表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の箱  作者: yamico
26/36

私はいつもの真っ暗闇にいた。

いつもと違うのはサトシさんの腕を掴んでいることだ。

「目を開けて。」

私がそう言うとサトシさんはゆっくりと目を開けた。

「真っ暗だね。ここはどこ?」

「私もどこかはわからないの。でもきっとサトシさんの探しているものはここにあるわ。」

「俺の探しているもの…」

サトシさんはそう言うと一人で歩き始めた。

私は見失わないようにその後を追いかけた。


サトシさんは何かに導かれるようにまっすぐ進んだ。

そして止まったかと思うと何かを拾い上げた。

「この箱が開けろって言うんだ。」

「開けてみて。」

サトシさんはゆっくりと箱を開いた。


────


目の前に池が見える。

カモがいるわけでも花が咲いているわけでもない。

夏は蚊が飛んでいるから誰も近づかないだろう。


サトシさんは誰かと話をしている。

私は驚いた。


私はこの男を知っている。


そこには私を刺したあの男がサトシさんと話をしていた。

そうかと思うと男はサトシさんを池に突き落とした。

サトシさんはすぐに水面から顔を出して何か叫んでいる。

男は近くにあった大きな石でサトシさんの頭を殴りつけた。

サトシさんはそのまま池に沈んでいった。


男はいろんなところから大きな石を持ってきては池に投げ入れた。

何個も何個も。

最後は岩のような大きな石を投げ入れてニヤリと笑った。


そしてリュックからナイフを取り出してそれを眺めていた。


────


「なんだよこれ…」

サトシさんがそう言って私は目を開けた。

元の相談室にいた。

私はサトシさんの腕を離した。


「俺はあの男に池に沈められたというのか?」

『今見えたものが夢なのか真実なのかは私にはわからない。でもあの日、あの後に私はあの男にナイフで刺されたわ。』

「色野さんも?」

『私は一命をとりとめたわ。死んでないわよ。』

サトシさんはなんだかがっかりした様子だった。

(失礼ね)


「じゃあ今でもあの池に俺は沈んでいるのかな。」

サトシさんは明らかに落ち込んでそう言った。

『そうかもしれない。どうする?通報して捜索してもらう?』


サトシさんは黙っていた。

そして「いや、このままでいいや。」と言った。

「色野さん、なんて言って通報するつもりなんだよ。夢で見ました。とでも言うのかい?」

サトシさんは笑いながらそう言った。

(確かに急にみつけるのは不自然だよね)


「それよりもスッキリしたよ!いや、してないけど…でもわかってよかったよ。」

サトシさんは笑顔だった。

「これで成仏するのかな?」

『どうでしょう?』

私たちは何かが起こるのかおとなしく待ってみた。


「成仏できないみたいだな。」

サトシさんは少しがっかりしていた。

「せめてこの部屋から出られたら幽霊ライフも楽しくなるのにな。」


私は少し考えて(サトシさんが好きな場所に行けるように)と念じた。

『部屋を出てみて。』

私がそう言うとサトシさんはドアを開けて出てみた。

「おぉ!出れた!!」

サトシさんは嬉しそうに病院中を走り回った。

看護師さんや入院患者さんたちとすれ違っても誰もサトシさんに気がつかなかった。

やはり霊なのだ。


『じゃあ私は帰るね。』

「色野さん、ありがとう!」

そう言って私がいる方向じゃないほうに手を振っていた。

見えないのだから仕方ない。


────


私は部屋に戻った。

なんだかどっと疲れがわいてきた。

面倒だったがお風呂に入った。

お風呂に浸かりながら私はサトシさんのことを考えた。

私は霊感が強いタイプではないと思う。

前に矢口さんがたくさんいらっしゃるよと言っていたが私には見えたことがない。

今回のサトシさんは加害者が私と同じだ。

何か通じるところがあったのだろう。


解決とまではいかなかった。

サトシさんの遺体が発見されても引き取り手はいないだろう。


私はロッカーにサトシさんの遺品を置いてきてしまったことに気がついた。

明日どうするか本人に聞いてみよう。

(まだ病院にいればいいけど)


────


私は遺品を確かめるために早く家を出た。

ロッカールームにはちょうど誰もいなかった。

私は箱を取り出して開けてみた。

中にはガラクタにしか見えないものばかりが入っていた。

(よく取っておいてもらえたな)

何かのおまけでついてきたようなキーホルダーや耳かきやペンなど、どうやら机の上にあったもののようだった。


その中に手帳が入っていた。

中を見るのはやめておいた。

私ならこういうものを勝手に見られるのは嫌だ。


その日もいつものように研修医として走り回っていた。

田端先生におつかいを頼まれた。

検査結果を取りに行ってほしいとのことで私は普段行かない階に来ていた。

私はまた一発で行きたい場所に行けずにウロウロしていた。


なぜか行き止まりに来てしまった。

そこにうずくまっている人がいた。

私はすぐに駆け寄った。

見覚えのあるモジャモジャが見えた。

「サトシさん?」

私が話しかけるとガバッと顔を上げてこちらを見た。

「色野さん!!」

サトシさんは部屋から出てから嬉しくていろんなところに行ったのだという。

そしてあの池にも行ってしまったという。

池の中にまでは入らなかったが、濁って中が見えない池を前にすると悲しくなってしまったのだという。

「行く場所もないし戻ってきちゃった。」

「あの池のこと…どうにかするからね。」

私はうまく見つけてもらえる方法を考えていた。

「ありがとう!やっぱり人と話すのはいいね!あの部屋に戻るからさ、たまに遊びに来てよ。」

私は頷いてその場を去った。


成仏できるのがいいのかもしれないが私にはそんな力はない。

あちらの世界で聖女に浄化系のスキルを教えてもらえばよかったなと思った。

(でも悪霊でもないか)


