2. 馬鹿にしてくる冒険者
「……ふぅ。一旦休憩にするか」
ルークは腰をさすりながら汗をぬぐう。
今は総合冒険者ギルドの掃除をしている最中だ。
時給としては数百ゴールド。
ギリギリ昼ご飯を買えるかどうかの微々たる金額である。
こんな仕事をしなくてはいけなくなった理由はただ一つ。
ルークがニックのギルドから追放されてしまったから。
今のルークは無職と言っても過言ではない。
早く次に所属するギルドを見つけなければ、いつまでもこういう生活をしなくてはいけなくなる。
「クソッ……強制脱退だったから、ギルドのサポートも受けられないし――本当に次のギルド見つかるのかなぁ」
ルークは追い詰められていた。
休憩中はよく次の仕事のことを考えてるが、全くいい案が浮かんでこない。
このままでは飢え死ぬ可能性まで。
ソロではまともなクエストを受けることができないため、冒険者としての活動は厳しくなる。
……どうしよう。
と、ルークは考えたところで、また掃除の続きに戻る。
そんな時だった。
「おいおい、ルーク。こんなところで何やってんだー?」
「……なんだよ」
ルークに声をかけてきたのは、顔見知りの冒険者たち。
会った時はいつもルークのスキルを馬鹿にしてくる存在だ。
この冒険者もそこまで強いわけではないが、自分以下の存在を見下してスッキリしたいらしい。
何とも迷惑な存在である。
「こらこら、ルークは遂に追放されたんだよ。あんまり言ってやるな」
「ガハハハッ、確かそうだったな! まあ、スライムだけしか狩れないんじゃ当然か」
「……」
ルークは冒険者たちの言葉を無視して掃除を続ける。
こういう輩は反応しない方が得だ。
飽きてどこかに行ってくれるのを待つしかない。
「おい、無視するなよ。つまらねえだろ」
「相手にしてないつもりか?」
冒険者の男は、持っている飲み物をルークの前にこぼす。
ちょうどルークが掃除したばかりのところであり、これ以上なく挑発する行為だ。
「やめろ。俺がギルドに報告したらペナルティを貰うぞ」
「チッ、しけた野郎だぜ」
ペナルティという言葉を聞くと、冒険者たちはルークの悪態をついてその場を去る。
別にペナルティというのはルークの思い付いた嘘であるが、それを信じてくれたようだ。
やはりそこまで頭は良くないらしい。
ルークはホッと胸をなでおろすと、男たちがこぼした飲み物を拭き始める。
「……絶対元の生活に戻ってあいつらを超えてやる」
誰にも聞こえないような声で、ルークはそう呟いた。
しかし、ルーク本人でさえまだ知らない。
偶然か必然か。
これから、世界は大きく変化をすることになる。