑顔で手を差し出す。


「ボクは横井タガと言います。大宮島(おおみやとう)から来ました。よろしくお願いします」


「よろしく!」


 差し出された手をグッと握るエンマ。そうしながら、大宮島とはどこにあったか、エンマは頭をフル回転させる。


「あー、えー、おおみや……、大宮島は……」


 そしてピカッと思い出すエンマ。


「グアム! 確かグアムとか呼ばれている島だよな!?」


 エンマがグアムの名を知っていた事に驚いたのか、エンマの大声に驚いたのか、目を見開いてから、嬉しそうな笑顔となる。


「はい。現地語ではグアムと言います」


「やっぱり! 聞いた事あると思ったんだ! ならシュラとラセツと同じ出身だな!」


 地名を当てる事が出来て喜ぶエンマだったが、


「エン兄、俺らの出身は布哇(ハワイ)。大宮島じゃないよ」


 とシュラに間違いを指摘されてしまった。


 現在グアムやハワイは米国から日本に割譲されている。これは米軍が落とした次元爆弾により、世界中に龍が出現するようになってしまった為、世界各国から、その補償を求められたのだが、補償金程度で解決する問題ではなかった為、米国は国土の割譲を強いられ、米国はその領土の殆どを、他国に譲り渡す事となった為だ。


 これにより日本は北太平洋の殆どを領海とする大海洋国家となったのだが、海洋に多数出現する龍の為に、その8割は利用出来ずにいた。


 米国にしても、USAからUNSA(ユナイテッド・ナショナル・ステイツ・アメリカ)と名を変え生き残り、そのうえ、結局龍が各地に蔓延る為に割譲した土地間の行き来が難しく、米国主導で割譲地が運営されていた。現在の米国は、なんだかんだ各国の頭脳が集結し、征龍科学の最先端を行っている。


「あれ? 大宮島って、布哇諸島の1つじゃないの?」


「違う。大宮島は本島(にほん)の南で、布哇は東。場所が全然違う」


 ラセツに補足で指摘され、顔を真っ青にしたエンマは、バッと素早くタガに対して土下座した。


「申し訳ありませんでしたー!!」


「え? ええ!? いきなり何? そんな土下座しないで下さい。気にしていません。間違える人、多いですから」


 額を床に擦り付ける程のエンマの土下座に、結構引き気味に、そしてバツが悪そうに、土下座を止めて貰うように頼むタガ。


「そんな? だっていくら飛び地出身だからって、出身地を間違えられるなんて、嫌だったろ?」


 顔を上げたエンマは、本当に悪い事をしたと思っているとタガが分かるくらいに、悲愴な顔をしている。これを見て、逆にタガは笑いが込み上げてきてしまった。


「良いのです。ボクは貴方が間違いを認めてくれただけで、心が軽くなりました」


 そう言ってエンマへ笑顔を向けるタガだったが、そう優しく諭してくれたタガに対して、エンマの中にはまだしこりがあった。


「いや! しっかり反省の意思がある事を伝えたい! 般若心経の写経1000回でどうだろうか?」


「んん? どうだろうか、と言われても、それが何なのかボクには分からないんだけど」


 良く分からない反省の仕方を提案されて、困惑気味のタガへ、シュラが助け舟を出す。


「写経って言うのは、仏教の経典を手書きで写す事だよ。般若心経って言うのは漢字276文字と短い経典だけど、それでもご利益が凄いと良く話題に出る経典だね」


 これにタガは納得した。とは言え、たとえ276文字とは言え、それを1000回も書かせるのは忍びない。だが般若心経がどのようなものかは興味が湧いたタガは、


「それでは、般若心経を1回書いて下さい。それを見せて貰えたら、貴方を赦します」


 この発言に、パアと顔を明るくするエンマ。手を合わせ、


「貴方が仏か……」


 と呟かれては、タガとしては何とも表現出来ない顔をするしかなかった。


「くすくすくす。阿道くんと剣山くんが、凄い凄い褒めよるから、どんな大層な御人が来よるんかと身構えとったら、まさか芸人はんが来よるとは思わんかったわ」


 横からエンマに声を掛けてきたのは、手には扇面に朱と黒が交差する柄に、臨兵闘者皆陣烈在前と九字が書かれ、留め具である(かなめ)に五芒星があしらわれた扇子を持った、短い二本角が姫カットの黒髪から可愛らしく伸びている和美人であった。


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