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記憶の箱  作者: yamico
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休日

北海道の夏は終わったようだ。

9月も末になると過ごしやすくなった。

私は休日の朝からパソコンとにらめっこをしていた。


私はまずネットで『超能力』というものを調べた。

私が思いつくのは物を動かしたり人の気持ちを読み取るとかそのくらいだったからだ。

現実的ではない、ほとんどが架空のものだろうがそれは細分化されていた。


[エネルギー操作]

[念動力]

[テレパシー]

[特異体質]

[時空間操作]

[生命力操作]

[超常現象]


パッと見てわからないものが多い。

生霊になるなんて項目はないようだ。

あの村で私が聞いた話によると私には人の心を読む力はなかったと思う。

しかし人を思うように操ることはできたという。

あとは時間を戻したり進めたりもできないはずだ。


どうやら見る限り万能ではなかったようだ。

ここに書いてあるものの中にできないだろうことがたくさんあった。

ネット上で書かれていない能力もたくさんあったようだが。


私はまず念動力を試してみることにした。

部屋の中で静かにできるだろう。

私は机の上にある消しゴムに向かって(動け)と念じてみた。

最初はまったく動かなかった。

しかし頭の中でくるくる回る消しゴムを想像すると目の前の消しゴムはそのままの動きをした。

自分でやっておきながら自分でびっくりした。


私はそのまま消しゴムに(浮かべ)と念じた。

消しゴムはゆっくり浮かび上がりすぐに落ちた。


私は一瞬放心状態になった。

できるとは思っていたが実際にやってみるとそれはすごいことだった。

小さな鉄の玉を高速で飛ばすことができたら私に銃は必要ない。

また自分が兵器になる想像をしてしまった。


私は頭を振り、力をコントロールすべく練習をした。

間違って人のいる場所で発動してしまわないように。

私は集中していろんなものを動かした。

消しゴムから始まってベッドを浮かすところまでできるようになった。


この世界での私は力を使うと疲れるらしい。

午前中いっぱい練習した私はクタクタになった。

私は動いたベッドを元の位置に戻して横になった。

喉が渇いた。

お腹も空いた。

しかし冷蔵庫までの数歩が動けなかった。


私は冷蔵庫に向かって(ペットボトルの水 ここまで出てこい)と念じた。

冷蔵庫は開き、ペットボトルが出てくるとゆっくりと閉まった。

ペットボトルの水はこちらにヨロヨロと向かってくる。

疲れているとこの力の精度も下がるらしい。


水を飲むと少し元気が出た。

マラソンでもしていたかのように体が重かった。

(先が思いやられるな)


私はそのまま目を閉じた。

少し寝ようと思った。


すぐに私は真っ暗闇にいることに気がついた。

ドアを探すとすぐ後ろに現れた。

私は迷わずにドアを開けた。


────


私は久しぶりにあの村にやってきたようだ。

あの家のあの部屋にいた。

テーブルの上には私が小さくした家電が並んでいた。

さっきまでクタクタだったのにここに来た途端、体は軽くなった。

霊体だからだろうか。


私はこの村に用事があったわけではなかったが少し散歩したくなった。

いい天気だった。

私は家の建ち並ぶ方とは反対の何もない方へ歩いた。

草原が広がっていて気持ちのいい風が吹いていた。


ここには不安も恐怖もない。

私のような人なのか霊なのかもわからない存在も分け隔てなく扱ってくれる。

この村にいる魔族の人たちはかつて人間に迫害され、攻撃され、村を追われたのだという。

見た目が醜いという理由だけで。

醜いと思ったのは多分人間だけだろう。

人間は自分と違うものに恐怖を抱きやすい。

そしてその恐怖から攻撃をしてしまう。

愚かな生き物なのかもしれない。


ここで何か力を使ってみようかとも思ったがこちらとあちらがまったく同じようになるとは限らない。

カリナの家に遊びに行こうかとも思ったがなんだか気がすすまなかった。


ここにいた頃の私は努力を重ねてたくさんのスキルを身に着けたと言っていた。

まだ始めたばかりの鍛錬は私に先の見えない果てしないことのように思わせた。

教科書もない、先生もいない、見たこともないそんな力をコントロールするにはどうやるのが効率的なんだろうか。

誰にも気がつかれずにやり遂げるためにはどうすればいいのだろうか。


考えれば考えるほどに途方もないことに思えた。

私は草原に横になり風を感じた。

緑のいいにおいと風の心地よさを感じた。

このままここで昼寝でもしたい。

そう思ったが私が気がついた。


これは逃げだ。

私は現実から逃げるためにここに来たのだ。

これではいけないと思った。

私は目を閉じたままあっちの世界に戻るように念じた。


────


目を開けると狭い部屋の中にいた。

私は気持ちを切り替えて自分を奮い立たせた。

(ご飯を食べればやる気も出るさ)

