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記憶の箱  作者: yamico
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おつかい

青い鳥は日曜日が休みだ。

マスターになぜ日曜日なのかを聞くと普通の会社員に憧れたからだと言った。

だからこの店は閉店も早いわけだ。


私は休みの日にすることがない。

何かパソコンでできる副業みたいなものはないだろうか。

私は朝早くから簡単な副業を探した。

『好きな時間に!スキマ時間に!悩み相談!』広告にそう書かれていた。

どうやらチャット上で悩みを聞く仕事があるらしい。

対面も電話も嫌だけど誰かに相談はしたいという人がこの世の中にはいるらしい。

なんだか気持ちがわかる。

ただ聞いてほしいだけの時ってある。


私は『24時間好きなときに』というのに惹かれて応募してみることにした。

性別や年齢、性格など細かく聞かれた。

特技を書く欄があったので『医療』と書いてみた。


本人確認や給料の振込先などを記入して、登録が完了した。

どうやらここまでできる人は全員採用のようだ。

それもそのはずで、こちらがオンラインであることを表示して、相談したい人はこちらのプロフィールなどを確認して相手を選べるというシステムだった。


だから選ばれなければ1円にもならずに時間だけ拘束される羽目になる。

私は騙されたような気持ちになった。

こんなのにお金を払って相談してくる人が本当にいるのかどうか。


サイトを見ると待機中の相談員が10人以上いた。

顔写真を載せてる人もいて何のサイトなのかわからない。

まるで出会い系のような印象さえ受ける。

顔写真を出している女性の相談員が『現在相談中』と出ていた。

これがサクラか何かじゃなければ少なくとも利用者はいるようだ。


私は試しにオンライン表示を出して待機してみた。

最初の三分は料金が発生しない。

お客さんはチェンジし放題というわけだ。


10分ほど待ってみたが冷やかしのような人しか来なかった。

これは完全にダメなやつかもしれない。

そう思ったときにハナというハンドルネームの人がやって来た。


『おはようございます。もしかしてお医者様か看護師さんですか?』

『医師免許は持っていますが病院に勤務はしていません。』

『医療関係の質問をしてもいいですか?』

『私でわかることであればお答えしますよ。』

初めて料金が発生した。

ハナさんは初のお客様になった。


ハナさんは28歳の会社員で最近お腹だけが出てきたのだという。

最初は妊娠かと思ったが検査は陰性。

太っただけかもと思いダイエットをしているがお腹は出てくるばかりなのだという。


『実際に診てみないとわかりませんが、卵巣の病気でお腹が膨れるという症状が出ることがあります。まずは婦人科に受診してみてはどうでしょうか?』

私がそう教えると卵巣が悪さをしてこんなにお腹が膨れることもあるんですね、と驚いていた。

ハナさんは早めに休みを取って婦人科に行ってみると言って退出していった。


これで20分ちょっと。

給料にすると400円くらいである。

これはもしかすると早めに見切りをつけたほうがいいやつかもしれない。

こんなので本当に稼げるのだろうか?


ログアウトしようとするとまた『病気の相談』が来た。

意外とそういう悩みを抱えている人はいるのかもしれない。

病院に行くのが面倒だったり怖かったりして行けないでいる。

ひどい症状じゃなければわざわざ会社を休んだりはしない。

誰かの後押しが必要なんだろう。


その後も数人の相談に乗った。

合計2000円くらい稼げたことになる。

ダメかと思ったが暇を弄ぶくらいなら少しでも稼げたほうがいいのかもしれない。


私はログアウトしてお昼ご飯を食べることにした。

お昼と言ってももう2時を過ぎていた。

冷凍のミートソースパスタをレンジに入れた。

6分間を待ちながら昨日の強盗たちのことを思い出した。


彼らは今日の深夜に決行すると言っていたが本当だろうか?

変更したりしていないだろうか?

