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「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています  作者: 猫屋ちゃき


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22、世界の異変

 フランツの顔が真剣で、彼が冗談を言っているのではないということはわかった。

 でも、あまりに不穏で、すぐに呑み込めない。


「ギルドが私たちを騙してるって……」

「じゃあ、世界に異変が起きていることは、何か彼らから知らされたか? 大方、面倒が起きなければ黙っていればいいという考え方で、未確定の要素がある場所にも冒険者を派遣していたんじゃないかと思うんだがな」

「それは……」


 フランツの指摘したことに、全く否定する要素はなかった。同じことを考えたのか、ディータも苦い顔をしている。

 ギルドに登録されるために試験を受けたときも、火吹き鳥の生態は聞かされたものと異なっていた。ゴブリンたちも、イナビカリタケも、こちらの想定していた状態ではなかった。

 自然を相手にしているから、そんなこともあるかという気持ちで流していたけれど、それをギルドが把握していたとしたら話は別だ。


「とにかく、ギルドはこちらが困っていても理由をつけて依頼を受けてくれないから、もともと環境調査をしていて異変にいち早く気がつく教会に頼んでたってわけなんだ」

「それは理解できました。でも、調査って?」


 家を飛び出してしばらくの間、教会に身を寄せてきたけれど、彼らが環境調査を行っていたというのは知らなかった。


「教会はもともと、神の遣いである聖なる竜を探してるらしいんだ。で、聖なる竜が神から遣わせられるときは世界に危機をもたらす存在が現れるから、その予兆を見逃さないよう、わずかな異変でもきちんと調べてるってことなんだと。ギルドよりもモンスター退治に熱心でいてくれるのは、それが理由だな」

「聖なる竜……」


 フランツの話を聞いて、ディータは考え込む様子を見せた。

 私も、いろいろなことが引っかかる。というより、教会のしていることを知ると、どうしてもギルド側に思うことが出てきてしまう。


「……ギルドが悪だとはいわないのですけれど、何というか……絶妙に自分たちに都合の悪いことから目をそらし、できる限り長くギルドという組織を維持したいんだろうなという感じがしますね」

「そのために、組織の一端を担っているはずの冒険者を危険に晒してもいいって姿勢が問題だよな」


 私もフランツも、そこの部分の意見は一致した。

 まだ決定的に何かが起こっていない今の段階で、冒険者に事を周知するのは難しいだろう。いたずらに不安をあおると、思わぬ事故を招くこともある。

 ただ、モンスターたちに異変が起きていることについては、ひと言注意があってもよかったと思うのだ。


「まあとにかく、どのみちうちの領地で起きてることはギルドは引き受けてくれない。だから、イリメルたちが見に行って対処してくれると助かる」

「わかったわ」


 フランツが頭を下げると、ずっと口を挟まずにいた両親も頭を下げた。これは私にではなく、一緒に行ってくれるディータに対してだろう。


「何が起きているのかはわからないが、気をつけなさい。教会の言っている聖なる竜とやらが、早く見つかればいいんだが……」


 父はまだ私のことが心配なのだろう。祈るようにそんなことを口にする。

 聖なる竜の話は、教会に身を寄せ、それなりに信心はしてきたつもりでも、私は知らなかった。だから、そんな話を聞いても不思議な気分になる。


「いや……五十年前に聖なる竜が現れてくれたら、滅びずにすんだんじゃないかと言われている国があるんだ。だから、この国に異変が起きている今、どうしてもすがってしまうんだよ」

「宿に仲間を待たせていますので、そろそろ出発しますね」


 悲痛な様子で何かを語りだそうとした父の話をさえぎって、ディータは立ち上がった。

 そのことに少し引っかかりを覚えたものの、確かに急いだほうがいいと思って私も従った。

 こうして私たちが椅子に座って話している今もなお、領地の人たちはモンスターに苦しめられているかもしれないのだから。


 領地の人たちを驚かせてはいけないということで、スイーラはシュティール家においてきた。というより、可愛いもの好きの母が興味津々で、世話をしたそうにしていたのだ。

 これから先はギルドの依頼と違って人の多いところへ行くから、預ってもらったほうがいいかもしれないとディータも言うため、基本的な扱い方を教えて屋敷を出てきた。

 それから宿に戻って事情を話すと、ミアもアヒムも二つ返事で了承してくれた。


「シュティール家の話ってことは、結果的にイリメルの困り事でしょ。だったら、力になるのは当たり前でしょ」

「それに、どのみち教会経由でこちらに持ち込まれた話かもしれないからね」


 ミアもアヒムも、そんな感じで乗り気だった。

 ひとりだけ、ディータの様子がいつもと違うのは気になったけれど。


「ディータさん、どこか調子が悪いんですか?」


 シュティール家の領地へ向かう馬車の中、ずっとディータが考え事をしているのが気になって思わず声をかけた。

 不機嫌なわけではなく、物思いにふけっている感じがする。それは、彼には珍しいことだった。

 

