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「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています  作者: 猫屋ちゃき


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12、危険なキノコ狩り

「え、あの……だめって、どういうことですか?」


 まさか、私が店主が望むローブ系ヒーラーではないから拒否されているのではないかと焦った。

 しかし、店主はそんな私の様子を見て、すぐさま首を振る。


「だめって、お嬢さんがだめってことじゃなくてだな、その装備とお嬢さんの相性があまり合ってなかったんだと思ってな」

「そんなことが、ひと目でわかるんですか?」

「当たり前だろ。こちとら、それで商売やってんだ。傷み具合を見れば、その人の癖や体質なんてもんがわかるんだ」


 そう言って店主は、様々な角度から私のことを見た。

 雑に使ったつもりはないけれど、そうして装備を確認されると、緊張してしまう。


「なるほどな。お嬢さんは、魔力をチャージしておけるタイプの装備にしないと傷みが早くなるんだろう。お嬢さんはヒーラーとして常にバリアを張っておくくらいがちょうどいい、魔力保有量が甚大で、おまけに体内に貯めておけないタイプなんだよな」

「……知りませんでした」


 店主に指摘されて驚いたけれど、確かに思い当たることはあった。

 というのも、私はこれまで訓練中も実践でも魔力切れを起こしたことがない。魔力が足りず上級魔法が発動できないといったこともない。教会で魔法を教わっているとき、恵まれていると言われていたから、そんなものだと思っていた。

 でも、それだけ恵まれた魔力ゆえに装備が傷んでしまうなんて、考えもしなかった。


「といっても、俺はそういうことを見越してお嬢さんに装備を売っておいたからな。今日は装備を一新するんじゃなくて、アクセサリー一式を修理すれば大丈夫だ」

「本当ですか? よかった……」


 思いのほか出費が少なく済みそうで、私はほっとした。

 これまで一緒に行動してきて、ディータが自分の装備を新調したところを見たことがない。そのことに申し訳無さを感じていたから、出費は少ないほうがありがたいのだ。


「じゃあ、今回は修理だけで」

「またお嬢さんに良さそうな装備、見繕っとくよ。このちっこい生き物にも何か着せてやりますか?」


 店主は小さな生き物が好きなのか、スイーラに目線を合わせてニコニコした。

 そのとき、ふと隣のディータを見ると、彼は上の空で別のところを見ていた。

 

「あ……」


 彼の視線の先を辿ると、いろいろな剣を取り揃えている店だった。そのうちのひとつを、熱心に見ている。


「やっぱり男なら、ああいう剣に憧れるよな。魔力をチャージしておける武器は、ロマンなんだよ」


 店主がそう解説してくれたおかげで、ディータが見つめているのがどんな武器なのかわかった。

 本当は、そういうものにお金を使いたいのだろう。


(もっと効率よくお金を稼げるようになったら、ディータさんもほしい武器が買えるわよね……よし、稼ごう!)