私は心配になりソファに腰掛けると生霊になって昨日のマンションに向かった。


髭の男以外はまだ寝ているようだった。

髭の男はテーブルにロープやハンマーを並べて準備をしているようだった。

ガムテープと革の手袋をそこに付け足して大きな鞄に全部入れた。

そしてスマホであの娘のSNSを確認している。

娘はどうやら羽田空港にいるようだった。

おしゃれなカフェの飲み物を写真に撮ってアップしている。

「アホなやつらだぜ。」

髭の男はそう言うとニヤニヤ笑っていた。

女がその言葉で目を覚ました。

「もう起きてたの?」

「ワクワクして眠れなくてな。明日にはうまいもの食わせてやれるよ。」

「ネックレスとか時計があったら私にちょうだいね。」

「わかってるよ。任せておけ。」


私はそこで見るのをやめた。

どうやら今のところ予定通りのようだ。

念のため歯科医の家も見に行った。

業者と思われる格好をした人が電柱に何か取り付けているように見える。

近づくとどうやらそれはカメラだった。

下からではわかりにくい。

きっと警察のものだろう。

隣人の庭でも何かをしている。


後藤さんはなんて言ってこの家が狙われていると言ったのだろうか。

まさか『生霊が見てきたので』なんて言っていないとは思うけど。


私は意識を戻して出来上がったパスタを食べた。

数百円で手軽に家でこの味を食べられるなんて。

日本の企業努力には頭が下がる。


食べ終わった私はベッドでゴロゴロしていた。

強盗のことが気になりはじめるとそればかり考えるようになってしまった。

失敗したらきっと後藤さんは怒られることになるだろう。


今私ができることは何もない。

私はそのまま目を閉じた。


────


また私は暗闇にいて箱を持っていた。

私はいつものように箱を開けてしまう。


私は生霊となって空を飛んでいる。

ここは…あちらの世界だ。

自然豊かな土地が目下に広がっている。

すぐに大きな街に来た私は街の中を見て回っていた。


大きな通りにはお店が並んでいる。

昼間だというのに酒場には冒険者たちが酒盛りをしていた。

近くにダンジョンでもあるのだろう。

酒場の奥で男たちがヒソヒソ話をしている。


『城の倉庫に財宝がゴロゴロあるらしい。』

『それを盗もうっていうのか?』

『たくさんあるんだ。1つや2つや3つくらいなくなっても気がつかないさ。』

『どうやって盗もうっていうんだ?』

『なぁに、兵士の格好してりゃ誰も気がつかんよ。』

『お前、賢いな。』

男たちはそう言って酒を飲み笑っていた。


私は男たちの言っていた城の倉庫を探した。

中には確かに金で造られた像や宝石のついた剣などがたくさんあった。

私はそこに呪いをかけた。

(盗もうとしたら動けなくなる)


