表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の箱  作者: yamico
35/36

儚い夢

『建物の所有者と連絡が取れました。』

警察官が偉い人に小声で報告していた。

『よし、突入するぞ。』


合図と共に警察官たちが倉庫に流れ込んだ。

「警察だ!おとなしく手を上げて出てこい!」

パソコンを操作していた男はすぐにシュンくんのいる車に乗った。

帽子の男は驚いていたがすぐに裏の方へと逃げて行った。

その先にも警察官がいてすぐに取り押さえられていた。


車に乗った男はナイフを片手にシュンくんを抱きかかえて出てきた。

「殺すぞ。」

「やめろ!これ以上罪を重ねるな!子供を離せ!」

緊迫した空気が流れた。

警察官たちは動くことができなくなった。


私はナイフを取り上げるのは簡単だったけどこんなにたくさんの人に見られている場所でそれをやるのは不自然すぎるので躊躇した。


何か自然にこの男をどうにかできないだろうか。

私は倉庫内を見回した。

男の真上に何かを吊り上げるために使っていただろうチェーンがぶら下がっていた。

(あれを男の頭に落とすか)


私はシュンくんにぶつからないように慎重に長さを計算して男の頭の上にそのチェーンを落とした。

チェーンは男の頭にぶつかるとそこで止まった。


男はナイフを落としてその場に倒れた。

シュンくんは男に抱えられた状態で泣いている。

怪我はないようだ。


警察官たちは一瞬何があったのかと止まったがすぐに偉い人が「確保!」と叫んだ。


後藤さんはすぐにシュンくんを抱え上げ、犯人から引き離した。

「もう大丈夫だよ。」

口のガムテープをゆっくり剥がして目隠しを取り、手足のロープを解いた。


外のパトカーにはシュンくんの両親が乗っていた。

二人はすぐにシュンくんの元に駆け寄って抱きしめていた。

救急車が到着して母親はシュンくんと一緒に病院へ向かった。

父親は後藤さんの手を握り、「ありがとうございました」を連呼していた。

「病院まで送ります。」

父親はパトカーに乗り込んで病院に向かって行った。


後藤さんは倉庫を上から見ていた私にピースサインをした。

私はそれを見てすぐに意識を戻した。


────


もう23時を過ぎていた。

私は精神的に疲れてそのまま寝ることにした。

髪の毛はぐちゃぐちゃのまま乾いていた。

(明日の朝またシャワーを浴びないと)


