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記憶の箱  作者: yamico
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意思疎通

自然生成されたという大型のダンジョンから行方不明者がたくさん帰ってきたという噂が流れた。

砂漠に行くと拉致されるという噂も流れてダンジョンを訪れる人は砂漠に近づかなくなったらしい。

悪魔はもうそのダンジョンに興味がなくなったようでもう観察しなくていいと言った。

ムイは最後まで見ていたがトカゲ顔の人たちは歯車が回ればそれでよかったようで人間に手を出すことはしなくなった。


私はまた暇になりあちらの自分を見に行くことにした。

しばらくぶりに見た私は何も代わり映えしなかった。

母親は医師に「このままの状態がしばらく続くだろうから家に戻ってみては」と言っていた。

私もその方が気が楽になるのでぜひそうしてほしかった。

最初は渋っていた母も「では一度帰って来ます。何かあればすぐに戻って来ますので連絡をお願いします。」と頭を下げて荷物をまとめていた。

「さっちゃん、またすぐに来るわね。」

そう言って私の頭を撫でていた。

私は声が出ないとわかっていたが「ありがとう」と言った。

母親はその瞬間、「さっちゃん?今ありがとうって言った?!」とびっくりしていた。

気のせいだったと考え直した母親は「またね」と言って病室を出ていった。

声には出なかったがお母さんに伝わったのなら嬉しい。


そして私は一人になった。

このまま脳死判定してくれてもいいんだけどな。

枕元に小さい子の字で書かれた手紙があった。

『おねいさん たすけてくれてありがと』

と書かれている。

きっとあの時の男の子だろう。

この姿を見ていなければいいけど。


私がぼーっと眺めていると矢口さんがやってきた。

また白衣姿なのを見ると仕事中か休憩中だろう。

「こんにちは、色野さん。」

そう私に話しかけていた。

もしかしたらいつもこうやって話しかけてくれていたのかもしれない。

律儀ないい人だな。

矢口さんはまたビクッとしてこちらを向いた。

また目が合ってしまった。


「色野さん!やっと会えたね!」

矢口さんは明らかに空中に浮かんでいる私に向かって話しかけている。

「この前はお母さんが来てゆっくり話せなかったね。元気だった?」

私はびっくりしたがうんうんと頷いた。

「そうなんだ、よかったよ。」


それから矢口さんは『はい』か『いいえ』で答えられる質問をしてきた。

「話せないのはわかったけど文字を書いたりはできる?」

私は首を横に振った。

「そうなんだね…なんとか色野さんの言いたいことがわかればいいんだけど…」

矢口さんは時計を見て「ごめん!もう行かないと。また明日同じくらいの時間に来れる?」

私は頷いた。

「ではまた明日!」

矢口さんは普通に手を振って病室を出ていった。

(変な人)


私はなんだか少し嬉しかった。

まだ生きているという感覚がした。


私は悪魔の屋敷に戻ってから、どうにか矢口さんと話ができないかを考えた。

向こうでの霊体のレベルが上がればどうだろうか。

私はどうにかならないかいろいろ試してみた。

こちらで霊的なスキルをたくさん使ってレベルを上げようとしたが私のスキルは『移動』と『チート』のままだ。

全くわからない。


私自体のレベルは271になっていた。

ダンジョンでいろいろやっていたのですぐにそこまで上がったようだった。

まさに存在がチートのようなものだ。


私は無機物に話をさせることはできないかを確かめた。

人形を出してそれを動かして喋らせた。

アリは動く人形を見て喜んでいた。

動かなくなっても人形を自分のドールハウスの椅子に座らせていた。


これが向こうでもできるかどうかはわからない。

あの病室に人形なんてあっただろうか?

