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記憶の箱  作者: yamico
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決意

北海道にも残暑があった。

地球温暖化の影響だろうか?

夏は涼しく冬寒いという印象があったのに夏はしっかり暑かった。

もう9月だというのにまだ暑い日がある。

これで冬がしっかり寒かったら詐欺だ。


私は大学生活に戻り、新しい家庭教師の生徒を受け持った。

今度は中学生の男子だ。

その子はマキトくん13歳。

とてもおとなしい子で大人の男性が苦手なのだという。

学校へは行けたり行けなかったりだという。

特にいじめを受けている様子はないというが学校へ行こうとすると具合が悪くなってしまうらしい。

先生の半数は男性だろうから苦手意識があるのならストレスとかで体調も悪くなってしまうのかもしれない。

初めて会ったマキトくんはとても中性的な美しい姿をしていた。

肌は透きとおるような白さでサラサラの髪の毛は地毛だというのに少し茶色かった。

まるでお人形がそこに立っているようで私は一瞬見惚れてしまうほどだった。


マキトくんはとても従順な優しい子だった。

確かに少しでも乱暴な子がクラスにいたら嫌だと思ってしまうかもしれない。

見た目が中性的なこともあり、嫉妬なんかもあって弄られることもあったかもしれない。

きっと強く言い返せないマキトくんにはストレスがたまるだろう。


それでも両親が心配しないようにと頑張って学校に行こうとしているのだそうだ。

健気ないい子だ。

授業を受けられなかった分を教えてほしいということだったがとても頭の良い子で教科書を読んでワークをさせるとスラスラと問題を解くことができた。

「勉強は好きなんだよね。運動は苦手だけど。」

そう言って、はにかんで笑っていた。


予定していた範囲はすぐに終わってしまう。

予習までやっても時間は余った。

私は早めに終わるか聞いたが少し話がしたいと言われた。


「僕ね、多分中身が女の子なんだ。」


家庭教師として3回目に会ったときにマキトくんはそう言った。

私はすぐに「そうなんだ。」と返事をした。

そう言われても何ら違和感がなかったからだ。

「変だと思う?」

「世の中にはそういう人もたくさんいると思うよ。」

私がそう言うとマキトくんは少しホッとした様子だった。

「この話をするのは初めて。なんでだろう?さち先生には聞いてほしいなって思ったんだ。」

「他の人には秘密?」

「そうだね。理解してくれない人のほうが多いと思うから。」

「そっか。」

マキトくんはそう言いながら涙を流していた。

「ごめん!何か気に触ること言っちゃったかな?」

私が焦ってティッシュを渡すとマキトくんは驚いていた。

「あれ?なんで涙が出てるんだろう?」

気がつかないうちに涙が出ていたらしい。

「私にもそういうときがあるよ。なんでかわからないけど、そういうときは我慢しないで思いきり泣くとスッキリするよ!」

私はそう言ってティッシュを箱ごと渡した。

マキトくんはしばらく泣いていた。


「ごめんね、さち先生。」

「ぜんぜん!スッキリした?」

マキトくんは「うん」と言って笑い顔を見せてくれた。

「まだ下に行きたくないんだけど…少し時間を延長してもらえないかな?」

マキトくんは恥ずかしそうにそう言った。

泣き顔を母親に見られるのは嫌なようだ。

「私は大丈夫だよ!少し伸ばしたいってお母さんに言ってくるね。」

私は階下にいるマキトくんのお母さんに「難しい問題が途中になりそうなので終わるまで延長したい」と言った。

延長料金は要らないからとお願いしたらお母さんは驚いて、「マキトが引き止めたのですか?珍しいこともあるのね。」と言った。

私の前に来ていた先生は予定の範囲が終わったらすぐに帰されていたのだという。

「ご無理を言って申し訳ありません。もちろん延長した分はお支払しますので。」

マキトくんのお母さんは嬉しそうにそう言った。


マキトくんの部屋に戻るとマキトくんは顔を仰いでいた。

「もうちょっと待ってね。」

マキトくんは鏡を見ながら泣いたあとが消えるのを待った。

こういうところは子供らしくてかわいい。

「せっかくだから難しい問題やってみようか。」

私は1年生のマキトくんに2年生の問題を出した。

解き方を教えるとすぐに理解して解いてくれた。

「マキトくんは本当に理解力があるね!」

「数学は好きなんだ。さち先生は教えるがうまいし。」

階段を上がってくる音が聞こえた。

マキトくんは小声で「大丈夫かな?」と言って自分の顔を指差した。

私は黙って頷いた。

マキトくんはお母さんより先に部屋のドアを開けた。