 私はアクセサリー一式の修理代を店主に払いながら、今後の目標としてあの魔法剣をディータに贈ることを設定した。


 そのためにも、生きていくためにも、とにもかくにもお金がいる。

 というわけで、私は例の眼鏡のギルド職員にこっそりと、報酬が大きな依頼があったら紹介してほしいと頼んでおいた。

 スイーラを拾ってからというものの、ディータは少しでも危険が伴う依頼には自分ひとりで行き、私とスイーラを連れて行くのは採取がメインの穏やかなものばかりだ。

 だから、そろそろ私も戦いに行きたいと思っている。スイーラも大きくなってきたし、少しずつ難しい依頼にも挑戦していけると思うのだ。

 最近は、留守番しているときはスイーラと訓練もしている。

 体が大きくなってきてわかったのは、スイーラの背中の羽はどうやら飾りではなさそうだということだ。

 だから、シャボン玉でつって追いかけるついでに羽ばたかせてみたり、私が少し高いところに登って気を引いて飛ばせてみたり、少しずつ身体能力を鍛えていっている。

 テイマーではないからこの子に戦いのことを教えられるかはわからないけれど、備わった身体機能を使いこなすための手伝いくらいはしてやれそうだ。

 そんなふうに来るチャンスに備えていたある日、ギルドに顔を出すと眼鏡の職員がニコニコと手招きしてきた。

 その顔を見れば、彼が約束通りちょうどいい依頼を見つけてくれたのだとわかる。


「イリメルさんが言っていたような依頼が、いい感じに入ってきたんですよ。スイーラも一緒に挑戦できると思います」

「わあ、嬉しい!」


 職員の言葉を聞いて、私は足元に控えていたスイーラを見た。中型犬くらいに成長したスイーラは顔つきに賢さが出てきて、言葉がわかるのか嬉しそうにしていた。


「特殊なキノコの採取なのですが、これがこいつらの性質上、採取というより討伐なんです」

「つまり、キノコ型モンスターということですか?」

「その通りです。しかも、ゴブリンたちに守られているので、簡単には手を出せないんです」

「では、ゴブリンたちの動きを抑えつつ、キノコを狩らなければならないんですね」


 職員の話を聞きながら、私はスイーラとどう連携を取るのか考えていた。

 一番よさそうなのはゴブリンを私が魔法で動けなくしながら、スイーラがキノコを威嚇しつつ集めてくることなのだけれど、この子がそこまでのことをできるか自信がなかった。

 かといって、まだ幼生であるスイーラをゴブリンの群れに立ち向かわせるなんて、心配すぎてできない。


「それなら、ゴブリンはイリメルが動けなくして、俺とスイーラでキノコに挑めばいいんじゃないのか?」

「え?」


 カウンターで頭を悩ませていると、ふいにそう声をかけられた。

 振り返るとそこには、依頼を終えて帰ってきた様子のディータがいる。彼がでかけている隙に依頼を受けてしまおうと思っていたのに……。


「今の作戦じゃだめだったか?」

「だ、だめじゃないです……」


 ディータは私たちがまさか自分を置いて依頼に行くだなんて思ってもいない様子でいるから、だめだなんてとてもではないけれど言えなかった。

 

「じゃあ、この依頼を受注するということでよろしいですね」


 眼鏡の職員は私の事情を少し察しているから、気遣うような視線を投げかけていた。

 ディータが合流するのは想定していなかったけれど、この依頼が成功すれば結果的にお金は手に入れられるから、よしとしなければならない。


「そうだな。早く行こうな」


 待ちくたびれたスイーラが、リードを加えて急かした。

 だから私もディータも早足で出発ゲートに向かう。


「依頼を受けに行くときはさ、ちゃんと俺に声をかけてくれよ。じゃないと騙されて、割に合わない依頼を掴まされるかもしれないんだからな」


 やはり何か気づくことがあったのか、出発ゲートの小部屋の中でディータがチクリと釘を刺してきた。私たちがコソコソしていたことは、ちゃんとわかっているようだ。


「わかりました。次は、ちゃんと一緒にいるときに受けるようにします」


 隠し事をされたと思って彼に悲しい思いをさせたいわけではないから、私は素直に頷いておいた。彼にプレゼントするものは、時間がかかっても少しずつ貯めて買うしかない。


「もうすぐ着くけど、ゴブリンがいきなり攻撃してくるかもしれないから気をつけとけよ」

「はい」


 魔法陣の光に包まれ、次の瞬間には森へと辿り着いていた。

 ディータの忠告どおり、もしかするといきなりゴブリンに襲われる可能性もある。だから、杖を構えていたのだけれど、どうにも想定していた雰囲気と違っていた。


「何でしょう……静か、ですね」


 まだ昼間で、本来だったら森の中には生き物たちの声や気配がしているはずなのだ。

 それなのに、あたりはしんと静まり返っている。縄張り意識が強いはずのゴブリンが、私たちの気配に反応して出てくることもない。


「場所、間違ったかな。とにかく、歩いてみるか」

「そうですね」


 二人して首を傾げながら、私たちは歩き出した。

 今日は一緒に頑張ると言い聞かせていたから、スイーラもやる気になっていて張り切っている。

 だから、そんなやる気のスイーラに引っ張られるようにして、私たちはしばらく森を歩いた。

 キノコが多く生えているというだけあって、この森は湿度を多く含んでいるように感じる。肌に感じる空気も、土の感触も湿っている。

 長く滞在すると、スイーラの毛が濡れて風邪をひかせてしまうかもしれない。

 そんなことを考えて歩いていると、視界の端を何かが横切った。


「あ!」


 見ると、すぐ近くにゴブリンがいた。

 攻撃されてはかなわないとすぐさま杖を身構えたけれど、ゴブリンはこちらに何もしてこない。それどころか、怯えて動けなくなっている。

 怯えられる覚えがないと思って、少し不思議になった。

 しかし、震えるゴブリンの視線を追って背後を見ると、そこには巨大なキノコが立っていた。

 いつの間にか、周囲をぐるりとキノコたちに囲まれていたのだ。



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