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記憶の箱  作者: yamico
30/36

ルイちゃん

ルイちゃんは小児科の個室に移された。

その方が話を聞きやすいだろうと小児科の先生がベッドを用意してくれた。


ルイちゃんは「お母さん、殺されちゃったかも。」と言った。

私は「どうしてそう思うの?」と聞いた。

「私も殺されそうだったから。」

ルイちゃんはそう言ってオレンジジュースを一口飲んだ。


刑事さんはルイちゃんを処置したときに使った物すべてを保存するように言った。

安倍さんの他にも刑事さんがやって来た。

さっき聞いた住所に至急向かうようにと連絡していた。

廊下は緊迫した空気になっていた。


私は「そんなひどいこと、誰がしたの?」と聞いた。

「お母さんの彼氏。トウヤくんって人。」

「そっか。怖かったね。」

ルイちゃんは私の方を見て「お母さんを助けて。」と言った。

私は頷いて「刑事さんにお願いするね。」と言った。


私は「助けて」と言われたときに私なら助けられるかもと思った。

このまま生霊になってお母さんをみつけて治癒魔法をかけて、犯人の男をみつけて懲らしめるくらいすぐにできそうだ。

しかしルイちゃんは私の腕を離してくれなかった。


刑事さんが写真を撮りたいと言った。

ルイちゃんは嫌がったがすぐ終わるからとなんとか了承させた。

ガーゼを一度剥がして全身の写真を撮るようだった。

私はその隙に「トイレに行く」と言ってその場を離れた。

(お母さんの命だけでも救わないと)


私はトイレに行き生霊になってさっき聞いた住所まで飛んでいった。

まだ警察は来ていないようだった。

アパートの名前を聞いていたのですぐにみつけられた。


問題の部屋には明かりがついている。

ドアには血がついていた。

ルイちゃんがつけたものならいいのだけれど。

私はすぐに部屋の中に入った。

男の姿はない。

女の人が血だらけで倒れていた。

私はすぐに治癒魔法を使った。

全回復したら怪しまれるので致命傷だけ治るように調整した。

女の人はその瞬間パチッと目を開けて私を見た。

いや、見た気がした。


女の人はゆっくりと起き上がった。

そして「ルイ?!」とルイちゃんを探し出した。

パトカーのサイレンが聞こえた。

私はここは大丈夫だろうと意識を戻してルイちゃんのところへ戻った。


「お姉さん!一人にしないで!」

私はトイレに行ってきたと謝った。

ルイちゃんは小児科の先生の診察を受けている間も私の手を離さなかった。

「骨折はないようだね。足首は捻挫しているみたいだ。できればレントゲンを撮りたいんだけど、頑張ってくれるかな?」

ルイちゃんは首を横に振った。

「ルイちゃんは車椅子に乗ったことある?私が押してあげるから少し病院の中を探検しない?」

ルイちゃんは「いいけど」と言ってレントゲン室まで行くことができた。

私は「骨の写真見たことある?面白いよ。」と言ってルイちゃんにレントゲンを撮らせてもらった。

「これがルイちゃんの足の骨だよ。こんなふうになってるんだね。面白いね。」

ルイちゃんはこの骨はどこ?と聞きながら楽しそうにしていた。

私は車椅子を押しながら病院の話をした。

「昼間はここに患者さんがたくさん来るんだよ。夜は誰もいなくて貸し切りみたいで楽しいね!」

「お姉さんはどこで働いているの?」

「私は外科っていう手術とかするところで今は勉強してるよ。ルイちゃんはお勉強好き?」

「あんまり。体育のほうが好き!」

「お姉さん体育は苦手だったなぁ〜。50メートル走も10秒とかだったよ。」

「えー!遅いね!私は8秒だよ!」

「ルイちゃんすごいね!いいなぁ。足の速い人に憧れちゃうな。」


ルイちゃんは普通の小学生だった。

問題もなく、学校にも楽しく通っていたみたいだ。

それなのにこんなことをしたやつがいる。

許せない。

私は病室に戻って、「疲れたでしょ。少し休もうね。」と言ってルイちゃんの頭を撫でた。

ルイちゃんは大丈夫と言ったがすぐに目を閉じて眠ってしまった。


廊下に出ると刑事さんが「お母さん、無事でした。すぐに救急救命に搬送されます。」と教えてくれた。

「犯人は?」と聞くと首を横に振った。

ルイちゃんの情報からは『トウヤ』という名前しかわからない。


「色野さん、ご協力ありがとうございました。あとはこちらでやりますので。ルイちゃんもしばらく眠るでしょうから。」

刑事さんは私に連絡先を聞き、自分の名刺を渡してくれた。

私は心配だったが刑事さんの言うとおり帰ることにした。

また明日様子を見に来よう。

帰り際、救急車の音がした。

きっとお母さんが運ばれてきたのだろう。

お腹を蹴られたようで臓器に損傷をおっていた。

私は治癒魔法でそれを治してしまった。

医師はそれを見てどう思うだろうか。


私は心配に思ったが後悔はなかった。

ルイちゃんは私にお母さんを助けてと言った。

助けずにはいられなかった。


────


私は部屋に帰りすぐに眠ってしまった。

いろんなことがありすぎて頭の中がいっぱいだった。


そしてスマホのアラーム音で起きた。

寝た気がしなかった。

私はシャワーを浴びて気合を入れ直した。

今日見学する難しいオペについて予習する暇がなかった。


私は重たい本を持って病院に向かった。

時間をみつけて予習しないと。


病院につくとテレビカメラが来ていた。

(もうニュースになったのか)

