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龍と血と…【The dragon's blood go into overdrive】  作者: 西順


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いわゆる天丼

「エン兄、そちらは?」


 席順はカルラ、センジュ、エンマ、シュラ。向かいにコーメイ、大福、ラセツが座り、シュラが2人いる先輩が誰なのか尋ねる。


「ああ、こちらは俺と同室の……」


「遍センジュだ」


 これを聞くや否や、エンマを除く1年生が一斉に立ち上がり、


『おはようございます!!』


 と大声で90度のお辞儀をする。


「ああ〜ああ、そう言うの良いから、さっさと座れ」


 それをやられたセンジュは、面倒臭そうにマジックハンドを振り、1年生たちに座るように促す。


『はい!!』


 これに勢い良く返事をして着席する1年生たち。このノリに付いていけず、エンマだけが何が起こったのかと、キョロキョロする。するとこれを面白く思ったカルラが、口に手を当て、「くくくっ」と笑っていた。


「普通は見知った上級生や、総長や席官に会ったら、こうやって挨拶するのが、この学校では通例なんだよ」


 とカルラは軍学校独特の習わしを教えてくれた。これに眉根を寄せるエンマ。明らかに嫌っているのを見て、更にカルラは笑いを深める。


「あ、僕は支援科第三席の奈良園カルラだ。よろしくな」


 カルラとエンマのやり取りを不思議そうに見ていた1年生たちに、カルラが自己紹介する。そしてそれを聞いて立ち上がろうとする1年生たちを、座るように促すセンジュ。


「え? もしやカルラ先輩も偉い人?」


「まあね。支援科、兵科共に、総長を頂点に、第二席、第三席……、と第九席までその科を纏める席次の役職の学生がいるんだよ」


「へえ」


 そうなると、第三席と言う立場は相当上になる。シュラたちがわざわざ立ち上がって挨拶しようとするのも納得だった。


「そう言えば先程、金成二席とか言っていましたね?」


「ああ、金成二席は女子だから、ここで会わせてはあげられないんだよねえ」


 これに得心がいったエンマ。


「香山は音楽隊の隊長もしているから、忙しくてエンマは会わないかもな」


 そんな補足を付けるセンジュ。どうやら金成第二席も、優秀な学生であるらしい。


「まあ、分かりました。じゃあ、食事にしましょうか。いただきま〜す」


 本当に理解したのか分からないエンマが、軽口と共に手を合わせて食事を始めるのを見て、大福とコーメイは眉根を寄せるが、上級生、それも総長が口出ししないので、これに忠告する事を憚った。


 センジュは素うどんを1本1本ゆっくりと咀嚼しながら、視線を1年生たちに向ける。向かいに座るのは、本当に高校生か怪しい、身長の低い少年に、別の軍学校ならその体型で弾かれていてもおかしくない巨漢の少年。それに色黒でがっしりした体格で、額の左に太い角を生やした少年、そしてエンマの右横には、怜悧なオッドアイの少年がいる。その中でセンジュが興味を示したのは、がっしりした色黒の少年だった。


