1.追放された《スライムキラー》
「ルーク! お前はもうクビだ!」
ルークがいつものように雑用仕事をしていると。
扉を力強く開けて、ギルドのリーダーであるニックが飛び込んでくる。
そして、挨拶もなしに驚くべきセリフを吐き出した。
「え、今なんて……?」
「スライムしか倒せねえ雑魚は出て行け!」
怒鳴るようにニックは言う。
突然の追放宣言を受けたルークは、慎重に――これ以上怒らせないように聞き返すしかない。
「じょ、冗談だろ……?」
「冗談なわけねえだろ。お前はもうクビだ。別のギルドに行ってくれ」
「いや、そんなの納得できるわけないだろ!」
やはり聞き返したとしてもニックの言葉は変わらない。
うんざりとした様子でニックは自分のことを見ている。
この時点で、もう何を言っても考えを変えさせることはできなさそうだ。
「クッ……どうして俺がクビなんだ。ちゃんと説明してくれ」
「だってー、レイルの《スライムキラー》ってスライムにしか勝てないじゃん。他の戦闘で役に立たないんだもん」
ルークの問いに答えたのは、ニックではなくヒーラー役のソフィーだった。
フワフワとした髪をいじりながら、机に寝そべって話している。
《スライムキラー》とは、ルークの持つスキル。
冒険者であるなら誰しも持っているスキルだが……優秀なスキルがあればその逆のスキルも存在する。
ルークの場合は間違いなく後者だ。
確かにルークの《スライムキラー》はスライムが相手の時でないと意味がない。
それはルークも重々承知している。
だからこそ、戦闘の際はサポートに回っており、雑用などの仕事もこなしていた。
しかし、目の前の二人はそんなことなかったかのように話している。
納得できるわけがない。
レイルは怒鳴りそうになるのを抑えて、もう一人のメンバーであるイーグを見た。
「ルークは大丈夫だろー。ルークは真面目だから、すぐに次のパーティーが決まるよ」
「そんなこと誰も聞いてない!」
イーグは慰めのような言葉をルークにかける。
だが、それはルークの怒りを助長するだけの言葉だ。
こんな時まで無気力なままなのか――と、怒りを通り越して呆れてしまう。
「もう分かっただろ。ここにお前の居場所はない。スライム以外倒せないヤツなんていらないんだよ」
「ぐっ……」
「私たちも冒険者ランク上げたいしねー。ね、イーグ?」
「そうそう。ソフィーの言う通りだよ。もっと稼ぎたいよな」
「……ということだ。今日までご苦労だった」
ルークは言い返す暇すら与えてもらえず、ニックによって荷物を投げるように渡された。
この三人に良いように思われていないのは分かっていたが、まさかここまで拒絶されることになるとは。
三年間もこのギルドに尽くしたというのに、酷い扱われ方である。
もう何も言いたくない。
一瞬だけ自分の外れスキルを恨むが、すぐに三人への恨みに変わった。
「それじゃあな。頑張って次のギルドを探せよ」
「追放のレッテルがある存在を、他のギルドが拾ってくれるわけないだろ」
「そんなこと言われても知るかよ」
その言葉を最後に、ルークは無理やり部屋から追い出される。
これからどうするべきなのか。
どこに行けば良いのだろうか。
その答えは、全くと言っていいほど出てこない。
「やっとお荷物がいなくなってくれたねー」
「そうだな」
「それより、隣の街に新しい店ができたみたいだぜ?」
こうして。
部屋の中から聞こえてくる声を無視して、ルークは歩き始めたのだった。