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記憶の箱  作者: yamico
28/36

外科

私は寝不足だった。

なんだか胸騒ぎがして眠れなかったからだ。

こんな状態で病院には行けない。

私はつい自分に治癒魔法をかけてしまった。

これはズルだ。

これを許していて毎日治癒魔法を使うようになってしまったらそれこそ人間ではなくなってしまうかもしれない。


私は今日はちゃんと寝ようと心に決めて病院へと向かった。


────


八重樫くんは昨日とはうって変わって元気だった。

彼は今日から小児科だという。

「子供たちにパワーをもらってくるよ。」

そう言って笑顔でロッカールームを出ていった。

(大丈夫かな)


人の心配をしている場合じゃない。

私は気を引き締めて外科に向かった。


外科は大所帯だった。

「手術はチームプレイだ。一人一人がしっかりやらないとうまくいかない。」

外科部長は私にそう教えてくれた。

私は「はい!」と自分に喝を入れる気持ちで答えた。


「お前が色野か。俺が指導医の村田だ。」

「よろしくお願いします!」

「俺の言葉は絶対だ。しっかりと聞いて一度で覚えろ。」

「がんばります!」

村田先生は『30代独身変人』と看護師たちから影で言われていた。

「悪い人じゃないんだけどね。」

(だけどなんなんだろうか)


それから私は軍隊にでも入ったかのように扱われた。

「色野!この意味は?」

「色野!この場合の最適な処置は?検査は?」

村田先生は事あるごとに質問をしてきた。

私は予習が功を奏して答えに詰まることなく回答できていた。


そして村田先生は自分が執刀する手術室に私を入れてくれた。

台を用意してくれて後ろからでも見えるようにしてくれた。

手術中も村田先生は説明をし、時には質問もしてきた。

私は完璧に答えることができた。


「お前、ちゃんと勉強してきたな。」

村田先生は帰り際にそう言ってニヤリと笑った。

笑うとかわいい顔になった。

「いえ、まだまだです。ご指導よろしくお願いします!」

私はそう言って深々と頭を下げた。

村田先生は私の頭をトンと叩いて、「睡眠も大事だぞ。ちゃんと寝るように。」と言った。


私は今朝の寝不足がバレたのかと思ってびっくりした。

村田先生はそのまま医局へと行ってしまった。

私はドキドキしながらロッカールームに向かった。

(もしかしたら何か能力がある人なのかも)

明日鑑定をしてみようと思った。


八重樫くんがやってきて「俺は小児科に向いていない…」と凹みながら言った。

私を見ると少し笑顔になって、

「外科!ヤバイでしょ!村田先生!」

と言った。

「軍隊みたいだよね。」

私がそう言うと「そうなんだよ〜地獄のようだよね。」と嬉しそうに言った。

「手術室に入れてもらえたし、指導医としてはいいドクターだと思うけど。」

私がそう言うと中島さんが「えっ?なんて?」と聞き返してきた。


二人とも研修中は1回も手術室に入っていないという。

モニタールームで上から見ていただけだといった。

「なんだよー。村田先生のお気に入りかよー。」

八重樫くんは残念そうだった。

中島さんはなんだか怒った感じで「お疲れ様でした。」と帰っていった。


私は帰ってから現在入院中の患者さんや手術予定の病気について勉強し直した。

関連する論文も何個か読んだ。

もっと勉強したかったが今日こそちゃんと眠らないといけない。

私は無理やり目を閉じた。


────


ぐっすり眠った私は肌の調子もいいことに気がついた。

やはり人間にとって睡眠は大事である。

私は気合を入れ直して病院に向かった。


向かう途中の道路で事故が起きた。

車が登校中の小学生たちに突っ込んだのである。

私はすぐに119に電話した。


そこに村田先生がやって来た。

出勤途中だったようだ。

村田先生は私をみつけると「応急処置をするぞ!」と言った。

「お前は運転手を見てこい。」

「はい!」

私は電柱にぶつかって止まった車に近づいた。

ボンネットから煙が出ていた。

私は急いで運転手を車から離した。


運転していたのは高齢の男性だった。

車から離れたところに寝かせてバイタルをチェックした。

脈は弱いが触れている。

呼吸もしているようだ。

見たところ外傷はない。


肩を叩き、反応があるか確かめたが私の声に応えることはなかった。

(脳内出血?くも膜下出血かな?)

