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記憶の箱  作者: yamico
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眠り姫

「シア!そろそろ起きて!ご飯だよ!!」

私は重たいまぶたを開けた。

そこはまだ悪魔の屋敷だった。

ムイが朝食を持ってきてくれていた。

「食べられそうですか?」

クロワッサンのいいにおいがする。

「うん。」

私は顔を洗って着替えてから朝食をいただいた。

焼きたてのクロワッサンはとても美味しかった。

色とりどりのサラダも新鮮なフルーツも何もかもが懐かしく美味しかった。


「向こうに戻れないかやってみようと思う。」

私はムイにそう言った。

ムイはアリに「シアさんの身分証を出して。」と言った。

アリは身分証を出して私に渡してくれた。


・名前 シアver.3

・年齢 20

・種族 弩級呪物

・レベル 1


「呪物に戻ってる。」

私がそう言うとムイは「やっぱり」と言った。

「なんだか複雑になりましたね。」

スキルはそのまま変わってなかった。

『移動』と『チート』。

結局意味がわからないまま前と同じ能力を使えていた。


私は長椅子に座り目を閉じた。

(元の世界に行きたい)

体が動かない感覚になった。

真っ暗で目も開かない。

私は生霊になってみた。

そこは病院の病室だった。

まだ集中治療室にいる。

家族の姿はない。


私はそのまま病院内を移動した。

家族はカフェにいた。

『私が残るからお父さんたちは帰って。』

『でも!』

『仕事もあるし、学校もあるでしょ。すぐには目が覚めないだろうって言われたわ。学生会館の人に家族の方なら部屋を使っていいって言われたし。』

『お母さんに任せよう。何かあったらすぐに連絡してくれ。』

『ええ。』


どうやら私はまた寝たきりになったようだ。

私は自分の寝ているところに戻って治癒魔法をかけてみた。

全く効かない。

他にもいろんなことを試してみたが何も起こらなかった。

(生霊になれるだけか)


私は体に戻り目を開けた。

私は屋敷の部屋にいた。

「おかえりなさい。」

ムイが心配そうにこちらを見ていた。

「向こうの私を見るだけしかできなかったよ。」

「そうですか…」


私は一人にしてほしいと言った。

ムイはアリと妖精たちを連れて部屋を出ていった。

私は地下室に行ってみることにした。


地下室は記憶にあるままだった。

そのまま定期的に掃除をしてくれていたようで埃っぽさもなかった。


初めてここに来たときはびっくりしたけど帰りたいだなんて思ったことなかった。

どんどん新しいスキルを覚えてレベルを上げて、すごく楽しかった。

私は本棚から一冊の本を取った。

それは動く絵本だった。

開くと魔法で勝手に読み上げてくれてページもめくれる。

魔法は便利だけど私ならお母さんに読んでもらいたい。

便利が全部いいわけじゃない。


私は帰りたいと思っている。

ここでの記憶を取り戻した今でも元の世界に戻りたいと思っている。

せっかくやりたいことをみつけられたのに。


何度試しても元の世界の私は生霊になって病院の中をウロウロするくらいのことしかできなかった。

私はまた病室の自分の姿を眺めていた。

お母さんはご飯を食べに院内の食堂に行ってしまった。

繋がれてる機械だけがこの部屋で唯一動いている。


ドアをノックする音が聞こえて誰かが入ってきた。

矢口さんだった。

矢口さんは私の姿を見ると「なんでこんなことに…」と泣きそうになっていた。

爽やかイケメンなのにボロボロな姿だった。

白衣を着ているので休憩中か何かだろう。

研修医としての仕事も大変に違いない。


私はその様子を上から眺めていた。

眺めることしかできないからである。

矢口さんは横たわっている私を見ていたがピクッと動いた。

そうかと思うと部屋の中をきょろきょろし始めた。

(この動き、もしかして…)

