ダンジョン
「お腹空いたー!」
腰につけたバッグから顔を出してアリが叫んでいた。
私たちは休憩することにした。
木陰にムイがブランケットをひいてくれた。
ククルが持たせてくれたお弁当を出した。
私がお願いしたおにぎりだ。
シャケや梅干しやおかかと具材になるものがこの世界にはなかった。
(せめて梅干しは作れるかな)
とりあえず今日はただの塩むすびだ。
私が嬉しそうに頬張るとムイたちが「それ、美味しいんですか?」とサンドイッチを食べながら聞いてきた。
「海苔があればよかったんだけどね。」
ハピリナに海はないから海藻なんて無理だ。
作るなら外の世界だけど海苔になる海藻が採れるかはわからない。
今度確認しに行こう。
「ちょっと飛んでマップを作ってくるよ。本体見ててくれる?」
「わかりました。」
私はブランケットの上で横になり生霊になった。
空高く舞上がり高速で飛んでマップの開拓をした。
氷山に見えていたのは本当に氷で、近くに行くと雪も降っていた。
さすがに雪山の装備で来る人はいないようで人の姿もなかった。
砂漠に見えていたところにはところどころにオアシスのようなものがあり、さほど過酷な土地ではないように見えた。
ヘビやトカゲといった爬虫類系の魔物が多く見えた。
砂岩が積まれていたところには洞窟の入口のようなものがあった。
その中に入っていく人の姿がある。
(ここは要チェックだな)
大きな山には深い谷もできていて滝のように水が流れている場所もありとても美しい景色が広がった。
ダンジョンの中にいるはずなのにそんな感覚はなくなっている。
洋館を中心にかなり広範囲のマップを開拓したが終わりが見えなかった。
どこが端っこなのか全くわからない。
永遠に続いているように思える。
私は人間がこんなに遠くまで来るとは考えられないのである程度のところでやめて本体に戻った。
ムイにマップを見せながら見た感じの感想を伝えた。
砂漠に行くことにした。
かなり距離があるので近くまで瞬間移動した。
冒険者たちの姿もある。
大きなトカゲの魔物と戦っていた。
私たちはうまくすり抜けて洞窟の入口まで来た。
中からは洋館と同じくらいの強い魔物の気配がした。
「ここにも何かいるみたいですね。」
ムイはやれやれという顔をした。
私が前を歩き襲ってくる魔物を処理した。
爬虫類が好きな私は今度は消さずに弾き飛ばすだけにした。
炎で照らさないとすぐ先も見えないくらいに暗い場所だった。
洞窟には少しトラウマがある。
できればさっさと片付けて出たい。
私は強い気配に向かってどんどん進んだ。
進むと急に開けたところに出た。
奥に金色の扉が見える。
その奥からとんでもなく強い魔物の気配がした。
ムイも感じたようで「留守番してます」と言った。
私はゆっくりと金色の扉を開けた。
進んだ先も金ピカだった。
私はなんだかおかしいなと思い、(本来の姿を見せよ)と念じた。
さっきまで金ピカだった部屋の中はただの岩でできた洞窟になった。
空間の奥に人影がある。
トカゲの顔をした魔族っぽい人だった。
ドレスを着ているので女性だろう。
その女の人はこちらに向けて手招きしている。
「いらっしゃい旅の人。こちらで休憩していってください。」
私は戦闘態勢を取ったままその人に近づいた。
また扉があってその中に入るように言われた。
攻撃される気配がなかったので私はそれに従ってみた。
部屋の中には人間がたくさんいた。
ぼーっとしてたり、うっとりしてたり、どの人もダンジョンの中にいるという自覚のないだらしない顔をしていた。
(何か魔術がかけられていそうだな)
女の人はテーブルにつくように言い、お茶を出してくれた。
お茶かと思ったがよく見るとそれは何かの薬のようだった。
「遠慮しないでお飲みになって。」
私は毒耐性があるが(変な薬は効かない)と一応念じてから舐めてみた。
バッグからチュンが『幻覚剤よ』と小声で言った。
なるほど、ここにいる人たちは幻覚を見ているのか。
私もまわりの人たちのようなぼーっとした顔をしてみた。
女の人は「大漁ね!」と喜び手下と思われる人たちを呼んだ。
同じような顔がトカゲの人だった。
その人たちはフラフラしている人間たちをどこかに連れて行く。
私の順番になり私は引っ張られるままその人たちについていった。
さらに奥の扉を抜けると街のようになっていた。
照明もついていて明るい。
人間たちは壁沿いに歩かされてまた違う扉の向こうへ連れて行かれている。
扉の向こうにはたくさんの人間がいた。
手枷や足枷が見える。
連れてこられた人たちは職人のようなトカゲ顔のおじさんに手枷足枷をつけられている。
私はさすがにこれはよくないと思い、透明化して離れたところから様子を見ることにした。
透明化しても手下たちは気がつかない。
それだけ人間の数が多かった。
広い部屋の向こうには大きな歯車のようなものが見える。
その周りを人間たちがぐるぐる歩いている。
(何かを回している?)