「あ、いや……ギルドにずっといたから、異変について深く考えなかったなって。依頼をこなすことに必死で、気づくべきことを見落としていたというか。そういうの、まずいよなぁって」


 何か責任を感じているような物言いだ。もしかしたら、冒険者としてうちの領地で起きていることに責任を感じているのだろうか。


「何事も俯瞰して見ることができたらそれがいいですけれど、難しいですよね。それに、自然を相手にしているのだからこんなものかとしれないとは、現場に立つからこそ思うことですし」


 何とか慰めになるようなことを言ったつもりだったけれど、ディータにはいまいち届いていないようだった。

 だからそれからは下手に口を開かず、目的地へ向かった。


「わ……物々しい。これも、モンスター対策か」


 領地の村へやってきてすぐ目に飛び込んできた光景に、アヒムが思わずといった様子で呟いた。

 それは、畑の周りにぐるりと巡らされた柵だ。その柵には、トゲトゲのものが巻きつけられている。

 話によると、畑を荒らしているのはイノシシ型のモンスターなのだという。人里に下りてくることはあまりないと言われているはずなのに、今年は収穫期を見計らったように何度もやってきているとのことだ。


「イノシシの住処といえば、森の奥でしょ? ここに現れるのを待つよりも、先に偵察へ行きましょうか」

「そうよね」


 ミアの提案で、私たちは森へ行くことにした。

 農業と林業で細々と暮らしを保っている小さな村だ。そこで慎ましく暮らしている人たちを守らなければと、私は注意深く観察するつもりで歩いた。

 何年もかけて木を育て、木材として売り出すために、この村の森はよく手入れされている。木材になる木だけでなく、果物や木の実が採れる木も豊富に生えている森だから、イノシシ型モンスターも居ついているのだろう。

 本来だったら今の時季は、美味しい果実が実っているはずだ。でも、森に入ってから気づいたのは、それらの実りがあまりないことだった。

 何かがおかしい――それを誰かに知らせようかと思ったそのとき、叫び声が聞こえた。

 そして、こちらに走ってくる気配を感じる。


「助けてくれ! 殺される!」


 走ってきたのは、格好から木こりだとわかる男性だ。その必死の形相の彼の背後に迫るのは、蜂の群れだった。

 しかもそれは、あまりに大きい。カラスくらいの大きさの蜂の軍団に追いかけられれば、叫んで逃げ出したいのはわかる。


「早くこっちへ!」


 ディータが男性に声をかけ、位置を変わるように前へ出た。そして、こちらに向かってくる巨大蜂の群れを大剣で一閃する。

 しかし、向こうは数でこちらを圧倒していた。

 一閃したところで、すぐに後続の蜂がディータへ殺到する。


「防壁を!」


 私がすぐさまバリアを張ったところで、アヒムが何かを詠唱していた。

 直後、ミアの体が光りだす。何らかのバフがかかった状態だとわかる彼女は、巨大蜂を拳で各個撃破していく。

 その横で、バリア越しにディータが剣を振るい、向かってくる蜂を切り落としていく。


「イリメルさん、焼き払おう」

「わかりました」


 アヒムにそう言われ、私たちは火の魔法を放つ。

 羽根を焼かれ、飛行能力をなくした蜂たちが次々と地面に落ちていく。それを私は、ワンドに攻撃力付加の魔法をかけ、押しつぶすように殴っていく。

 巨大蜂と戦うのは初めてだったけれど、次々群がってくるタイプのモンスターとやりあうには、燃やしてから叩き潰すのが一番なのだ。

 ディータのように剣が使えるわけでも、ミアのように格闘ができるわけでもないから、私には攻撃バフを乗せて殴るしかない。


「ふぅ……これで何とか片付きましたね」

「イリメル、相変わらずえっぐ……」

「わぁ! すごい……やっぱりイリメルさんには才能がありそうだ……」


 ひと息つく私を、ミアがドン引きした目で、アヒムが感激した様子で見ていた。

 ディータだけが、何かを考え込む様子だった。


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