私は冷蔵庫を開けて何かあるか確かめた。

飲み物ばかりだった。

仕方なく私はお湯を沸かしてカップラーメンを食べることにした。


(このカップラーメンは世界一美味しい)と念じてみた。

そんなマインド・コントロールみたいなことをして意味があるのかはわからない。

しかしカップラーメンは美味しかった。

ただお腹が空いていたからなのかもしれないがいつも食べるそれとは何かが違う気がした。

何事も気持ちの持ちようなのかもしれない。


念動力はかなりコントロールできるようになったので違うことをしてみようと思った。

この部屋の中で物音をたてずにできることはないか。


テレパシー系の人を巻き込むものはだめだ。

人に迷惑のかからないものは何かないか。


私はずっと避けていた『物を創り出す』ということを試すことにした。

何もないところにものを出すのだ。

最大のチートスキルではないか。

私が何かを出すたびにどこかで誰かが奪われていなければいいのだが。


私はフルーツ牛乳を思い出した。

あの時、温泉で魔王と飲んだアレだ。

(フルーツ牛乳出てこい)と念じるとテーブルの上に瓶のフルーツ牛乳が出てきた。

この世界でもこのスキルは使えるようだ。


私は何か難しいものを出してみようと思った。

(手のひらサイズの車 出てこい)

私は実家にある車を縮小したものを出そうとイメージした。

コトンと音がしてそれは出てきた。

きちんとドアやトランクが開いた。

キーもついていてボタンを押すと車は光った。

ブレーキを踏んでいないとエンジンはかからない仕様のようでこの小さいものを操作することは私にはできそうになかったがきっと本物のように動くだろう。

私は少し感動していた。

この力があれば私はこの先、勉強も仕事もしなくても生きていけるではないか。

きっとお金を出そうと思えば出るだろうし、金でもダイヤモンドでも出てくる気がする。


試しにダイヤモンドのついたゴールドのチェーンのネックレスを出してみた。

私にはそれが本物かはわからないがキラキラした美しいネックレスがそこに出てきた。

(これはまずいかもしれない)


今は私も倫理的によろしくないと感じているから歯止めがきいている。

しかし欲に溺れたらどうなるだろうか。

次から次へと金目のものを出して売り出したら…。

そんなもの湧いてくるはずがないからまずは窃盗を疑われるだろう。

こんな何も特技のない大学生が持つべきではないものを持っていたらまず犯罪を疑われる。

身を滅ぼしかねない。


この力は本当に必要なとき以外は使わないほうがいいだろう。

私はネックレスを引き出しの奥にしまった。


あとは瞬間移動だとか透明化したりだとか派手なやつだ。

失敗したらまずそうなものばかりだった。

炎や水を出すにもこの部屋では危険だ。


私は自転車で行ける範囲に人がいない場所はないかと考えてみた。

ここは市内でもかなり住宅や商業施設が多い。

大きな公園に行っても人が大勢いるだろう。

山もあるが高級住宅街になっている。


やはりあの村で試してみるのがよかったかな。

透明化したところで誰かに見てもらわないと本当に見えなくなっているのかもわからないし。

私は今日は諦めて次の休みの日にあの村で試すことにした。

あの村へ行く感覚もなんとなくわかってきた。

多分行きたいと思えば行けるだろう。


こうして私の休日は過ぎていく。

時間が空くと勉強もしている。

本来一番やらなくてはいけないことだ。

隣の部屋から大音響の音楽が聞こえてきたときに私は感覚的にその音のボリュームを下げることができた。

勉強をしている間、私にだけ聞こえないようにと念じてみたのだ。

日々の細々したことにこの力は大いに役立った。

チートのようで私だけずるいとかなと最初は思ったが慣れとは恐ろしいものだ。

不都合があるとつい力を使っている気がする。

やっていることは些細なことだが気をつけないといけない。


この力に依存するようなことになったら最悪だ。

それだけは絶対に避けないといけない。


────

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