そこに一人のメイドがやって来た。

メイドは財宝の横にある小麦や砂糖の棚から何かを取ろうとしていた。

その瞬間、彼女は動かなくなった。

何かを盗もうとしたらしい。


『神様お許しください。私の家は貧しくて妹や弟たちが家で飢えています。だからつい、出来心で…もうしません。どうかお許しください。』

メイドは固まったままそう言って涙を流している。

私は彼女の拘束を解いた。

そして彼女のポケットに怪しまれない程度の銀貨を入れた。

メイドは走って倉庫を出ていった。


生まれが違うだけでこんなにも格差が生まれてしまうなんて。

私は悲しくなった。


────


そこで電話が鳴り私は目を覚ました。

「はい、色野です。」

『色野さん!後藤です。昨日はありがとうございました。少しお願いがあるのですが。』

「なんでしょうか。」

『彼らの予定に変更がないか犯行予定の数時間前に確認してもらえないかと思いまして。』

「昼に見たときは鞄に道具を詰めていまきたけど…わかりました。22時頃また見てみますよ。」

時計を見るともう夕方だった。

少し眠っただけに感じていたがそうではなかったようだ。

『助かります!返事は電話でもメールでも構いませんので。よろしくお願いします。』

また後藤さんは『おつかいよろしく』という感じで言ってきた。

私をなんだと思っているのだろうか。


私は冷蔵庫の中身が寂しくなっていたので自転車で少し離れた安いスーパーに行くことにした。

冷凍パスタをたくさん買ってこよう。


────


21時を過ぎている。

私はなんだかそわそわしてしまって少し早いけど例のマンションを見に行くことにした。

男たちは黒い服に身を包んでいた。


太った男は行かないようでTシャツに短パン姿でパソコンを弄っていた。

『沖縄は暑いってよ。』

モニターに映し出された写真には娘が撮ったと思われる夕焼けのビーチが写っていた。


髭の男が茶髪の男に段取りを説明していた。

『庭のここに木があるからこれさえ登っちまえばすぐベランダにつく。このでかい窓には警報装置がついてるからこっちの小さい窓から入るぞ。』

男は図面を見ながら侵入経路の確認をしていた。

二人とも慣れているようで髭の男はすぐにその図面をたたんで鞄に入れた。

『金庫はあるかな?』

『裏金でも貯めててくれるといいな。』

『金庫にパスワードが必要かもな。適当にリストアップしておくよ。』

太った男はパソコンで何かを調べだした。

どうやら歯科医院のホームページや家族のSNSから誕生日や記念日を探していた。

みつけるたびにメモ帳に数字を書き込んでいる。


なかなか賢い人たちなのかもしれない。

この才能を活かせる仕事はきっとあるはずだ。

私は医師免許があるのに医師にならなかったので人のことは言えないなと反省した。


22時になるまで観察していたがまだ出かける様子はない。

私は一度後藤さんに連絡することにした。


「色野です。実行は髭の男と茶髪の男で、太った男は部屋からサポートするようです。まだマンションの中にいます。それと警備会社に情報を流している人がいると昨日言ってました。」

『了解です!1人は留守番なのか…一気に捕まえたいな。色野さんありがとうございます。あとはこちらにお任せください。』


警察はきっとあのマンションも見張っているのだろう。

私は昼寝が長すぎて眠くならなかった。

気になったので彼らを観察することにした。


────


深夜1時になると『そろそろ行くぞ』と言って二人の男はマンションを出ていった。

二人は黒い軽自動車で移動し、歯科医宅の近くにある空地の歩道に車を停めた。


男たちは足早に歯科医宅の庭に入った。

言っていた場所にちゃんと木があり、髭の男はロープを取り出すとうまくそれを太い枝にかけた。

茶髪の男は身軽でロープを使ってすぐに木の上まで登ってしまった。

茶髪の男はロープを下に放り投げると髭の男はそれを鞄にしまった。

茶髪の男はガムテープのようなものを小さい窓に貼り、窓を割って中に入っていった。


時間にすると約5分くらいだった。

二人とも手慣れている。

髭の男は裏口で待ち、茶髪は裏口の鍵を開けて中に侵入した。


二人が入ると捜査官のような人たちがたくさん出てきて家の周りを囲んだ。

後藤さんは裏口から数人を連れて中に入っていった。

慎重に進み犯人を探しているようだった。

犯人たちは1階と2階に別れて物色していた。

居間を物色中の茶髪は後ろから来た後藤さんたちに取り押さえられ、口を塞がれてすぐに屋外に連れて行かれた。

後藤さんと二人の警察官が静かに2階に上がっていく。


髭の男は物音に気がついたようで窓から外を見た。

捜査官がいることに気がついた髭の男はゴルフバッグからゴルフクラブを1本取り出して前に構えた。

後藤さんたちはそれに気がついていない。


髭の男はうまく部屋に隠れ、そこに後藤さんがやってきてしまった。

(危ない!)

私は反射的に髭の男からゴルフクラブを奪っていた。

ゴルフクラブは部屋の壁に飛んでいき、びっくりしている髭の男に後藤さんが飛びかかった。

無事に取り押さえられ手錠をかけられた男は警察官に連れられて行った。


後藤さんは私の方を見て『助かりました!』と口パクで伝えてきた。

私はまた反射的にやばいと思って意識を戻した。

(ゴルフクラブを飛ばしたのが私だってバレちゃったかな…)


私はベッドに入り布団をかぶった。

無理やりにでも寝ないと明日がきつい。


────



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