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龍と血と…【The dragon's blood go into overdrive】  作者: 西順


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空気読み。

「えっと〜、どちら様?」


 エンマは器用にバック走をしながら、自分に話し掛けてきた大柄な、直接的に言えば太った少年に尋ねる。


「俺様は宝来大福だ!」


「へえ、縁起の良さそうな名前だね!」


 と自己紹介してきた少年に親指を立てて答えるエンマ。


「ふふ。そうだろう」


 名前を褒められ、大柄な少年、大福は満更でもなさそうだ。


「それで? 大福くんは俺に何か御用かな?」


 エンマに指摘され、ハッと我に変える大福。


「そうだ! 俺様はお前がこれから学ぶ、特一学級の級長だ!」


「えっ!? 俺、特一に編入されるの!?」


 大福が級長である事より、自分が特一学級に編入される事に驚くエンマ。人工龍血一号と判明して以来、軍学校の事に関して意図的にシャットアウトしてきたエンマでも、軍学校の特一学級の事は流石に聞き及んでいた。軍学校ではその能力に応じて、1学年一組から九組まで存在するが、それとは別に、その上に特一学級と言う特に優れた学生を集めた学級が存在する。


「やった! エン兄、俺たちと同じ教室!」


「嬉しい」


 とエンマと教室が同じだと判明して、シュラとラセツは素直に喜ぶ。


「全く、編入初日から仁々木会長に目を付けられるような軽率な行動をしやがって、特一の格を落とすような行動は控えろ!」


「あっはっは、悪い悪い」


「それが軽率だと言っているんだ!」


 エンマの返事に、目くじらを立てる大福。


「何なんだ貴様は! ここは将来の征龍軍の士官を育成する、神聖なる学び舎だぞ! 1人が勝手な行動を取れば、統率が乱れ、入隊してから、救える命も救えない事態に陥る可能性だってあるんだ! 軽挙妄動はやめろ!」