「ちょうど終わったところだよ!2年生の数学を教えてもらったんだ。」

マキトくんが嬉しそうにそう言うと飲み物を持って上がってきたお母さんが目をパチパチさせていた。

「遅いから飲み物でもと思ったんだけど。」

私は帰る用意をしていたがせっかくなのでいただくことにした。

マキトくんはお母さんに解いた問題を見せていた。

私はお茶を一気飲みして「ごちそうさまでした」と言った。


二人は玄関まで来てくれて「ではまた来週!」と嬉しそうに手を振ってくれた。

私は一礼して自転車をこいだ。

私はこぎながら、私の反応はあれでよかったのかと思い返した。

友達付き合いの経験が少ない私にはかなり高度な話題だったように思える。

笑顔で別れてきたがもしかしたら私が帰ったあと落ち込んでしまったかもしれない。


私は部屋についてもなんだか心配だった。

マキトくんにとってもあの話は勇気のいることだったろう。

(マキトくん大丈夫かな)

私は目を閉じてマキトくんのことを考えた。

急にふわっとする感覚がした。

目を閉じているのに目の前が見えた。

かと思うと視線は屋根の上になった。


(この感覚 覚えてる)

あっという間にマキトくんの家の前が見えた。

そのまま壁を通り抜けていった。

マキトくんの家の中が見えた。

お父さんも帰ってきたようで三人でご飯を食べている。

「今日は二人ともなんだかご機嫌だな。」

「そうかな?別に普通だけど。」

マキトくんは照れくさそうにそう答えた。

「今度の家庭教師の先生とはウマが合うみたいで。楽しそうに勉強してたわ。今日なんて時間を延長してまで数学をやったのよね。」

「そうだね、さち先生はなんだか信頼できる気がするんだよね。教えるのうまいし。」

「まだ大学1年生だって言ってたからちょっと不安だったが…よかったな。」

マキトくんたちは楽しそうに喋りながら夕食をとっていた。


私はこれが夢なのか現実なのかわからなかったが安心した。

マキトくんが笑っているならそれでいい。

そう思ったら急に目の前は真っ暗になった。

私はゆっくりと目を開けた。

やっぱり自分の部屋にいる。


今のは何だったのだろうか?

私が不安に思ったから勝手に脳が妄想を見せたのだろうか。


私はもしかしたら使えるだろう力を使わないようにしてきた。

何かを強く望んだらそうなってしまうような気がしていた。

あの村でムイが言っていたように、もし本当に私に何か力があるのならば誰にも知られてはいけない。

何かきっと悪いことが起きる。


今のはあちらの世界で聞いた話によると『生霊』の類かもしれない。

私はよく本体を置いて霊体になって色んなところへ行っていたらしい。

その姿は高度な能力があっても見ることができなかったという。

気配を感じることができる人はいたということだったが。


私は自分の体を確かめた。

変なところはない。


もう一度やってみるのも怖かった。

この世界で私だけが異物なのかもしれないと感じた。

私は人間でも霊体でもない何かになってしまったのだろうか。

こんな力、望んでいたわけではないのに。


私は食堂でお弁当にしてくれてある夕食を食べた。

食べないと寮母さんが心配してしまう。

まだ数個残っている。

遅くまでバイトを頑張ってる子もいるみたいだ。


薄暗い食堂で1人。

私は急に恐怖感に襲われた。

呼吸ができなくなった。

息をしないとと思うけれど上手にできなかった。

これが過呼吸だとすぐにわかった。

ビニル袋があればすぐに治るはずだ。

私はキッチンに向かい何かないか探した。

すぐに目当てのものは手に入り、私は鼻と口を覆った。

これでゆっくり呼吸すれば治るはずだ。


苦しくて涙が出た。

死んでしまうんじゃないかと思った。

そしてわかったことが1つあった。


私は死にたくないと思った。


こんな何者かわからない状態になった今でも生きたいと思っている。


呼吸は正常になり私は苦しさから解放された。

深く呼吸すると血液が巡っている感覚がした。


私が何をしたというんだ。

記憶のない頃に人を呪っていた罰なのか。

涙が止まらなくなった。

食堂のキッチンで座り込んだまま私は静かに泣いた。

食堂には誰も来なかった。

私があのまま呼吸困難で倒れてしまったとしたら助からなかったかもしれない。


私は心に決めた。


私に何か力が与えられたとしたのなら、それとうまく付き合わないといけない。

私は医者になるんだ。

人の命を救いたいと本気で思っている。


私はお弁当箱を洗って片付けた。

そして部屋に戻ると力について考えた。

(人にみつからないように小さなことから始めよう)


そうして私はこの不思議な力を使いだした。


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