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悪魔との契約②

レオンは、怪我な顔で目を通し始める。


1. レオン殿下は、エミリー・ド・アヴェーヌを専属奴隷とする代わりに、エミリー・ド・アヴェーヌの秘密は、絶対に口外しないものとする。


2.上記の内容に違反した場合、レオン殿下は、状況に応じて適切な責任を取るものとする。


レオンは、眉を顰めた。


「エミリー、条文一だが、秘密とは何だ? 具体的ではないな。お前に他の秘密があった場合、そちらが適用されても文句は言えないぞ」


言われてみれば、そうだわ……。

王妃教育では、契約書の重要性は説かれたけど、内容までは学んでないもの。そもそも法の専門家が作成するものだし。


レオンは、自分が有利になるのだから、黙っておけば良いのに。不備をキチンと指摘してくれるなんて、案外、フェアな人ね。


「書き直すわ」


私は、契約書がバラバラにならないように慎重に向きを変えた。「秘密」の部分に二重線を引き、「聖女であること」と訂正した。


「さぁ、これで良いわ」


「契約書は、双方が保持するが、誰かに見られたらどうするのだ?」


そうだわ……。書面に残せば、誰かに見られる可能性がある。

訂正する前に言ってよ!


「じゃ、どうすれば良いの?」


「知り得た特定の秘密で良いと思うが」


なるほどね。


「そうするわ」


私は、「聖女であること」に二重線を引いた。


「二重線では、誰かに見られれば、読み取られるぞ」


そうよね。


私は、「聖女であること」の部分をグシャグシャに塗りつぶした。


「条文二だが、恐ろしく曖昧だな。具体的にはどういう状況で、どう責任を取るのだ?」


そうね。それもちゃんと決めたほうが良いわよね。


「例えば、私が聖女だとバレて、王太子様の婚約者になるようなことがあれば、殿下がそれを阻止して下さい」


「どのように?」


「それは、殿下が考えて下さい」


「手段は問わないと?」


曖昧にしては、いけないかしら?

でも、どうやって阻止したら良いか分からないわ。こんな時、バカって損よね。

ここは、殿下に丸投げしよう。


「はい。殿下が何とかして下さると信じています!」


私は、レオンに期待の目を向けた。


「無理だ。俺が口を出せば、外交問題に発展する」


無理なら最初からそう言ってー! 期待させないでよ。何とかしてもらえると思ったでしょー!


でも、考えてみればそうよね。王太子の婚約に、隣国の皇太子レオンが口を挟めば、大事になるわ。


「ところで、何か気付かないか?」


ん? 何かとは?


「パトリックは良いのか? この場にいるのだ。全てを知っているとは思わないのか?」


私は、ハッとパトリックを見た。


パトリックは、にこやかに微笑んだ。


何で気付かなかったの……。と言うことは、パトリックに話したのね。


「秘密をこんなに早くバラすなんて、酷いですわ」


「まだ契約前だ」


うっ、ぐうの音も出ないわ。パトリックとも契約を結ぶべきね。


「ところで、この二枚目だが」


いつの間にか、レオンが契約書を手にしている。


見られたーーー!


「なぜ、二枚目だけに追加条文があるのだ?」


「そ、そうですか? 一枚目に書き忘れたようですわ。オホホホホ」


レオンは、全てを察した目で私を見ると、鼻で笑った。


完全にバレてるわ……。


「俺の作成した契約書だ。お前は、生涯、俺の奴隷になるつもりだったのか?」


レオンは、契約書を私に差し出した。


1.この契約内容の期限は一年間とする


そうだわ。期限を定めてなかった。

一生、奴隷にされるところだったわ。


2.レオン・ラ・カルドランは、エミリー・ド・アヴェーヌを専属奴隷とする


3. レオン・ラ・カルドラン及びその執事パトリックは、エミリー・ド・アヴェーヌについて知り得た特定の秘密を、決して口外してはならない


4.条文3に違反した場合、レオン・ラ・カルドランは、エミリー・ド・アヴェーヌに賠償金として金貨一万枚を支払う


5.レオン・ラ・カルドランが、エミリー・ド・アヴェーヌの意に反する命令をした場合、双方で話し合う


何これ……。金貨一万枚? 凄いわ。私の不利になることは、何も書かれていない。

それどころか、私の希望がちゃんと入ってる。私の意に副わない命令は、勝手にできないってことよね。


この最後の条文は何? もの凄い違和感なんだけど。


6.エミリー・ド・アヴェーヌは、レオン・ラ・カルドランに決して惚れてはならない。惚れた場合、エミリー・ド・アヴェーヌは、レオン・ラ・カルドランに金貨一万枚を支払う。


問題ないわ。私を奴隷にする人を、好きになるはずないもの。


「殿下、これで結構ですわ」


私は、サッサとサインをした。レオンの気が変わらないうちに。


レオンも、私に続いてサインをした。


「では、契約成立だな」


サインをしたわね。もう覆せないから聞いてみよう。


「なぜ一年なのですか? 生涯、奴隷にできたのに」


「この国に滞在できるのが一年だからだ」


なるほど。一年でレオンはいなくなるのね。良かったわ。


「一年後には、カルドランへお帰りになるのですね」


レオンの顔が一瞬、曇ったかに見えた。


どうかしたのかしら?


「あぁ。父上と共に政務を行う予定だ」


レオンは、立ち上がると、自分の首元から少し太めの金の首輪を外した。私に歩み寄り、首輪の四角いトップ部分を見せる。


「ここには、盾と獅子の紋様が彫られている。カルドラン国の紋章だ。裏には、俺の名が刻まれている」


突然、すぐ目の前に、レオンの広い胸が覆い被さった。

レオンは、私の首の後ろに手を回している。


何これ? ドキドキして動けない。  


レオンは、首輪を着けると、私を見つめる。


「意味は分かるな。俺の物だという証。奴隷の証だ。いつも身に着けていろ」


私は、首輪に触れた。え? 私、今、奴隷の首輪を着けられた? 


ひぇーーー! ドキドキしてる間に、見えない鎖で首を繋がれた……。


レオンは、微笑みを浮かべると、私の手をギュッと掴む。


今度は何? 


「中庭を散歩するぞ」


レオンは、私の手を引き、ドアに向かって歩き出した。


まさか、手を繋いでのお散歩? 無理無理無理。

男性免疫ゼロの私に、手を繋いでのお散歩は、心の準備が十日ほど必要よ。


「手は……、離して下さい。私の意に副わない命令は話し合うと、契約書に書かれているわ」


そうよ。大丈夫よ。さっき交わした契約書があるんだもの。


「意に副わないのか? では、話し合おう」


良かったわ。ちゃんと契約を守ってくれるのね。


「お前の秘密をバラすぞ。金貨一万枚など、いくらでも払ってやる。それでも、俺の命令に逆らうのか?」


はぁ? そうだわ……。秘密をバラせば、金貨一万枚を払う。この条文は、逆に、金貨一万枚を払えば、秘密をバラしても良いってことになるわ。


騙されたーーー! 


やっぱり悪魔ーーー!


これは、話し合いではないわ。脅しよ。

何て男なの……。どんな相手もねじ伏せ服従させる悪魔……噂は本当だわ。


見事に騙されたね。と思った方は、★★★★★とブクマをお願いします!

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