私はぐっすり眠った。

何も夢を見なかった。


────


次の日の朝、後藤さんから電話がかかってきた。

『色野さんおはよう。後片付けが忙しくて直接お礼を言えないんだ。電話で申し訳ない。』

「いえ、別にそんなこと気にしなくて大丈夫です。シュンくんは元気ですか?」

『あぁ、長時間水分も与えられていなかったみたいなんだけど脱水もないし怪我もなかったよ。本当に良かった。全部色野さんのおかげだよ。』

「それはよかったです。では仕事なので失礼します。」

私はそう言って電話を切った。


無事でよかった。

私は軽い足取りで青い鳥に向かった。


常連さんたちは新聞とニュースに夢中だった。

昨日指揮を取っていた偉い人がコメントをしていた。

「誘拐事件だって!怖いねぇ。」

「子供が助かってよかった。」


私は警察官になるのは無理だと改めて思った。

精神的に持たないだろう。

次から次へと出てくる犯罪者に被害者。

私はきっと耐えられなくなる。

私が壊れて世界を爆発させたりしたらどうしよう。

想像できてしまった。


「さっちゃん顔色悪いけど大丈夫?」

マスターが心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫です!」

私はほっぺを叩いて気持ちを切り替えた。


仕事を終えて店を出ると後藤さんがこちらに走ってきた。

「色野さん!お疲れさま!」

「何やってるんですか?」

「後片付けが終わったから帰って休めって言われたんだ。」

「そうだったんですね。お疲れ様でした。」

さっさと帰って休めばいいのにと思ったけど言わなかった。


「どうしてもお礼がしたくて。焼肉でも行かない?」

「肉?!」

お腹が鳴るのがわかった。

「すぐ近くにあるから、行こう!」

私は肉と言われて断ることができなかった。

「はい!」


歩いて5分くらいのところに小さな焼肉屋があった。

煙がもくもくと出ていて外までいいにおいがしている。

テーブルにつくと店員さんが卓上に七輪を置いてくれた。

「何でもいける?」

私は頷いた。

「酒は?」

「飲めません。ウーロン茶でお願いします。」

後藤さんはビールとウーロン茶とカルビやらホルモンを注文してくれた。

「とりあえず乾杯しよう。」

後藤さんは疲れているのに嬉しそうにビールを飲んだ。


「ここ、ホルモンがうまいんだよ。」

「前から思ってたんですけど後藤さん、ここら辺に詳しいですよね?」

「あれ?言ってなかったっけ?この近所に住んでるんだよ。」

「そうだったんですか!知りませんでしたよ。」

私たちは事件や仕事と関係のない話で盛り上がった。

思いのほか楽しい時間になった。

お肉もとても美味しかった。


私は警察官になるのもいいかもしれないと考えだした。

辛い事件は多いけど解決するとこんなにも嬉しい。

やりがいのある仕事だ。


「ごちそうさまでした。経費で落ちますか?」

「落ちるわけないだろう!」

後藤さんは楽しそうだった。

「遅いし、送っていくよ。」

「いやいや、むしろ私が送ったほうがいいくらい酔っ払ってるじゃないですか!」

後藤さんは「エヘヘ」と言って笑った。

家の方向が違ったので私たちはそこで解散した。


────


いつものように青い鳥で働いていた私は最後の客を見送って『CLOSE』の看板を出そうとしていた。

そこにフラフラしながら一人の男が入ってきた。

酒臭いその男は椅子に座ると、「ビール持ってこい」と言った。

「申し訳ありません。当店はお酒を置いておりません。」

と丁寧に断るとその男は私を睨みつけた。

「無いなら買ってこいよ!クズが!」

男はそう言ってテーブルを叩いた。


私はカチンときて(今すぐ謝罪して出ていけ)と念じた。

男はすごい形相で「すいませんでした」とだけ言って店を出ていった。

片付け中のマスターが「どうした?」とキッチンから出てきた。

「なんでもありません!」

私は気にせずに片付けを再開した。


「お疲れ様でした。」

私が店を出るとさっきの男が待ち伏せをしていた。

私は無視をして家の方へ歩いた。

男はついてくる。

私は振り返り「何か用ですか?」と聞いた。


男は私を睨んでいる。

「お前、あの時の女だろう。」

私はこの男をジロジロとよく見たがまったく記憶になかった。

「どなたかと間違ってませんか?私はあなたなんて知りませんけど。」

「いいや、さっき何か魔法を使っただろう?悪魔の仲間だろう?そうだろう?」

(魔法と悪魔という言葉を使うということは…)

私は鑑定してみた。


・名前 江戸晴人

・年齢 29

・種族 人間

・レベル 不明


鑑定してもわからなかった。

年齢が同じだから学校が同じだったとかだろうか?

「シア…そうだ、お前の名前はシアだろう?見た目は違うけどこの気配は間違いない。」


どうやらこの男はあちらでの私を知っている。

だとしたらなぜここにいるのか。

「何言ってるんですか?警察呼びますよ?」

私がそう言うと男はニヤニヤしながらいなくなった。


私は気分が悪くなり急いで家に帰った。

何度も振り返り追いかけられていないか確かめた。

鍵をかけてドアの覗き穴から外を見た。

誰もいない。


私は安心して椅子に座りこんだ。

心臓がバクバクしていた。

(いったい何者だったんだろう?)


考えてもわからなかった。

気にするのはやめて早く寝ることにした。


────


私はまた真っ暗闇に来ていた。

目の前にある箱から赤黒い何かが見え隠れしている。

これは絶対に開かない方がいいやつだ。

そう思っているのにいつも開けてしまう。

私は赤黒いモヤモヤに包まれた。


目の前にはおかしな格好で空中に浮かんでいる男の姿があった。

私はこの男を知っている。

『勇者』だ。

ガオルという極悪な魔王に操られていたんだっけ。

確かあの時、悪魔がこっちの世界に…


あの男はこちらに送り返されたあの時の勇者だ。


勇者は不気味な格好でこっちを見て笑っていた。


私は気持ちが悪くて目を開けた。

ベッドで寝ていた。

時計を見るとまだ5時だった。

もう少し寝ていたかったが眠れなかった。


私は少し早めに家を出て散歩がてら遠回りで行くことにした。

(久しぶりにいちょう並木に行ってみようかな)


朝のいちょう並木には人がいなかった。

もう少ししたら学生たちがたくさんこの道を歩くだろう。

私は誰もいないいちょう並木を歩いた。


晴れていて気持ちのいい朝だった。

私は道の真ん中で両手を上げて伸びをした。

とても気持ちがよかった。


次の瞬間、背中に違和感を感じた。

(この感覚 覚えている)


振り向くと昨日の男がそこにいた。

男は距離を詰めてきてぶつかるかと思った。

(気配を感じなかったな)


お腹に温かさを感じた。

男は一歩下がるとニヤニヤしながら走り去っていった。

お腹を見るとそこに包丁が刺さっていた。

どうやら元勇者は私を刺して逃げて行ったようだ。


治癒魔法をかけようとしたができなかった。

どうやってやるのかわからなくなっている。


私はその場に倒れたようだ。


空が青かった。


警察官になるのもいいな、と思った。

悪いやつを捕まえて懲らしめるなんて、いい仕事じゃないの。

次の試験は9月って言ってたっけ。

勉強間に合うかな。


私は青い空を眺めて、ぼんやりとそんなことを考えていた。


気が遠のくのを感じた。

目が霞んで空が見えなくなってきた。

もしかしたら私は死ぬのかもしれない。


この世界はチートという異物を許さなかったのかもしれない。


私はきっと排除されたんだ。

世界の均等を守るために。

それならしかたがないか。


私はもう前が見えなくなっていた。

体も動かない。

小鳥の声だけが聞こえた。

この鳴き声はスズメだろう。


────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