「お前がラセツか?」


 いきなり名前を当てられて、食べていた味噌ラーメンを吹き出しそうになるラセツ。


「んぐっ、そ、そうですけど、何で名前を?」


 恐らくエンマが話したのだろう事は推測出来たラセツだが、だからと言って、話し掛けられるとは思わなかった。


「そうか、やっぱりか……」


 とセンジュのラセツを見る目は、どこか同情的だ。これを不思議に思い、ラセツがエンマの方を見ると、サッと目を逸らすエンマがいた。


「エン兄?」


 エンマにジト目を向けるラセツ。


「いやあ、昨日風呂に入った時に、…………ね!」


「ね! じゃないんだけど!? 本人がいないところで、その人のプライベートな部分を話すのは、明らかにマナー違反だよ!」


 ラセツが怒る理由が分からず、カルラ、大福、コーメイはきょとんとしているが、内容を察したシュラが口を開く。


「ああ、ラセツのち◯ちんが、体格からは想像出来ないくらい小さいって話か」


「シュラっち!?」


 これに静々と食事をしていたカルラたちが吹き出す。


「いやあ、悪かったよ。センジュ先輩のモノが、ラセツとは真逆で大層立派でね。思わずそんな話になってしまったんだよ」


「へえ、センジュ先輩はち◯ちん大きんすね」


 とシュラはこのての下ネタに抵抗がないようだ。


「ああ、それはそれは見事なモノだったぞ」


 これに悪ノリするエンマ。


「お前らなあ……」


 朝から下ネタのネタにされて、エンマとシュラへジト目を向けるセンジュ。これに、ごめんなさい。と言わんばかりに肩を竦める2人。


「まあ、なんだ。ラセツも、男は大きさじゃ……、な……、い……」


「センジュ先輩も、庇ってくれようとしてますけど、笑うの我慢してますよねえ!?」


 ラセツは顔を真っ赤にして抗議する。


「まあまあ、男だって、可愛らしい一面があった方がモテるらしいぞ」


 と宥めるシュラの顔はにやにやしている。


「こんな事で可愛いとか女子に言われたくないよ!」


 シュラを睨むラセツ。


「しょうがないよ、諦めろラセっち。お前のち◯ちんの栄養は、全てその頭に付いたタケノコに吸われちまったのさ」


 とエンマが追い討ちを掛け、これにはセンジュやカルラたちだけでなく、周囲で会話に耳を立てていた他の学生たちまでが吹き出す。


「あうう、本当にこの角折りたくなってきた」


 ラセツは心が折れたのか、それ以上反論するのを止めて、味噌ラーメンを食べる事を再開する。


「で、そっちの口の悪い方が、シュラか?」


「うえ? 俺ってそんな風に紹介されたんですか?」


 とエンマへ厳しい視線を送るシュラだったが、エンマはそんな話はしていない。と首を横に振るう。


「コーラ飲んでいるから、そう思っただけだ」


「ああ、それで。って、センジュ先輩もコーラ党っすか? 仲間ですね!」


 言ってシュラが握手しようと手を差し出すと、センジュの浮遊椅子からもう1本マジックハンドが現れて、シュラと握手をする。これに首を傾げるシュラ。


「……ああ。センジュ先輩、龍血の影響で、首から下が動かせないんだよ」


 とエンマは別に普通の事のように説明する。


「そうなんですね。それでその椅子なのか。……格好良いっすね!」


「格好良い」


「だよな!」


 シュラ、ラセツ、エンマは、そんな感想を続け様に声に出し、これにはカルラが驚かされた。これまで、センジュの身体の事を知った他の学生たちは、こそこそと陰口を言うのが当然だったからだ。それに比べて、この3人はなんと真っ更な人格をしているのか。それに好感を持つカルラだった。


「んで、そっちの2人は誰だ?」


 センジュは、説明のない大福とコーメイの方へ目を向ける。


「大きい方が大ちゃまで、ちっちゃい方がコーメイです」


「いきなり渾名で紹介するな!」


 これに髪を逆立てる大福。そして眼前のセンジュに向き直ると、姿勢を正して自己紹介を始める。


「宝来大福です。特一学級で級長をしています」


「ほう。今年の特一の級長は、徐福の弟だったのか」


「兄上をご存知でしたか!」


「仲は良くないがな」


 とサラッと流すように、うどんをすするセンジュ。どう言う事か? とエンマがカルラに視線を向けると、


「宝来徐福は兵科の第二席なんだよ」


 と理由を教えてくれた。センジュは3年生にして支援科の総長になった傑物だ。周りからのやっかみも凄いのだろう。


(折衝とか大変そうだなあ)


 などとエンマは考えながら、ガツガツとカツ丼を頬張る。


「それで? そっちは?」


 センジュの視線がコーメイに向けられる。


「はい! 毬栗亮です! 大福様とは同じ特一学級で、副長を……」


 と自己紹介するコーメイから、全員が顔を逸らす。良く見ればセンジュ以外肩を震わせていた。センジュのマジックハンドも何やら不思議な挙動をしている。


「コーメイ、ナイスオチ」


 訳が分からず困り顔のコーメイに、エンマはその毬栗頭を称賛するように、顔を逸らしながら親指を立てるのだった。


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