「そっちは大丈夫か?」

村田先生が子供たちを診ながら叫んだ。

「呼吸ありますがこちらの声に反応はありません!」

「わかった!救急車が来たら一番に乗せてもらえ!」


すぐに救急車がやって来た。

私はその人を乗せてから村田先生の方へ行った。

「運転手は搬送されました。私にできることはありますか?」

救急隊から医療キットを受け取った村田先生は子供たちの止血をしていた。

「あそこで泣いてる子、外傷はないが顔色が悪い。診てきてくれ。」

私は言われた子の元に向かった。


その子は確かに青白い顔をしていた。

「君、大丈夫?どこかぶつけた?」

男の子はそっと頭の後ろを指差した。

(頭をぶつけている)


私は嫌な予感がした。

「村田先生!頭部をぶつけたそうです!」

私がそう言うとその子は急に吐いた。

「顔を横に向けろ!気道が詰まらないようにしろ!」

止血処置を終えて村田先生がこちらにやって来た。

次の救急車がやって来た。

「お前は残りの子たちを頼む。俺はこの子と先に病院に行く。」

そう言って救急車で行ってしまった。


私は泣き叫ぶ子たちに痛いところはないかと聞いてまわった。

ただ恐ろしくて泣いてる子もいてその場はまるでパニック映画のようだった。

怪我をしている子は3人。

みんな軽症に見える。


「誰か!ここにも一人いるぞ!」

ちょうど民家の塀に隠れていたようで一人の小学生が倒れていた。

「痛い…足が…」

その子の足は折れているようでぐにゃりと曲がっていた。

私は意を決めて「痛いけど我慢して!」と言って、その子の持っていたリコーダーを足にあてて自分のシャツを破いて足を縛った。

「痛かったよね、よく頑張ったね。」

「お姉さん、ありがとう。」

救急車が到着してその子も搬送されて行った。

軽症の子たちも搬送されて壊れた車だけが残った。

私が少しホッとするとバンッとすごい音がして車が燃え上がった。


警察や消防も来て現場はパニック状態だった。

私はとりあえず急いで病院に向かった。


────


病院の救急救命も大忙しだった。

村田先生の姿はない。

私も外科に向かった。


外科に行くと村田先生はさっきの運転手のレントゲンを見ていた。

「くも膜下出血だった。脳外の先生が執刀する。」

それからすぐに足の骨折のレントゲンが送られてきた。

「お前が応急処置したのか?」

「はい。」

「よくやった。すぐに手術だ。着替えてこい!」

看護師さんは私に手術着を渡してくれた。

私はすぐに着替えて手術室に向かった。


村田先生はまた私を手術室に入れてくれた。

「お前、運転手を車から引きずり出したんだろ?すぐに燃えなくてよかったな!」

村田先生はそう言って笑いながら骨折した箇所を修復した。

私はまた台の上から手術の様子を見せてもらった。

「子供の骨だから変形しやすい。しかし回復は子供だから早いだろう。」


この子は幸い足の骨折だけだった。

頭を打って吐いていた男の子は脳外科で診てもらったところ大事には至ってなかった。

運転手も一命をとりとめた。


私は手術室から出て着替えてくるように言われロッカールームに来ていた。

アドレナリンが出ているのか、なんだか興奮していた。

私は気持ちを落ち着かせていつもの白衣に着替えた。

(これが医療の現場なのか)

私はまだまだ村田先生のようには動けなかった。

経験が足りない。


私は深呼吸して外科に戻った。

看護師さんたちも「大変だったわね。」と肩をポンと叩いてくれた。


さっそくニュースで燃えている車の映像が映った。

車の構造を知らない私は何がどうなって引火したのかわからなかった。

(車の構造の勉強もしておくべきかな)


刑事がやってきて村田先生と私は事情聴取を受けた。

刑事は図を描いて子供たちの位置を聞いた。

私は無我夢中だったので記憶が曖昧だったが村田先生はしっかりと状況を覚えていた。


聴取を終えてから村田先生は私に、

「こういうことがあるからできるだけ現場は正確に覚えておく必要がある。でも人命救助が優先だがな。」

と言った。


村田先生は素晴らしい医師だった。

私はもっとこの人から学びたいと思った。


────

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