21話
春情「美しくもない奴に用はない!!」
春情の身体が一瞬で消えた。
目的は言わずもがな翠だ。
気絶してる翠に鋭い爪を脳に直接差し込み強引に名前を引き出し死屍にしようとしたのだ。
雫「ッチ!!」
「そっちには行かせないって!!」
「言ったでしょ!!」
雫は咄嗟に翠が飛んでいった方向に身体の向きを変え空間を切り裂く速さで駆け出した。
次の瞬間、翠の目の前に、春情の長い爪が迫っていた。
キィンッ!!
甲高い金属音。
雫の拳が春情の腕を弾いていた。
攻撃の速度は音速に迫り、衝撃波が周囲の地面を抉る。
春情「……ッ!」
春情の表情が一変した。
美しくもない、自分の好みでもない女に二度も攻撃を阻止された。
その事実が、春情の自尊心を激しく傷つけた。
春情「この糞虫が!!」
激昂した春情が指を鳴らす。
その瞬間、春情の周囲に控えていた五体の死屍、既に生命を失い、意思なき傀儡と化した者達が一斉に雫へと襲いかかった。
ドゴォッ!ガッ!バキッ!
四方八方から迫る死屍たちの攻撃。
普通の人間なら一撃で粉砕される攻撃。
その時雫の構えを変え、両手を胸の前に、重心を落とし、膝を柔らかく曲げる。
そしてその攻撃を雫はまるで水のように滑らかに捌いていく。
それはまさにキックボクシングの姿勢。
だが、そこには魔力も練り込まれている。
右からの拳は頭を傾けて回避。
左からの蹴りは身体を捻って躱す。
背後からの掴みかかりは肩を落として空振りさせ、正面からの突進は半歩下がって無効化する。
全ての動きに一切の無駄がない。
雫「この程度の攻撃当たる訳ないのよ!!」
雫が呟いた瞬間、五体の死屍が気づけば一箇所に密集していた。
それは雫が意図的に動きを調整し、彼らを誘い込んだ結果だった。
雫「フゥ!!!」
雫の右ストレート。
その威力は人間の域を遥かに超えている。
魔力で強化された一撃が、五体の死屍を纏めて吹き飛ばした。
ドガガガガァァァン!!
死屍たちが砲弾のように飛び、春情の足元に激突した。
土煙が上がり、岩が砕け散る。
雫「準備運動にもならないわね」
雫が挑発的に言い放つ。
春情「あらそう」
土煙の中から、春情の涼しい声が響いた。
春情「逆にこの程度の攻撃で死んでもらっちゃ困るわ」
土煙が晴れる。
春情の周囲に、今度は二十体もの死屍が出現していた。
その数は先ほどの四倍そして、一体一体の魔力も明らかに増幅されている。
春情「お前みたいな糞虫はもっと痛ぶらないと気が済まないからね!!」
雫が再構える。
拳を構え、呼吸を整え、全神経を研ぎ澄ます、だが
雫「え?」
雫の足首に、冷たい感触。
見下ろせば、地面から無数の腕が伸び、雫の両足首をがっちりと掴んでいた。
地中に潜んでいた死屍達、春情が二十体を見せつけることで注意を引き、その隙に地中から奇襲をかけさせたのだ。
雫「しまっ…」
次の瞬間、二十体の死屍が一斉に雫へと殺到した。
春情「さぁ!!殴殺よ!!」
ドゴォッ!ガッ!バキッ!
