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「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています  作者: 猫屋ちゃき


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15/30

15、魔石坑道へ

 アヒムを仲間に加えた翌日、彼は早朝に私たちの泊まっている宿を訪ねてきた。

 まだ目覚めていなかったため私もディータも驚いたけれど、スイーラだけはご機嫌だ。早速彼の脚に飛びつき、ガジガジしている。

 スイーラがお相手してくれているうちに私もディータも朝の支度を済ませ、早くからやっている食堂へ向かった。アヒムが何か用があったのだろうけれど、とにもかくにも腹ごしらえのほうが大事だから。


「で、何だってお前はこんな朝早くに俺たちを起こしに来たんだ?」


 朝食をとって、ようやく落ち着いて話ができるようになった。我慢して起きたはいいものの、正直眠たかったのだ。それが食事をして体に栄養を入れたことで、ようやくマシになった。


「単純に、怒られるかなと」

「……は?」

「いや、用はありましたよ。でも別に、早起きの必要はなかったんだ」


 あまりにも悪びれず答えるため、ディータは絶句していた。それに、ここで怒ると彼の思う壺だからだろう。ぐっと堪えているのがわかる。


「なるほど。あまりこういうことはしないでほしい。それで、用はなんだ?」

「今日、魔石が採れる場所にいかないかなって提案をしにきました」

「魔石が採れるところは、大抵高難易度で俺たちの冒険者ランクでは受けられない依頼じゃ……」

「小規模なところなら、Aランクの冒険者による引率があれば可能なんですよ」


 魔石とは、文字通り魔力を含む石のことだ。魔導回路で動くものの燃料になるため、重宝されている。ようは、高値で精算できるアイテムだ。

 とはいえ、ディータの言ったように高難易度の依頼だし、難易度と照らし合わせると報酬がものすごくいいというわけでもなかったはずだ。


「何で魔石にこだわってるんだって顔をしていますが、まあ、必要なんです。あなたたちにも悪い話ではありませんし。なので、もし他に優先すべき用事がないのなら、今日は魔石採りにいきませんか?」


 ディータはじっと私の顔を見た。私は特に異論はないため頷くと、ディータもアヒムに向き直って頷いた。


「俺とイリメルは、あんたみたいにAランクの冒険者じゃないから、危なかったら途中で帰還するからな」

「それはもちろん。でも、ディータさんの冒険者ランクは正しく測られたものではないでしょうに……」


 アヒムは何か言いかけたけれど、ディータが少し怖い顔をして見るとすぐに口をつぐんだ。


「では、行きましょうか。スイーラくんも行こうと言ってますから。イタタッ」

「そうですね。こら、スイーラ。アヒムさんをそんなに齧ってはだめ。どうしたんだろ……この子、噛み癖があるような子ではなかったんです。すみません」

「いいんだ。これぞ王者の風格というやつだろう。下僕の扱いがわかっている」


 スイーラがあまりにもアヒムを齧るから、私はそれをやめさせようとした。でも、スイーラもやめないしアヒムも嬉しそうにしているから、もう何もつっこみたくなくなった。

 それはディータも同じだったらしく、それ以上何も言わずギルドへ行き、私たちでも受注可能な魔石関連の依頼を受けた。


「……わかってちゃいたけど、やっぱギルドが把握してる難易度と現場の状況は一致しないよな」


 出発ゲートから目的地付近にたどり着き、お目当ての場所を見つめてディータが、苦々しく言った。

 彼が見つめていたのは、坑道跡地。

 かつては石炭を掘り出すためのトロッコなどが整備された場所だったのだけれど、魔石が出ること、そしてその魔石を狙ったモンスターが出ることから立ち入りを禁止されている土地だ。

 魔石が出る場所は魔力が噴出し蓄積されてきたポイントだということで、モンスターが変質しやすい場所なのである。

 でも、ここはもともとコウモリ型のモンスターくらいしか出ないから難易度は高くないと言われていたのだけれど、少し離れた場所からでもコウモリ以外がいるのがわかる。

 坑道の中から、こちらを見つめてくる光る無数の目。それは、試すようにこちらに石を投げてきた。


「なるほど。ここには魔石猿が繁殖しているみたいですね。読んで字の如く、魔石を体に付着させている猿モンスターです。何らかの原因で魔力を取り込み、それが体内でうまく処理しきれず体表に瘤のように結晶化して現れてしまうという、魔石をまとった猿なんですよ」

「うわぁ……普通の動物がモンスター化するって話を聞いたことはあったけど、本当にいるんだな」

「まあ、それは一般論で、僕はどこぞの研究施設が秘密裏に生み出したものが逃げ出して野生化したんじゃないかって考えてますけどね」


 坑道の入り口を見て、ディータとアヒムがそんな話をしていた。

 その横で、スイーラが勇ましい顔つきで唸っている。

 これまで採取系の依頼に連れて行ったことはあるけれど、討伐は初めてだ。戦えるのか不安だったものの、この様子を見ると狩りができる生き物なのかもしれない。


「じゃあ、俺が斬り込んでいくから、イリメルはバリアとバフを、アヒムは相手にデバフをかける合間に攻撃をお願いできるか?」

「わかりました」


 とりあえず坑道へ入ってみないことにはどうにもならないということで、ディータがそう指示を飛ばした。

 それから、彼の後ろをついていく形で突入した。

 

