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記憶の箱  作者: yamico
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夢か現実か

私は天気を操る人間になったのだろうか。


真夏の空はどこまでも青く、さっきまで雨だったのが嘘のように太陽が輝いていた。

雨のおかげで少し涼しく感じた。

妹は濡れたスニーカーを太陽の光が当たる場所に干していた。


私はお母さんが妹のお弁当を作るついでに作ってくれたおかずで遅めのお昼ご飯を食べた。

妹はTシャツ短パンに着替えてスイカを食べている。

「お姉ちゃん、後で数学教えて。」

「いいよ。」

私はそう答えたが気持ちはざわざわしていた。


さっきのアレは何だったのか。


数年前に天気を操るようなアニメ映画が流行った。

私は観ていないので内容はよくわからないけど。

それに似たような現象がここで起きているのかもしれない。

私は確証を得るためにまた雨でも降らせてみようかとも思ったが、いろんな人に迷惑がかかりそうなのでやめた。

だから私の心は落ち着かずにざわざわしている。


食べ終わった食器を洗い、居間の食卓テーブルで妹の数学をみることにした。

私も数学はそんなに得意ではない。

しかし高卒認定をもらうために必死で勉強したばかりなので教えるのは苦じゃなかった。

妹も私と同じようなところで躓いていたようだった。

「お姉ちゃん教えるのうまいね。わかりやすいよ。」

「一応家庭教師だからね。今は休業中だけど。」

「クビにでもなったの?」

妹はそう言ってフフフと笑った。

「生徒さんが引越しちゃっただけだよ。」

私は妹に消しゴムを投げつけた。

「なーんだ。」

妹は笑いながら問題集に集中した。


田舎のおじいちゃんの家に引越したリンちゃんは元気だろうか。

昔の私はいじめられても死にたいなんて考えてはいなかった。

日記を見てもそんな書き込みはなかった。

バカみたいな呪いの数々で日々楽しんでいた。

自分で見てもかなり危ないやつだ。

そんなことでモチベーションを上げて楽しく暮らしていたなんて。


妹は小一時間勉強をしたかと思うと「今日は終わり!」と言って自分の部屋に入っていった。

私はまた誰もいなくなった居間に一人でいた。

静かになるとまた昼間のことを思い出してしまう。

私は考えるのをやめて自分の部屋で本でも読もうと思った。


妹はどうやら誰かと電話で話をしているようだ。

息抜きも必要だろう。

私はベッドに横になった。

枕元に何かあった。


見覚えのあるカードだった。

『シアさんの身分証です』

夢の中で執事のムイが私に手渡してくれたものだ。

私はおそるおそる手に取ってみた。


夢の中で見たはずのものが目の前に現れた。

また空中にステータス画面のようなものが現れたのだ。


・名前 色野 幸

・年齢 20

・種族 人間

・レベル 不明


昨日見たものとは違った。

しかしスキルはそのまま同じだった。


これはいったいどういうことなのか?

私は起きているのか眠っているのか、夢か現実なのか、頭の中がごちゃごちゃになってしまった。

もしかしたら今この状況も事故に遭ったままの眠った私の見ている夢かもしれない。

私は目覚めずにそのまま眠っているのかもしれない。


私はとりあえずそのカードを机の上に置いた。

目の前に浮かんでいたステータス画面も消えた。

おそらく今のこの世界の技術では今見たようなカードを持っただけで空間にモニターがあるかのように文字が浮かび上がったりはできないだろう。

特に操作するものもないのに。


私はほっぺを叩いたりつねったりしてみた。

ちゃんと痛い。

しかしこれが夢ではないという確証もない。


下の階から物音が聞こえる。

お母さんが帰ってきたのだろう。

私はざわざわする心を落ち着かせるために晩御飯の準備を手伝うことにした。

お母さんは「珍しいわね」とちょっと嬉しそうに言った。

手伝うといっても私は料理なんてほとんどしたことがない。

お母さんに言われるまま邪魔にされつつも台所に立っていた。


何かをしていれば考えなくていい。

私はいったい何なのか。

私はいったいどうなってしまったのか。

また眠ればあの世界に行くことはできるのか。

次から次へと疑問ばかりが浮かんでくる。


私は気もそぞろで晩御飯を終えた。

何か話をしながら食べたはずだが何を話したのか、まったく覚えていない。

お風呂も済ませて私は部屋に戻った。

ベッドに横になると(もう一度あの世界に行けますように)とお願いをして目を閉じた。


────


私はまた暗闇の中にいた。

(成功した!)

