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記憶の箱  作者: yamico
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治癒魔法

私は真っ暗闇にいた。

何も見えず何も聞こえない。

不思議と恐怖心は感じない。

居心地がいい気もしてくる。


私は暗闇を歩く。

何かに導かれるように。

そして私は箱を手にする。

開けたくないのにいつも開けてしまう。


────


「お姉ちゃんは生きてるよ。そうでしょ?」

「お姉ちゃんの心臓は機械に動かされているだけなんだよ。」

「そんなこと関係ない!ほら、お姉ちゃんの手!あったかいよ!生きてるよ!!」

妹が私の手を握りしめて泣いている。

お母さんは私の方を見ないようにして泣いていた。

お父さんは妹の肩を抱いて泣いている。


みんな泣かないで。

私のせいでこんなに悲しそう。

私なんて生まれてこなければよかった。


誰かを悲しませるために生きているなんて嫌だ。


────


私は夢を見ていた。

これは前回入院していたときの記憶だろうか。

それともただの悪夢だろうか。


私は朝から気が滅入った。

外は天気が良さそうだ。

きっとムイがどこかに行こうと誘うだろう。

そして私はいつものように断るんだ。


私は暇があれば病室に行って何か変化を起こせないか検証していた。

目を開けることはできなかったが足の指や手の指が動いたような気がした。

たったそれだけのことなのに私は体が地面にめり込むのではないかと思うくらいの疲労感を感じた。


お母さんはまた北海道にやってきた。

学生会館に泊まるのには気が引けたらしくウィークリーマンションを借りたらしい。


お母さんがいるときに私は手の指を動かそうと頑張っていた。

小指がピクッと動いた気がした。

お母さんはそれを見て看護師さんを呼んだ。

「娘の指が!今動いたんです!!」

私はもう1度動かそうと頑張ったが疲れて無理だった。

看護師さんは「反射で動くこともありますよ。」と希望を持たせるようなことは言わなかった。

それでもお母さんは「さっちゃんえらいわ!頑張ってるのね!」と言ってくれた。

私は嬉しくてもっと頑張ろうと心に誓った。


矢口さんは定期的に顔を見に来てくれた。

お母さんとも仲良くなってしまい、私を囲んでお茶を飲んだりしていた。

お母さんがいないときにはハムスターを介して矢口さんと会話をした。

指が動いた気がすると報告したら喜んでいた。

「リハビリみたいなものだと思って。諦めないで頑張ろう。」

と目を輝かせていた。

お母さんは手や足を動かしてリハビリを続けてくれていた。


────


チュンが治癒魔法のことをいろいろ教えてくれた。

やはり体の構造を知ってるのと知らないのでは効果が違うのだという。

「私には見えるのよ。体の構造が。」

私は真似しようと試してみた。

チュンを凝視して(体の内部構造見えろ)と念じた。

チュンはかわいい姿ではなく筋肉の姿になり、臓器が見えたかと思うと骨が見えた。

「ちょっとグロいね。」

「何よ!失礼ね!見るなら他の人にしてちょうだい!」

チュンは怒ってどこかに飛んでいってしまった。

アリで試してみたが人とは構造が違ったので勉強にはなりそうになかった。


私はモニターで何かを観察中のムイを後ろから見た。

まるでMRIやCT画像でも見ているような感覚だった。

ヴァンパイアも体の構造は人間と変わらなかった。

(どこから羽が出てくるんだろう)