「こうした暗がりに入っていく際、相手がいるのがわかっているなら必ず光源を確保して。夜目がきく連中と同じ条件で戦ってはだめなんだ」

「はい」


 坑道に入ってすぐ、アヒムがたくさんの光球を作って飛ばしてくれた。そのおかげで明るくはなったけれど、全体を把握するには足りなかった。

 その暗がりから、石が飛んでくる。


「バリアを張ってて正解だったな。向こうは隠れて石を投げてくるしかできないとなると、見つけて各個撃破していくのが正解か」


 そう言って、ディータは走り出した。私は彼に言われた通り、バリアと彼の能力底上げのための加護魔法を展開する。

 ディータは気配を察知した魔石猿を斬り捨て、索敵してまた斬り捨てている。

 アヒムは私の隣で、炎や風の魔法を放って敵を殲滅していく。

 スイーラも、自分の近くに来たモンスターに吠えたり噛みついたりしている。

 それでも、坑道内の魔石猿たちの気配が減ることはない気がしていた。


「敵の総数が見えているときなら、この戦い方でもいいんですけどね。ディータさんの、我々を後ろに下げて守りたいという意志もわかりますし」


 アヒムの言葉に、何となく不満そうなのが透けて見えた。でも、私も不満とは違うけれど、この戦い方ではいけない気がしていた。


「数が多いのなら、一気に行動不能にして叩いたほうが効率がいいですよね。このままだと、こちらも消耗戦になりますし」


 今の戦い方だと、全くパーティーの利点を活かせていない気がしていた。


「それなら、イリメルさんは僕を信じて前に出て戦ってごらん。大丈夫。いざとなれば僕も治癒とバリアくらいは代われる。それより、あなたが前衛でどう戦うか見てみたい」


 私の言葉を聞いて、アヒムがそんなことを言った。

 思えば、ディータと出会ってからはサポートに回るばかりだった。それまではずっとひとりでモンスターを狩っていたから、正直今の生活に物足りなさを感じていた。

 だから、アヒムの言葉は魅力的だった。それに、このままでいるより役に立てる気がして、私は前に飛び出す。


「目を閉じてください! 三、二、一、――閃光(スパーク)!!」


 私はギュッと目を閉じ、魔法を放った。すると、杖から瞼を焼くような光が放たれ、直後、坑道内にモンスターたちの叫び声が響く。


「よし、今です! 仕留めてください」


 目を開けて、魔石猿たちを行動不能にしたのを確認して、私は声を上げた。

 暗がりで生活しているなら、光にあまり耐性がないはずだと考えての作戦だったのだが、うまくいった。

 閃光で視界を奪って動けなくなっているうちに、各自目についた魔石猿たちを討っていく。

 数が多いため、この作戦はひとりではうまくやれなかっただろう。でも、三人で手分けすればそう難しくなかった。


「……終わった、か?」


 剣を下ろしたディータが、耳を澄ませる動作をした。もう何も聞こえない。暗がりから石が飛んでくることもない。


「完了ですね。よし! 今からは魔石集めですよ! スイーラくんは早速やってますから、我々も負けずに頑張りましょう!」


 アヒムに言われて見ると、スイーラがまるで庭を掘る犬のように熱心に前足で魔石を集めていた。

 今回の依頼は坑道に巣食うモンスターの討伐だけれど、魔石は持ち帰れば精算できる。だから、私たちは少しでも多くの集めようと頑張った。


「さっき、ありがとな」


 隣に来て魔石を集め始めたディータが、何だか言いづらそうに言った。


「あと、ごめん。イリメルのこと戦えないと思っていたわけじゃなくて……」


 彼が何に申し訳なく思っているのかわかって、私は何だか気持ちが救われるようだった。

 確かに前衛で戦えなくて少しやきもきしていた部分はあった。でも私は、ディータに守ってもらうのが嫌なわけでは、決してないのだ。

 むしろ、婚約者に「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄されてから、どこかで〝私は守ってもらえない〟という傷ついた気持ちを持っていた。

 だから、そのいじけた気持ちはディータと初めて出会って守ってもらったときから、ずっと救われている。


「できないときは、もちろん後ろに下がります。でも、隣で戦えそうなときは役に立たせてください」

「ああ、もちろんだ」


 ディータが安心したように笑ってくれたところで、私もほっとした。

 でも、ちょうどそのとき、アヒムとスイーラが何かを騒がしくしていた。


「スイーラくん、それを食べたい気持ちはわかったけど、そんなに急いで食べたら……」


 慌てるアヒムの前で、スイーラが集めた魔石を食べていた。まるでお菓子を食べるみたいにシャクシャク食べている。

 それを信じられない気持ちで見つめていると、次の瞬間ボンッと激しい音を立てて、スイーラの体が大きくなっていた。


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