2000④トモダチ・シンユウ
「花火行こうよ」
ある日、ミノリから誘われた。町で一番のイベント、3日間開かれる夏祭りのイベントの一つ、花火大会のことである。中学生は生徒だけでの夜間外出が禁止されているが、夏祭りの3日間だけは21時まで外出が許されていた。「生徒だけの夜間外出」なんて中学生には魅力しかないことだった。去年はまだ1年生ということもあって参加しなかったので、今年はぜひ行ってみたいと思っていた。私は二つ返事で誘いに乗った。
当日は学校前で待ち合わせた。私は親に送り迎えしてもらうことになり、帰りは21時までに迎えに来てもらう場所を公衆電話で連絡することを約束していた。当時の田舎の中学生はよほど事情がない限り携帯電話なんて持っていない。今では珍しい緑色の公衆電話に、今では使い方を知らない人もいるというテレホンカードを入れて電話をする。大体の生徒は学生証にテレホンカードを挟んでいた。
ミノリと待ち合わせたのは18時、花火大会までは2時間程時間があったので、近くのスーパーのテナントに入っていたバンバーガーショップで軽く食事をすることになった。私は相変わらず外で食事が出来ない状態だったので、Sサイズのポテトとジュースだけ注文した。ミノリはLサイズのポテト付きのハンバーガーセットを注文して席にやってきたため「それだけでいいの?」と聞かれた。私は「あとで屋台のクレープが食べたいんだ」と本音を隠すように言った。ミノリは「わかる!私も食べたい」と返した。中学生の食欲は底知れない。
食事を平らげ、ゲームコーナーでプリクラを撮った。同じ発想の同世代の子ばかりで、数名同学年の子もいた。中には高校生だろうか、カップルでやってきて長い列を見て引き返していく人もいた。ミノリのクラスメイトもいて、ミノリがどんどん列を離れてその子たちに話かけはじめた。私はミノリが列を離れる分、列に並んでおとなしく順番を待っていた。結局、プリクラを撮るのに1時間近く並んだ。2人だけで撮るのは実は初めてだったかもしれない。小学生の時には、丹羽やガッサンをはじめ、当時仲の良かった数名を含めた大人数でこのスーパーのこのゲームコーナーでプリクラを撮っていた。当時はシールに切れ目が入っていて、端っこにいると顔が切れてしまっていたが、今は自分でハサミを入れて写真を切るので、画角に入っていれば顔が切れることはない。しかも自分たちで落書きやスタンプを押すこともできる。2,3年での機械の進化は素晴らしい。
スーパーを出るころにはすっかり暗くなっていた。
私は、ひそかに大浦に会えないかなと願っていた。声がかけられなくても、私服姿の彼を一目見ることが出来れば御の字である。……なんて意気地なしでストーカー気質な発想だろう。
そうこうしていると、海のある東側から「ドーン」という大きい音が響き始めた。私たちは海辺の会場まで歩き始めた。会場に近づくと人も増え始め、ちびの私はミノリについていくので必死になった。花火はどんどん大きく、打ちあがる感覚も狭まっていく。空にはきれいな赤、緑、青、ピンク、そして煙。
「近くで見ると大きいね」
「音もびっくりするね」
そんな会話をしながら、門限の21時ギリギリまで花火を楽しんだ。
「来年も来たいね」
「そうだね、来年も見よう」
帰宅してから妙にお腹がすき、人混みの多さと花火の迫力に圧倒されて、そういえばクレープのことを忘れていたのに気づいた。
結局大浦にも会えなかった。
でも今日はいいや、またミノリと見に行こう。とりあえず母に頼んで夜食にうどんを作ってもらった。
翌日は朝から部活だった。ミノリと昨日の話をした。するとミノリは「今日はガッサンと祭りに行く」「ガッサンは面白くて大好きだ」と言った。
あ、そうなんだ。
なんだか少し寂しい気もしたが、彼女の友達は私だけではない。もちろん私の友達も彼女だけではない。むしろ貴重な1日を私に使ってくれたことに感謝すべきである。でも、なんか。
彼女が私を「好き」と評したことはない。
心にもやもやしたものが残った。
でも、すぐに試合形式の練習が始まるから集合するようにとの声がかかり、練習に集中していたらその気持ちはどこかに消えた。