ロッカールームで中島さんが「ニュースみた?」と聞いてきた。

私は首を横に振った。

「暴行で指名手配だって。怖いね。」

中島さんが見せてくれた画面に男の写真が出ていた。

ここまでわかっているなら捕まるのは時間の問題だろう。


私は外科病棟に行く前に小児科を覗いた。

ルイちゃんの部屋はドアが閉まっていて中は見えなかった。

看護師さんが私に気がついて、「色野さんのこと探してたけど、お母さんが来てからは落ち着いたわ。」

「お母さん、一緒にいるんですね?」

「ええ、ルイちゃんよりも軽症だったみたいで。」

「よかったです。またお昼休憩に来ます。」

私は一礼して外科に向かった。


────


「色野、大丈夫か?小児科の先生から聞いたぞ。」

村田先生は心配している顔ではなかった。

少しニヤニヤしていて悪魔のそれを思い出した。

「はい、大丈夫です。」

私はどうしても手術の見学をしたかった。

今日の手術は心臓外科との合同のものだった。


外科からは村田先生と外科のホープと呼ばれていた佐々木先生が執刀する。

午後からの予定になっている。


村田先生は「小児科に行って見てこい」と言ってくれた。

私は遠慮したが「今日は外来に行かないからいいよ」と言ってくれた。

「では30分で戻ります!」と言って小児科に向かった。


小児科に行くとまだ警察の人がウロウロしていた。

犯人が捕まっていないからだろう。

私はルイちゃんの部屋をノックして中に入った。


「お姉さん!」

ルイちゃんは元気に笑っていた。

隣でお母さんも痛々しい姿ではあったが笑っていた。

「こんにちは、元気そうだね。」

「うん!お母さんも元気だったよ!」

「昨日は大変お世話になりました。本当にありがとうございました。」

ルイちゃんのお母さんはそう言って私の手を握った。

そしてハッとした。

「あなた…」

そう言って私の顔を見た。

「お母さんどうしたの?」

お母さんはまだ私の顔を見ていた。

「昨日、天使を見たって言ったでしょ。色野さんにそっくりだわ。」

私はドキッとした。

生霊の姿を見られたとでも言うのだろうか?


「私が天使だなんて!照れちゃいますよ。」

私はそう冗談ぽく言った。

「私ね、お姉さんにお母さんを助けてって言ったんだ。もしかしたらお姉さんを守ってる天使がお母さんを助けに行ってくれたのかもね?」

ルイちゃんはそう言ってニコッと笑った。

(言い方によっては合っているようにも聞こえるな)


お母さんは帰るときまで私の顔を見ては首を傾げていた。

「仕事が終わったらまた遊びに来るね。」

私はそう言ってルイちゃんの部屋を出た。


私はドキドキしていた。

ルイちゃんのお母さんはもしかしたら霊感の強い人なのかもしれない。

見られてしまったとしてもそんなわけないと言い逃れはできるだろうけど。


私はなんとなく早足で歩いた。

歩いているとサトシさんがやって来て隣を歩いた。

「ルイちゃん元気が出て良かったね。」

「うん、安心した。」

私は独り言をしているように見えるだろう。

小声で返事した。

サトシさんもそれがわかっているだろうからそれ以上話しかけてこなかった。


────


午後からの手術は見学者がたくさんいた。

研修医全員が見学を許された。

前の方は偉い先生方が座ってしまったので私たちは後ろから見ることになった。

「モニターもあるし、後ろでも問題ないわね。」

中島さんはモニターが見やすい位置に陣取った。


複雑な手術は数時間続いた。

前に座っていた偉い先生は居眠りをしていた。

他の先生たちもまるで映画でも見ているかのようにそれを眺めていた。

私たち研修医は「今のは何?」とか「ここでこの方式で」などと検討をしながら見ていた。

外科医たちの手捌きは素晴らしく流れるような手術だった。


長時間のオペが終わったときにはみんなして「やっぱり外科は格好いい」となっていた。

八重樫くんは「心臓外科もいいな」と言っていた。


外科に戻ると村田先生と佐々木先生が拍手で迎えられていた。

「手術成功おめでとうございます!」

二人とも嬉しそうにしていた。

私も「本当に素晴らしかったです!」と言った。

「勉強になったか?」

「はい!」

村田先生は「少し休む」と言って仮眠室へ行った。

私には救急救命で看護師さんを手伝うようにと言った。


私は救急救命に向かった。

退勤まで1時間くらいだった。

私が行くと看護師さんは快く迎えてくれた。

「縫合お願いしていい?」

「はい!」


私はさっきまですごい手術を見ていたので気分は外科医になっていた。

「先生、上手ね。」

料理中に誤って手を切ってしまったという女性が縫い目を褒めてくれた。

「傷跡残らないといいですね。」

私は処置を終えて傷にガーゼをあてた。


今日は救急救命も平和なようだった。

毎日がこうだといいのに。

私は時間になり外科に戻った。

村田先生はもう起きていた。

「おつかれ、あがっていいよ。」

「はい。お疲れ様でした。」


私は着替えてからルイちゃんのところへ行こうと思っていた。


────

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