私はどこか光っている場所がないか探した。

あの美しい村にまた行きたい。


光っているものはなかなかみつからなかったがいいにおいがしてきた。

カレーのにおいだ。

私はクンクンとにおいを嗅ぎながらその場所を探した。

足元でコツンと何かに触れた。

手探りでそれをみつけ持ち上げてみた。

カレーのにおいはここからしているようだ。

小さな箱だった。

私は開けようといろいろやってみた。

箱はすんなり開いた。

私はカレーのにおいに包まれた。

一瞬グラッとしたかと思うと私は外にいた。


空には満点の星空があった。

街灯はほとんどない。

あの村に来ていた。

(夜だから光ってなかったのかな)


見覚えのある家からカレーのにおいがしている。

カリナの家だ。

部屋に明かりはついているが何時なのかはわからない。

こんな夜中に訪ねていいものだろうか?

私は少しウロウロしたが外を歩いている人はいない。

私は意を決してカリナの家のドアを叩いた。

「ごめんください。夜分遅くに申し訳ありません。」

カリナはすぐにドアを開けてくれた。

「シア様!どちらへ行ってたのですか?」

私は家の中に入れてもらった。

「寝て起きたら元の世界にいたんだよね。」

「そうだったのですね。心配しましたよ!」

カリナに聞くと丸一日いなかったのだという。

時間軸はそんなにズレてはいないということか。


「私が今見ている世界は夢かもしれないんだよね。全部私の想像かもしれない。」

そう言うとカリナは首を傾げた。

「私にはすべて現実ですが…」


あの暗闇の中で箱を開けるたびにどちらかの世界に行くことができるとでもいうのか。

どちらも夢じゃなくて本当なのかな。

「シア様、カレーライスがありますけど食べられますか?」

カリナは嬉しそうに私に聞いてくれた。

「お腹は空いてないけど何だか少しだけ食べたいな!」

普段はそんなにカレーを食べたいとは思わないのだが、どうしてかここでこのにおいを嗅ぐと食べたくなった。

カリナは小さめのお皿に少しだけ盛ってくれた。

「明日の昼にみんなで食べようと思ってたくさん作ってたんですよ。」

確かに大きな鍋にたくさん入っていそうだった。

「子供はカレーが好きだよね。」

「はい!コーヒーも人気ですがシア様に教えてもらった料理の中ではカレーライスが1番人気ですよ。」

私がここでカレーライスを教えたのか。

この世界にもたくさんのスパイスがあるのかな。

私が何も言わずにカレーをみつめているとカリナが心配そうに言った。

「シア様…まだ思い出せませんか?」

私は俯いて頭を縦に振った。


「思い出せないけどここにいるとなんだか元気になるし、居心地がとてもいいんだよね。」

私がそう言って微笑むとカリナも嬉しそうにした。

私はカレーライスを食べ終わり食器を片付けようとした。

その瞬間カリナの家のドアが勢いよく開いた。


「シア!!会いたかったぞよ!!」


そう言ってツインテールの少女が現れた。

「魔王様!」

カリナは驚いて頭を下げた。

「魔王様…?」


「そうじゃったな。記憶がないのだな。」

魔王は悲しそうな顔になった。

「ごめんなさい…」

「よいよい!温泉にでもつかれば何か思い出すかもしれん!行くぞ!」

魔王は私を引っぱりどこかに連れて行こうとした。

私はカリナに「ごちそうさま」と言って外に出た。

外には魔王についてきたと思われる従者の姿があった。

「温泉に行くぞよ!」

私たちは美しい星空の下をみんなで歩いた。

畑には様々な野菜が実っていた。

(季節感があまりないように見えるな)