私が矢口さんを凝視しているとこちらを向いた矢口さんと目が合った。


矢口さんは私をまじまじと見ている。

私はびっくりして動けないでいた。

『色野さん、死んじゃったわけじゃないよね?』

矢口さんはそう言いながら横たわっている私に繋がれている機械を確かめた。

私は話そうとしたが声が出せなくて首を横に振った。

『俺の言ってることはわかるんだね?』

私はゆっくりと頷いた。

矢口さんは険しい顔をしていた。

何かを言おうとしたときにお母さんが戻ってきた。

『先生、さちに何かありましたか?』

見慣れない医師がいたので驚いている様子だった。

『はじめまして。友人で研修医の矢口と申します。』

矢口さんは礼儀正しく頭を下げた。

『まぁ!お医者様に友達がいたなんて聞いてなかったわ!』

お母さんは嬉しそうに矢口さんを見た。

矢口さんは『少し様子を見に来ただけなので』と言って一礼して部屋を出ていった。


お母さんは一人になり、私の頭を撫でながら、

『あんなイケメンと友達になるなんて、やるじゃない。』

と笑いながらまた涙を流していた。

私は見ていられなくなって体に意識を戻した。


私は地下室の長椅子にいた。

またお母さんを泣かせてしまったことに心が傷んだ。

そして矢口さんのことを思いだした。

そういえば初めてちゃんと話をしたときに私に何か能力があるんじゃないかとか言ってたっけ。

もしかしたら霊感とかそういうのが強い人なのかもしれない。

私の生霊を見ても騒いだりしなかったのは『そういうもの』を見慣れているからなのだろう。


かと言って霊体の私が見えたからと言ってあそこで寝ている私が起き上がるわけではない。

矢口さんにはただびっくりさせてしまっただけだ。


私のことを友人と呼んでくれた。

私はそれが何よりも嬉しかった。

元の世界での私には私のことを友人だと言ってくれる人はそんなにいない。

(あれ?他にいたかな?)

私は切なくなって考えるのをやめた。


────


私はムイに今あったことを話してみた。

「こちらにもシアさんの気配を感じ取れる人はいましたが、あちらでもとなると少し驚いてしまいますね。」

「だから何ができるかって言われたら何もできないんだけどね。あそこの私は話もできないし。」

「今はそうですが状況が変わったら彼は何か手伝いができる存在になるかもしれませんよ。」

状況が変わったら。

私を目覚めさせる何かがわかったら、ということか。


私はカルテを盗み見た。

生霊の私はあの世界では物体に干渉できなかった。

だからそのページが開いていないと見ることはできない。


しばらくカルテにつきっきりで調べたところ、私の刺された場所は背中で、深く刺さってしまって臓器を傷つけたらしい。

その時の出血が多かったことも良くなかったのだが、倒れたときに前にぶつけていたところをまたぶつけてしまったのだという。

階段から落ちてぶつけたところ。

私はまた頭をぶつけていた。


そしてまた前と同じ状態になったのだという。

目が覚めるかもしれないし、このままかもしれない。

また脳死と診断されたら私は管を抜かれて息ができなくなって死んでしまうのだろう。

臓器提供カードにはすべての項目に丸をつけていた。

このまま死んで臓器を提供できたら救える命があるだろう。

私はあの状態で生きていて家族を苦しめるだけなのが嫌だった。

確かにやりたいことはたくさんあったがたとえ目を覚ましたとしてもできないだろう。


私はカルテに重要なことが書かれているのに気がついていた。

私は刺されたときに脊椎損傷をおっていた。


どの程度のそれなのかはわからなかったが医学の勉強をしていたから少しはわかる。

脊椎を損傷すると運動機能や感覚にマヒが起こる。

私は立ち上がることも自分で食べることもトイレにさえ行けなくなったのかもしれない。


そんな状態で目が覚めても家族にまた大変な思いをさせるだけだ。

このまま死んでしまう方がきっといい。


ムイがハンカチを渡してくれた。

私は泣いていた。

なぜ涙なんか出てくるんだろう。

何が一番なのか私にはわかってるのに。


私は死にたくなかった。

やりたいことがまだできていなかった。


私は生きたいと思っている。


────

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