「おお! 大ちゃん格好良い! 俺、今ちょっと感動しちゃったよ!」


「だ、誰が大ちゃんだ! 俺様を呼ぶ時は大福様と呼べ!」


 何とも上から目線な大福に、エンマは横を走るシュラとラセツへ目配せする。するとシュラが耳打ちしてきた。


「こいつ坊々(ぼんぼん)なんだよ。宝来財閥の子息とかで、いつも偉そうにしているんだ」


 これを聞いて、ふむ。と頭を働かせるエンマ。


「それはそれは失礼いたしました、大福様」


 とエンマは大福の後ろに回る。


「いやあ、流石は宝来財閥の御曹司様。これからは大福様の教えを胸に、この司馬エンマ、粉骨砕身の心構えで、勉学に励んでいく所存です」


「お、おう。分かれば良いんだ」


 いきなりエンマが下手に出てきたので、戸惑う大福。


「ささ、大福様に後方など似合いません。もっと、前へ行きましょう」


 とエンマは大福の背中を押し始める。


「お、おい。俺様には俺様のペースが……」


「そんな謙遜なさらずに! ほら! シュラとラセツも、大福様の前を走るな!」


 エンマの行動の意図は察せずとも、長く寝食を共にしてきた間柄。シュラとラセツはこのエンマの行動に乗っかる事とした。


「いやあ、気付かずに申し訳ありません、大福様」


「我々下々の者が、大福様の前を走るなど、とんだ思い上がりでございました」


 とエンマ同様大福の後ろへ回って、大福を押し始める。


「おい! やめろと言っているのが分からないのか!」


 3人に押されて、すぐに息が上がり始める大福。


「そんなそんな、遠慮など大福様に似合いません」


「先頭こそ大福様に相応しい景色」


「大福様、肩をお揉みいたしましょう」


「大福様!」


「大福様!」


「大福様!」


「ああっ!! 煩えー!! 貴様らは今後俺様を大福様と呼ぶのを禁止する!!」


 まるで電線に集る小鳥の如く、ピーチクパーチクと「大福様、大福様」とさえずる3人に、流石の大福も音を上げた。


「ええ? もうちょっと粘ってよ、大ちゃま」


 後ろから肩を揉みながら、大福の耳元で囁くエンマ。


「くっ、誰が大ちゃまだ。わざとこんな事しやがって」


 エンマの囁きに、顔をしかめる大福。


「まあまあ、良いじゃん。これから同じ教室なんだし、仲良くしようよ」


 あまりに呑気なエンマに、怒る気力を削がれた大福は、嘆息しながら苦虫を噛み潰したように走り続ける。それを後ろからまだ押し続けるエンマたち。


「お前ら、いつまでそれを続けるつもりだ?」


「うん。ずっとかな」


 普段より早いペースで走らされて、息が上がる大福は、横を走る小柄な少年に助けを求めた。


「コーメイ、こいつらどうにかしろ!」


 コーメイと呼ばれた少年は、沈思黙考とばかりに少し眼を瞑ってから、


「悩ましいですね」


 と率直な意見を口にした。


「何が悩ましいんだ!?」


「いえ、この3人、大福様がギリギリ出せる限界の速度で背中を押しているので、このペースで行けば、確かに普段よりも早くランニングを終わらせられますので」


 コーメイの冷静な分析に、眉根を寄せる大福。大福としても利があるなら、背中を押させるのも悪くないとの考えだ。ここら辺は財閥の子息らしく損得勘定が働いていた。


「うぐぐ……、貴様ら、ちゃんと背中を押し続けろよ!」


 大福が折れた。これにエンマはにやりと口角を上げながら、しっかり大福に意見した少年の方へ眼を向ける。


毬栗(いがぐり)亮です」


 眼を向けられ、自己紹介する亮。


「ぐふっ!」


 それに思わずエンマは吹き出してしまった。その坊主頭が、確かに毬栗を想像させたからだ。


「ごめん! 人様の名前で笑うとか、最低な事して! ……ぐふっ!」


「ぶふっ」


 謝るエンマだったが、謝る為に亮を見て、その毬栗頭にまた吹き出し、エンマが吹き出すものだから、ゲラのラセツも吹き出してしまう。これに露骨に嫌そうな顔をする亮。


「ごめんごめん。六根清浄、六根清浄」


「六根清浄、六根清浄」


「何がどっこいしょだ! 俺様が重いと言いたいのか!?」


 これに噛み付いてきたのは大福の方だった。


「どっこいしょじゃなくて、六根清浄だよ。目、鼻、耳、舌、身、意の6つの器官を清める為に、六根清浄と口にして、自戒しているんだよ」


 とシュラが説明する。自分が莫迦にされている訳じゃないと理解し、「そうか」と短く言葉を切る大福。


「うちの寺では、悪徳を行った時に良くこれを口にするんだけど、実はこれ、寺に伝わる伝統じゃなくて、現阿闍梨の梅ばあの実家の仕来りだったんだぜ?」


「何だそれは?」


 エンマの説明に、大福の頭の中はハテナでいっぱいになった。


「いや、なんか盛り上がっているけど、僕が莫迦にされた事実は覆らないんだけど?」


 これに対して、4人にジト目を向ける亮。


「ごめんって」


「謝罪はこちらを見ながら言って欲しいんですけど?」


「それには時間を下さい」


 エンマの態度に溜息を漏らす亮。


「そう言えば、どうして大ちゃまは毬栗くんの事を、コーメイって呼んでいるの?」


「なっ!? 阿道(あどう)まで俺様を大ちゃまと!?」


「大ちゃま。良い渾名」


剣山(けんざん)、貴様まで!」


 阿道シュラ、剣山ラセツを睨む大福。


「諸葛亮からでしょ」


 シュラの疑問に答えたのはエンマだった。


「ああ! 諸葛亮孔明から、コーメイなのか」


 と納得するシュラ。


「諸葛亮孔明って、諸葛亮・孔明じゃないの?」


 ラセツの方は疑問を口にする。


「いや、でも諸葛孔明とも言うじゃん?」


 これに反対意見を出すシュラ。


「諸葛・亮・孔明だな。諸葛が姓で亮が(いみな)、本当の名前で、孔明は(あざな)、本名とは別に名付けた名前だよ。昔の東アジア漢字圏だと、本名を言うのは失礼にあたるから、別に字を設ける文化があったんだ。劉備玄徳も、劉・備・玄徳だな」


 エンマの説明に、「へえ〜」と感心する者が3人。何故か亮をコーメイと呼んでいた大福まで感心している。


「何で大ちゃままで感心しているんだよ?」


 とエンマが尋ねると、


「リョウよりコーメイの方が格好良いだろ」


 などと言う反応だった。これには微妙な視線を向けるシュラとラセツだったが、エンマは、


「へえ、面白いね! 確かに、コーメイって響き、格好良いもんね!」


 と乗り気である。


「だろう?」


 何故かここで通じ合うエンマと大福。これに呆れるシュラとラセツだったが、話題にされた当の亮は、エンマは空気は読めないが、悪い人ではないのだろう。と考えを改めるのだった。


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