私はなんだか疲れてしまってその日は早めに休んだ。


────


私は時間より少し早めに病室を訪れていた。

体感的にここと向こうでは2時間くらい差があるように思っていたがそれは来るたびに変わっているようだった。

そこに法則的なものはないのかもしれない。


部屋にはやはり人形もぬいぐるみもなかった。

元々そういうもので喜ぶタイプではないから持ってくる人もいないのだろう。


すぐに矢口さんが何かを持ってやってきた。

ハムスターのぬいぐるみのようなものを持っていた。

すぐに浮かんでいる私をみつけて「こんにちは」とにこやかに挨拶してくれた。

私はペコリと頭を下げた。


「このネズミのぬいぐるみなんだけどね、人の言葉を拾って反復させるんだ。」

ネズミじゃなくてハムスターだと思う。

ツッコミを入れたかったができず残念だ。

矢口さんはハムスターに話しかけて反復させていた。

かわいらしい声で矢口さんと同じ言葉を言い、ひょこひょこと動いた。

「どうかな?色野さん、これに話しかけてみてくれないかな?」

矢口さんは私に向かってそのハムスターを差し出した。

私はそれに向かい合って『こんにちは』と言ってみた。

声が出ていなかったのにそのハムスターは『こんにちは』と喋ったのである。


自分で持ってきたくせにうまくいって矢口さんは驚いてそれを落とした。

「すごい!成功だね!」

持ち直してまた私に向けた。

『これ、ネズミじゃなくてハムスターだと思いますよ。』

そう言うと矢口さんは涙を浮かべた。

「その言い方、色野さんだ。」

『矢口さんは霊的なものが見えるんですね。』

「こんなにハッキリ見えたのは色野さんが初めてだけどね。うん、よくみえるんだよね。病院だし、たくさんいらっしゃるよ。」

私はキョロキョロしてみたが全く見えなかった。


矢口さんは私の今の状態の説明をしてくれた。

医師は積極的な治療をやめたのだという。

このまま目覚めない可能性も高いということも教えてくれた。

「でもこうやってそこに色野さんがいるってことはどうにかなるんじゃないかって勝手に思っちゃうんだけど。」

矢口さんはにこやかにそう言った。

お昼休憩らしくおにぎりを食べながらだった。


『頚椎損傷してますよね。たとえ目覚めてもマヒがあるんじゃないかと。』

「確かにカルテには書いてあったけど、おそらく軽症だから歩けないとか喋れないとかそういうのではないと思うよ。俺も専門じゃないから断言はできないけど。」

『普通に生活できると思いますか?』

「うん。できると信じている。だからあとは目覚めるだけなんだよ。どうにかならないかな?」

『何度か起きようと試したんですが全く体が動かなくて。』

「諦めないで!何度でも試してみて!」

矢口さんはそう言うと「ごめん、時間が…仕事終わりにまた来るから。20時くらいに。」

そう言って急いで出ていった。


私はハムスターのぬいぐるみと取り残された。

(あとは目覚めるだけ)

簡単に言われたがそれが一番難しいのですが。


私は横たわっている体に意識を戻した。

目を開けることも手を動かすこともできない。

私は脳内に意識を集中させた。

きっと何かが阻害しているに違いない。


脳の構造には詳しくない。

しかし出血してる箇所があることに気がついた。

ぶつけた時のものだろうか。

少しくらいなら手術をせずとも治ることはあるらしい。

私は(治れ)と念じてみた。

気のせいか少し小さくなった気がした。

しかし私は集中が続かずに体から出されてしまった。


私は悪魔の屋敷に戻った。

どうもあちらの世界で能力を使うと疲労感がすごい。

私はムイにあちらでぬいぐるみを通して会話ができたと報告した。

「それは進歩ですね。もしかしたらもっと他にも何かできるようになるかもしれませんね。治癒魔法が使えたら一番いいのですが。」

確かにそうだ。

治癒魔法の精度を上げておこうと考えた。

特に脊椎損傷や脳挫傷についての知識を入れておきたい。

ムイにこっちに医学書はあるかと聞いたが、そんなものはないと言われた。

こちらでは魔法で感覚的に治してしまうか、死んでしまうかどちらかなのだと言われた。


私はまた病室に行き、生霊となって医学書を読めないか試した。

やはり物体に干渉することはできず、そこに本があるのに手に取ることはできなかった。

私は諦めて病室で矢口さんを待つことにした。


矢口さんはよろよろだったが私をみつけると笑顔になった。

『忙しそうですね。』

「研修医はやることが多くてね。」

疲れているのに私に時間を使わせて申し訳ない気持ちになった。


「それで、君は色野さんなんだよね?体から抜け出してるっていうことなんだよね?」

『多分、そうだと思います。』

「体に戻ることはできるの?」

『戻れますが微動だに動きません。』

「なるほど…簡単ではないということか。」

映画やドラマのようにはいかないね、と言って矢口さんは笑った。


『今すぐには無理だと思いますが体を動かせるように何度もチャレンジしてみようと思っています。疲れるので1日に数回しかできそうにありませんが。』

「霊体でも疲れるんだね。ということは何かエネルギーを使っているってことだよね?うん、思っていたよりも期待できるかもしれないね。」

矢口さんは何かひらめいたかのような顔をして喜んでいた。

『こんな状態の私に優しくしてくださってありがとうございます。』

そう言うと矢口さんはびっくりしていた。

「こんな状態だからこそだよ!子供たちも心配しているよ。早く元気な顔を見せてあげよう。」

私は頷いた。


「明日から学会の手伝いで出張なんだ。3日後に帰ってくるから。」

『大丈夫です。これ以上悪くなることはありませんので。』

私は冗談のつもりでそう言ったが矢口さんは悲しそうな顔をした。

「じゃあ、またね。」

よれよれのまま矢口さんは病室を出ていった。


私はそれから目覚めるためにありとあらゆる努力を続けた。


────

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