どうやら何かエネルギーを得るために人間たちは働かされているようだった。
みんな目が虚ろで文句を言う人は一人もいなかった。
私は透明化したまま元の場所に戻った。
ムイのところまで行くと姿を現してムイを離れた場所に連れて行った。
「何かありましたか?」
私は見てきたものを説明した。
「ここが行方不明の正体なんですね。」
「そうみたい。100人くらいは余裕でいたと思う。」
助けるのは簡単だが助ける任務ではない。
私たちはまた入口に『この先 幻覚剤で捕虜にされる』と看板を入口に立ててそこを去った。
「とりあえず帰って報告しようか。」
私たちはその場から瞬間移動して屋敷に帰った。
────
「ほぉ。トカゲの顔の魔族か。」
悪魔はニヤと顔を合わせていた。
「そんな種族もおりましたな。」
ニヤがそう言うと悪魔も頷いた。
「何か悪いことでも企んでいるのでしょうか?」
ムイがそう言うと悪魔はちょっと考え込んだ。
「魔王の気配はあったか?近くで封印されているような気配だ。」
「そういう感じはしなかったけどな。」
あのトカゲの女の人は強そうだったけど、それ以上の気配は感じなかった。
「とりあえず観察を続けてくれるか?」
「はい。」
私とムイは地下室に戻った。
たくさんあるモニターにあのトカゲたちの洞窟を映した。
相変わらず人間たちは虚ろな目でぐるぐると歯車を回していた。
その異様な光景にムイも絶句していた。
「もうちょっとしっかり見てくるね。」
「いってらっしゃい。」
私は生霊になってその場に移動した。
ぐるぐる回っている周りで人間たちは何かわからないものを食べさせられていた。
一応食事はあたるようだ。
私は歯車の繋がっている先を探した。
人間たちのいる真上に違うフロアがあった。
こちらは下よりもきれいに整備されていてトカゲ顔の人たちがたくさん歩いている。
下からピンク色のモヤモヤしたものが上がってきて大きな瓶のようなものに溜まっているようだった。
満タンになった瓶が並んでいる。
その瓶を運んでいる人についていくとエレベーターのようなもので上へと上がっていく。
ガラスの球体のような場所についた。
そこで瓶を開けている。
中のモヤモヤは瓶から勢いよく飛び出して四方八方へ飛び散った。
これはいったい何なのだろうか。
私はトカゲの女の人を探した。
きっと彼女がここの長だろう。
女の人は相変わらず人間たちを誘い込んでいた。
「なんと美しい人!まるで女神のようだ!」
入ってくる人間たちはトカゲ顔の女の人を女神のように見惚れている。
あの部屋自体に幻覚作用があるのだろう。
私は近くにいた小さなトカゲの体を乗っ取った。
『お姉さん、人間に歯車を回させて何をしてるの?』
女の人はキョロキョロして声の主を探している。
『人間をいじめるのが楽しいだけ?』
「誰なの?どこにいるの?」
私は女の人の肩に登った。
「あなたなの?」
『そう。教えて、何をしているのか。』
「あなた、小さいのに話ができるのね。」
『私はシア。この子は体を貸してくれているだけだよ。』
「シアさん、はじめまして。私はここの女王サリルよ。」
『サリルさん、あのピンクのモヤモヤは何?』
「まぁ!そんなことまで知っているのね!あれはね、このダンジョンを維持するために必要なエネルギーよ。人間たちにこのダンジョンを開放する代わりに対価として労働力を頂いているの。」
『あの人たちはずっとあのままなの?』
「そうね、みんなのために頑張ってもらうことになるわね。」
解放する気はないようだ。
『あの歯車が永続的に回れば人間は必要なくなる?』
「そうね、でもあの歯車はとても重たいの。たくさんの力がないと回らないのよ。」
『回ったら人源を解放してくれる?』
「いいわよ、回ったらね。」
サリルはそんなこと無理よと言いながら笑った。
私はトカゲから抜け出して歯車のところへ向かった。
私は歯車に向かって(永遠に自動的に回り続けろ)と念じた。
歯車は勢いよく回りだし、人間たちはバタバタと倒れた。
すぐに私は人間たちが押していた歯車を回す棒をすべて消し去った。
人間たちはそこに立ち尽くしていたり倒れ込んだりしている。
歯車は勝手にぐるぐる回った。
周りで人間たちに命令を出していたトカゲかおの人たちも驚いて歯車を眺めていた。
サリルが周章ててやってきた。
「どういうこと?」
私は人間たちの手枷足枷を消し去った。
指をパチンと鳴らして人間たちを正気に戻した。
中はパニック状態になった。
人間たちはトカゲ顔の人に驚き、トカゲ顔の人たちは人間たちが正気に戻ったことに驚いていた。
誰かが出口を見つけると一斉にみんなが殺到した。
我先にと人を踏んだり蹴ったりして前に進もうとする他人がたくさんいた。
私はその様子に吐き気がして本体に戻った。
戻るとムイが「すごいことになってますね。」と言った。
「あとは自分たちで勝手にやってもらおう。」
私はその様子を見るのをやめた。
みんな自分勝手すぎる。
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