勤務時間が終わり私はロッカーからあの箱を取り出して相談室を探した。

相談室はなぜか館内案内図に描かれてなかった。


いつも迷っているうちに目の前に現れるのだが今日はすんなり来ることができた。

私はノックをして相談室に入った。

サトシさんはスマホで音楽をかけて踊っていた。

「色野さん!さっそく来てくれたんだね!」

「あ、うん。あの、これサトシさんの物らしいんだけど。」

私はテーブルの上に箱の中身を出した。

「わぁ、懐かしいなぁ。」

サトシさんはそれを手に取ろうとしたができなかった。

霊体とは本来そういうものなのだろう。

「この手帳…中身を見た?」

「見てないよ。」

「ありがとう。ここの机の引き出しに全部入れてもらえるかな?」

私は言われたとおりに引き出しに全部入れた。


私は空箱を持って「またね」と言って部屋を出てきた。

あの手帳に何が書かれていたのかはわからないが、きっとサトシさんにとっては大事なものなのだろう。


────


大学に匿名で『池の汚染がひどく悪臭がするので対処してほしい』とメールをした。

『このままなら保健所に連絡をする』とも書き添えた。


大学はすぐに動いてくれた。

池の水を抜く作業を行う業者が来て、池から水を抜いていった。

生き物がいる場合は抜けきる前に保護していた。

水を抜いた池からはヘドロを掻き出す作業をする。

池は数ヶ所あり、問題の池の順番が来ると業者は警察を呼んだ。


サトシさんが出てきたのであろう。

テレビ局も来て大騒ぎとなった。

サトシさんはずっとその様子を見ていたという。

仕事を終えた私につきまとったサトシさんはとうとう家までついてきてしまった。


「おじゃまします。」

「どうぞ。」

サトシさんは靴を脱げなくて困っていた。

「そのままでいいよ。」

そこからずっと池の話をしていた。

まだ身元はわかっていないらしい。


「水に浸かっていたから犯人のDNAがあったとしてももう消えてると思うんだよね。」

「うん。犯人が捕まってほしくないと言えば嘘になるけど、別に捕まったからと言って俺が生き返るわけでもないしね。」

私はなんとなくサトシさんにもお茶を出した。

「飲めないけど気持ちが嬉しいよ。」

と言って笑っていた。


「あそこであの男と話をしてたのはなぜなの?」

「前にお金の件で病院にいるときに相談にのっていたんだよね。診療代が払えないってさ。それであの日は俺に金を借りに来たんだ。名刺を渡していたからね。」

「断ったら殺されたってこと?」

「そう。」

サトシさんはヤレヤレというジェスチャーをした。

「じゃあ、あの男の所持品に名刺があったかもしれないね。」

「そこからあの死体に結びつくかどうかだよね。」

「でもたくさんの石を投げ入れたのなら手に傷がついたり何らかの証拠があったと思うんだよね。」


私たちが考えたところでどうにかなる話ではなかった。

「私、捜査本部を見てくるよ。一緒に行く?」

「見に行くって?まさか…」

私は生霊になった。

抜け殻がそこに横たわっている。

「色野さん!急にどうしたの?!」

『こっちよ。まだ見えないの?』

サトシさんはきょろきょろしている。

私は(見えるようになれ)と念じた。

私をみつけたサトシさんはびっくりしていた。

「やっぱり人間じゃないじゃないか!」

『そこら辺の説明は後でするね。』

そう言って私はサトシさんの腕を掴んで空高く舞い上がった。


「ひゃぁぁ。飛んでるぅぅ。」

『サトシさんは霊体なんだから飛んだり自由にできるんじゃないの?』

「霊体は飛べるって誰が言ったの?飛べない霊体もいると思いますぅ。」

サトシさんは目を閉じた。

高所恐怖症なのかもしれない。

『すぐ着くから、ちょっと我慢して。』

私は捜査本部の置かれた警察署に向かった。


────


遺体の上に石が積まれていたことや頭部に損傷があったことから警察ではすぐに殺人事件の線で動いたようだった。

捜査本部の前には大きなホワイトボードが置かれていて写真や遺体の状況などが書かれていた。


犯人については全く操作は進んでいないようだった。

私はメモ用紙に『4年前の事件の犯人の手に傷』とだけ書いてその辺に落としてみた。

刑事の一人がそれを拾い上げて「このメモ誰のだ?!」と叫んだ。

刑事は首を傾げたが「殺害日時は出ましたか?」と前に座っている偉い人っぽい人に聞いた。

「詳しくはわからんが数年前だということはわかった。」

刑事はその人にメモ用紙を見せた。

「4年前の事件って…いちょう並木のやつか?」

「そうだと思います。ちょっと調べてみます。」

そう言って刑事は部屋を出ていった。


私はまたサトシさんを掴んで空を飛んだ。

「色野さんすごいね!あんなこともできるなんて羨ましいよ!」

帰り道のサトシさんは捜査本部で見たことを楽しそうに話していた。


部屋に戻り意識を戻した。

「お疲れ様でした。」

サトシさんは空中から私の方へと視線を移した。

「どういうカラクリなの??」

不思議そうにするサトシさんに『私は生霊になれる』とだけ言った。

「半分俺の仲間ってことだね!」

サトシさんは嬉しそうだった。

(いえ、私は死んでいませんけど!)

そう思ったけど傷つけそうなので言うのをやめた。


「これで俺だってわかってもらえるといいな。」

サトシさんは急に真面目な顔をしてそう言った。


きっと身元はすぐにわかるだろう。

そうなったら今この目の前にいる人は成仏してしまうのだろうか。


────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