魔封体質
(なんでだ?なんで抜け出せねぇんだ?……もしかして、こいつがあれか?魔封体質ってやつか?)
魔封体質、先輩の死神から聞いた話だが、この人間界に稀に産まれる特殊体質のこと。霊や怨念、黄泉の国の者をその体に閉じ込めることのできる体質。
(なんでよりによってそんな人間を引いちまうんだよマジでよ!、まあでも解決策はある。)
キッチンの方へと向かった俺は包丁を手に取る。そしてそれを自身の喉元に突き立てる。
「肉体が死ねば魂は解放されるからな。さっさと戻るか。」
喉を掻っ切ろうとしたが、その手が動くことはなかった。
その時感じたのは恐怖の感情、死に対する恐怖心が、この手を止めている。
そして、俺のいる精神世界に現れた、いや元からいたもの。黒く悍ましいそいつが俺のもとまで迫ってくる。
首を絞められる。声が出せない。
「ガッ!ぐぁ、カハッ!」
力を振り絞りその手を退ける。
「ハァッ、げほっ、けほっけほっ、はぁ、はぁ。」
姿が見えなくなる。まだ気配はあるがなんとか引いてくれたようだ。
しかしこれで余計に戻ることが困難になってしまった。死のうとすればまたあいつが出てきて死ぬことを阻止される。
(いやこれマジでどうやって帰ろう。早めに帰らないと先輩にブチギレられる。でもこれもう無理かな〜。)
もうしばらくはこの身体のお世話になるみたいだ。
(けど事情を話せば先輩も分かってくれるだろ多分。)
あーだこーだ考えながら適当に飯を食う。日付を見れば日曜日。明日は平日、何もしないのはあれなので人間界の学校に行ってみようと思い、こいつの記憶を漁る。
学校の名前と道のり、学校内でのこいつのキャラなどを色々見てから布団に潜り明日に身を委ねる。
スマホのアラームの音と共に目が覚める。布団が気持ちよかったおかげでぐっすり眠ることができ、最高の目覚めだった。だが気持ち良すぎるせいで布団から出たくない。
行かなくても良いが一応学校には遅刻せずに行ってみる。
初めてだけど知っている道を歩き、初めてだけど知っている学校に付き、席に座って本を読む。
授業が始まる。だがこれといって難しいものではなく、容易に理解できてしまう。
(学校ってたいして面白くないな、これなら家でゲームしてるほうがマシだな。)
休み時間、パンを買うために購買へ向かっていると、昨日のブス三人衆が現れる。
「よ〜泉黄、昨日の覚えてる?」
俺は少し顔を見たあとはそいつらの間を通り過ぎようとする。
「おっと逃さねぇーよ泉黄、よくもあたしの顔を殴ってくれたな!覚悟しろよ!」
そう言って拳を振り上げるそいつと左右で笑うブス。
なんか言うのも面倒くさいから降りてきた拳を掴んでそいつのことを睨む。
「な、なんだよ、生意気な奴だな」
構わず睨み続け圧をかけると怖気付いたのかそいつらは舌打ちをしながら去って行った。
その後は対して記憶に残っていない、特段面白いものもなかったからな。強いて言うなら購買のパンが美味かったぐらいだ。
何気に結構疲れたため、さっさと布団に入り、目を瞑る。