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1999④たぶん、勘違いだよ。

 私の熱が下がったのは翌日の土曜日で、翌月曜日から登校した。


 私はビクビクしていた。変に噂になっていたらどうしよう。部活に行ってトンボくんに会ったらどんな顔をしたらいいのだろう。どうしよう。

 文化祭が終わった学校は、何事もなかったかのように平穏を取り戻していた。私のクラスでは噂になっていなかった。どうやら文化祭の賑わいで、気づかれていなかったようだ。もしくはクラスで浮いた私のことに触れても面白くない、もし触れて私を弄ったことがナチュラルザビエルにばれたら内申を下げられる可能性もある。腫れ物には触らない、と言うことかもしれない。

 だとしたら残る心配は部活。先にマユミ…よりは恋愛ごとに興味のあるミノリに相談してみるか。アイはマユミと同じくトンボくんと同じクラスだから相談に行けない。ミノリのクラスはちょうど調理実習や体育で休み時間に教室にいないことが多く、部活前に急いでミノリに事の顛末を説明した。

 ミノリは「気まずいじゃん!」と言いながらも目は輝いていた。……楽しんでるな、これは。ミノリの陰に隠れるように部活に向かうと、あの恐怖の2年の先輩が笑顔で私に話しかけてきた。

「見たよ、あいつに告られてたやん」

 どうやら、偶然出し物の宣伝に1年生の教室を周っていた先輩に告白されていたのを見られていた。完全に詰んだ。詰んだ。私は先輩から「びっくりした?」「で、どう返事したの?」等といろいろ質問された。先輩の一人が弓の手入れをしている男の先輩を指さしながら「私も去年のこの時期、あいつに告られたん。その前は3年の先輩も同じことがあったらしいから」とそっと話してくれた。私の気持ちをわかるのは、同じ思いを経験した先輩だけ、ということだった。先輩たちは翌週の試合、3年生には引退試合となる秋季大会に向けて練習しており、本来なら我々1年の相手をする暇はないのだが、こういうゴシップは大好きなのだろう。先輩の視線が痛かった。

 そうこうしているとトンボくんがやってきた。あれ?トンボくんは丸坊主になっていた。先輩は彼に近寄り、彼を冷かし始めた。ミノリと私はどさくさに紛れてその場を逃げ出し、準備運動のランニングに向かった。

 

 ランニングから戻ると、アイがトンボくんをいじり倒していた。そして私に「あいつは成敗しといた」と一言返した。

 「成敗」の意味がわからなかったが、アイの話によると私に振られた翌日、つまり文化祭当日に彼は丹羽にも告白していたという。そして丹羽にも振られ、週末に髪を丸めて今日に至るという。アイは「あいつは女の敵だ」と静かに怒りを見せていた。ミノリは彼の坊主頭をひたすらいじり倒した。


 とりあえずしばらく彼と関わらなくていい環境が整えられたということだった。マイペースなマユミと話好きな本田が空気を読まずいつも通りでいてくれたので、比較的早く日常を取り戻し始めた。


 北風が吹き始め、16時を過ぎると寒さが厳しくなり始めた頃、トンボくんと丹羽が付き合い始めたと聞いた。あの告白から、丹羽の気持ちが傾き始めたのだろうか。私にはよくわからない。

 冷静になって考えたら、先に私に告白したということは私が第一候補だったのか?しかし、私には確実に振られると思っていたならば、私は練習台だということもある。例えOKになっても妥協して付き合える人物だったのか?

 考えなくてもいいことをもやもや考えてしまった。もやもやする。


 トンボくんと丹羽が付き合い始めたと聞いたと同じころ、私の弓の弦が切れてしまった。新しい弦をつけないといけないが手先が不器用なのでうまくつけられず困っていたらトンボくんが「新しいのつけようか?」と声をかけてくれた。私はお願いした。このことから、少しずつ彼とも会話を再開し始めた。

 彼と私は、私の返事どおり「お友達」として、関係を持ち始めたのだった。彼の髪は、少しだけ伸びてサボテンのようにつんつんしていた。


 多分丹羽が本命だったんだよ。そうじゃないと、丹羽に一回振られたのに付き合うだろうか?もし私が本命だとしたら、あとから丹羽に告白することなんかないはずだ。そもそも本当がどうであったとしても、私が好きなのは彼じゃない。彼が私に告白したのは、たぶん何かの間違いか冗談だよ。彼が好きなのは私じゃない。

 たぶん、彼が彼の気持ちを勘違いしたんだよ。

 私はそう思うことにした。



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