何か特別な力が働いているのかもしれない。

果樹園のようなところにも様々な果物が実っていた。

魔王は歩きながらリンゴを1つもいで食べていた。

「魔王様!お行儀が悪いですよ!」

「しかたないじゃろ!赤くて美味しそうになっているものだから!」

魔王は子供のように叱られていた。

私はその光景を懐かしいと思った。

魔王といえばみんなから恐れられる存在をイメージするが目の前にいるその人はとてもかわいらしい人だった。


村のはずれに温泉はあった。

日本にある銭湯のような佇まいでなんだか落ち着く。

魔王は慣れた感じで女湯に入っていった。

入場料を払うところがない。

中にはきれいなタオルが並べられている。

従業員は見あたらないが誰かが運営してくれているのだろう。


魔王は先にお湯につかっていた。

「やっぱり温泉はよいのぉ。」

私も隣に入った。

少しぬるめのお湯は私好みだった。

ゆっくり入ってられる温度だ。


魔王はここにいた頃の私の話をしてくれた。

「おぬしは本当にヘンテコな魔法ばかり使ってのぉ。見たことのないものばかり作っておったよ。」

「魔法…」

そんなファンタジーなものがこの世界には存在しているのか。

私は自分の手を見た。

「杖でも使うのですかね?」

「わしは杖を使うがおぬしは頭の中で念じるだけで発動すると言っておったぞ。」

念じるだけで魔法が使えるなんてチートみたいなものか。

そういえば私のスキル欄にチートと書かれていたがどういうことなのだろう。


魔王は「先にコーヒー牛乳飲んでおるぞ」と言って上がっていった。

私ものぼせる前にあがることにした。

魔王は美味しそうに瓶のコーヒー牛乳を飲んでいた。

「フルーツ牛乳はないんだね。」

私がそう言うと魔王は「なんじゃそれは?」と詳しく聞いてきた。

私は説明しながらフルーツ牛乳を想像した。

「同じように瓶に入っていて…何のフルーツが入っているのかわからないけど甘くて美味しいんだよね。」

(フルーツ牛乳飲みたいな)

私がそう思うと目の前に見覚えのある瓶に入ったそれが現れた。


「それがフルーツ牛乳か?今出したのか??」

魔王はびっくりしたようにそれを見ていた。

私もびっくりしてそれを見た。

「おぬしはレベル1に戻ったと聞いておったが。もう1本出せるかのぉ?」

私は(もう1本出てこい)と念じた。

フルーツ牛乳は2本になった。


魔王は1本取り、においを嗅いで飲みだした。

「これは!なかなかうまいぞよ!」

私もおそるおそる飲んでみた。

記憶にあるフルーツ牛乳の味だった。

私が魔法で出した。

信じられなかった。

願っただけで好きなものを出せるなんて。

そんな能力があるなら世界征服も可能かもしれない。

私はロケットやミサイルを出しては破壊行為をする自分の姿を想像して身震いした。


「まぁ焦らずゆっくりでいいから…いろいろ思い出せるといいな。」

魔王はそう言って優しい顔で私の頭を撫でてくれた。

少女の姿をした人に頭を撫でられるのは照れくさいが悪い気はしなかった。


魔王はその後、笑顔で私に手を振り例のドアをくぐって消えていった。

私はカリナの家に帰った。

カリナは寝室を準備してくれていた。

「また起きたら消えているかもしれない。」

私は先にそう言っておいた。

「わかりました。でもまたすぐにこちらに来てくださいね!私はいつでも歓迎します。」

不思議なおやすみの挨拶だった。

眠りにつくだけだというのに永遠の別れのようでもあった。


私は眠るのがなんだか怖く感じた。

次にあの暗闇で箱を手にしたとき、私はどこにいるのだろうか…


────

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