酷い音が周囲を包み込む。
春情「アハハハハハハハハハハハハ!!」
しかし、雫を攻撃したはずの数体の死屍が空中で砕かれ凍結した肉片に変わり始めていた。
春情「!?」
更に凍結した肉片の数が増し死屍の数が減っていく。
答えはすぐに明らかになる。
雫は足元を掴んでいた死屍たちを能力によって凍結していた。
いや、凍結というレベルではない、分子レベルで運動が停止し、完全なる氷の彫刻と化したのだ。
雫が足を振り払い、殺到してきた死屍達を次々と粉々に砕け散り、無数の氷片となって宙に舞っていた。
螺旋模様が青白く発光した次の瞬間、彼女のパンチが放たれる。
グローブから氷の軌跡が描かれ、悪魔の身体を凍てつかせていく。
戦いの最中、この螺旋模様が淡く発光するとき、彼女の拳は氷と水の力が宿り、悪魔を討つ神聖な武器へと変わるのだ。
雫「遅い!」
更に追撃をかけ、雫の身体が地面を滑り始めた。
足元に生成した氷の膜はスケートリンクと化し、雫に驚異的な加速力を与える。
ドゴォッ!ガッ!バキッ!
殴る!殴る!!殴る!!!
雫の拳が、迫りくる死屍を次々と蹴散らしていく。
追加で死屍を投入するも一体を殴り飛ばし、その勢いで次の一体へ、さらに次へ。
氷上を滑走しながらの連続攻撃は、まるで氷上の舞踏のようだった。
春情「チィッ!」
春情が舌打ちし、瞬時に大量の死屍を追加投入した。
同時に、自らは後方へと距離を取り、警戒態勢に入る。
ズガガガガァァァン!!
地面から一気に湧き上がる大量の死屍。
その奔流に飲み込まれ、雫の身体が空中へと放り出された。
雫「ムカつくわね!!」
「次から次へと!!」
空中で身体を捻り、完璧な受け身の体勢を作る。
雫の身体が回転しながら距離を取り、岩場に着地した。
着地の瞬間、足元に水のクッションを生成し、衝撃を完全に吸収する。
雫「どれだけの人間を死屍変えてるわけ?」
雫が呟く。
春情の周囲には、今や数え切れないほどの死屍が蠢き、完璧な防御の壁を形成していた。
雫「一気に片付けないと体力がもたないわね」
「…ふぅーー」
改めて気を引き締めて構えをとる雫。
次の瞬間、地面を抉るほどの力でパンチを打ち込んだ。
すると、凄まじい轟音と共に水が噴出した。
雫の両手から放たれた魔力が地中の水脈を活性化させ、制御し、春情へと向けて噴射させたのだ。
水の奔流は空気を裂き、音速を超える勢いで突き進む、そして。
ギャリリリリリッ!!
水の先端から急速に凍結が始まった。
水が氷へ、氷が氷槍へ、巨大な氷の槍が、春情を守る死屍たちを串刺しにしていく。
ドス!!ザシュ!!ブチブチ!!
死屍たちが次々と貫かれ、磔にされていく。
氷槍は容赦なく防御の壁を破壊し、ついには春情の直前まで到達した。
春情「くそっ!」
春情が横に跳ぶ。
氷槍が春情の頬をかすめ、一筋の血が流れた。
だが、それこそが雫の狙いだった。
雫「丸見えよ!!」
防御の壁が崩れ、春情の姿が露出した瞬間、雫は既に跳んでいた。
氷の足場を蹴り、驚異的な速度で距離を詰める。
拳を引き絞り、全魔力を込めて
雫「ハァーーーーーーーーー!!!」
雫の拳が春情へと迫る。
その瞬間、春情の口元が緩んだ。
ゴギィィィンッ!!
拳と拳がぶつかり合った。
雫「なに!?」
雫の目が見開かれる。
春情の背後から現れたのは、今までの死屍とは明らかに異質な存在だった。
その身体は筋肉の鎧で覆われ、身長は三メートルを超えている。
春情「こいつは特別製でね」
「まさかこの子を出すことになるなんてね」
春情が不敵に笑う。
ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
文章構成力不足でうまく読み取れない部分があるかと思いますが、暖かく見守って頂けますと幸いです。
ゆっくり投稿していきますので気長にお待ちください。