私はスケッチをした。

いろんな角度から見た、いろんなものを描きまくった。

目を閉じると3Dの映像が想像できるようになった。


私が思い詰めているように見えたムイは時々依頼を持ってきた。

たいした依頼ではなかったが息抜きにはなった。

ちょっとした散歩感覚で私はムイに言われた依頼もこなした。


病室での私はまだ目を開けられなかったが手の人差し指を動かせるようになった。

トントンできるくらいだったがお母さんはとても喜んだ。

医師もいい兆しかもしれませんね、と言ってくれた。


そして1ヶ月が経った。

私は自分の体の損傷している部分を把握した。

刺されたときの傷はもうほとんど治っていた。

私は正常な構造を完璧に覚えていたので、あとの問題は治癒魔法だった。

こちらの世界で力を使うとものすごい疲労感を感じる。

実際相当なエネルギーを使っているのだろう。

私は満を持して治癒魔法にチャレンジした。


脊椎は矢口さんが言ったとおり軽症のようだった。

私は全神経を脊椎に集中した。

私は損傷部位が正常な形になるようにイメージした。

そして私は成功したのである。

私の脊椎は完璧に正常な元の姿に戻っていた。

私はそこで意識を失った。


目が覚めると私は悪魔の屋敷の地下室にいた。

いつもならこちらに来れば疲労感はなくなっていたが今日はそうじゃなかった。

チュンが慌てて「何をしたの?!」と駆け寄ってきた。

急いで私にキラキラの何かをかけていた。

「魔力がほとんどないじゃない!アリ、ククルからアレもらってきて!」

アリは急いで階段を上がっていった。

すぐにククルがやってきて私に苦団子を食べさせた。


「シア、大丈夫?」

私は少し元気を取り戻して起き上がった。

「向こうの私に治癒魔法を使ったの。」

「かなりの負荷がかかったみたいですね。」

ムイも心配そうにこちらを見ている。

「まだ脳の損傷を治さないといけないんだよね。」

「それは…こちらのシアさんの身に何か起きそうな気がしますね…」

確かに脳の損傷を、となると今日よりも繊細な作業でエネルギーもたくさん使う気がする。

もっと鍛錬してからのほうがいいのだろうか。


「少し様子を見るよ。」

そう言うとムイもチュンも安心していた。

「それがいいわ。無理をしてこっちのシアが死んだら笑えないわ!」


(こっちのシア…)

あっちの色野幸が目覚めるとこちらのシアはどうなるのだろうか。

また霊体として存在を許されるのだろうか。


不安はたくさんある。

未知の領域だ。


それでも私は気分が良かった。

体はバキバキで痛いし重苦しかったが。

明日元気になったら病室の私を見に行こう。

何か変化があるといいな。


────


しかし私はなかなか本調子に戻らなかった。

チュンはまたキラキラをかけてくれたし、苦団子も食べた。

それでも体は重く、魔力は半分も戻らなかった。

「少し寝てなさい!無茶し過ぎなのよ!!」

チュンは心配そうな顔で怒っていた。

私は動くのがしんどくて言われたとおりベッドで一日過ごした。


ククルも心配してくれているようで『魔力の上がる料理』というのを次々と持ってきた。

それらのほとんどが美味しいとは言えないものだったが私は無理やり飲み込んだ。

効いている気がした。

私は少しずつだったが体調を取り戻しつつあった。


2日ほど寝込んだ私は歩き回れるくらいには回復した。

この程度なら向こうの私を見に行くことくらいならできるだろう。

私はベッドに横になったまま病室へと向かった。


体を動かそうとするのは無理だった。

私は生霊になって上から自分を眺めた。

お母さんがリハビリをしてくれていた。

手のひらをマッサージしてくれているときにお母さんが大声を出した。

「さっちゃん!!」

見ると私の手はお母さんの手を握っていた。

看護師さんはその声に驚いて「どうしましたか?」と駆けつけてくれた。

「娘が!娘が私の手を握ったんです!」

看護師さんは私の手を見て驚いていた。

「無意識の反射で起こることもありますが…いい兆しかもしれませんね。」

そう言われてお母さんは泣きながら喜んでいた。

「さっちゃん!頑張ってるのね!お母さん待ってるから、目を覚ますって信じてるから!」

握っていた手はいつの間にかまたダランとしていた。

「お父さんたちに報告してくるわね!」

お母さんはスマホを片手に病室を出ていった。


私が力を使っていないのに私の体は動いた。

もしかしたら脊椎の修復がいい方に作用しているのかもしれない。

私は希望を持った。


きっと私は起き上がることができる。


────

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