表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/34

悪魔との出会い②

心臓の鼓動が、早鐘のように鳴っている。


どうしよう……。こうなったら、脅すしかない。黙っていてと懇願すれば、つけ込まれる。

礼儀などに構っていられない。


私は、リボンの端をグッと握り締めた。力を込めて引っ張りながら、一歩進んだ。


「もしも、このことを誰かに話せば」


私は、力強く、もう一歩進んだ。青年の前に、顔をズイッと寄せる。


うっ。イケメン。眩しいわ。けど耐えるのよ。惑わされちゃダメ!


私は、大きく息を吸った。


「私、死ぬから!」


「は?」


何よ。きょっとん顔して。理解していないのね。


「だから、貴方の目の前で死ぬって言ってるの。寝覚めが悪いでしょ? 自分のせいで誰かが死んだなんて。一生、後悔するわよ」


最後にダメ押ししなきゃ。


「それだけじゃないわ。死んだ後も、ずーっとずーっと呪ってやる! 毎日、貴方の眠りの邪魔をするわ。貴方が死ぬまでね。辛いわよ。そのうち精神を病むわ」


「まさかとは思うが、俺を脅しているのか?」


何ですって? バカにしてるの?


私は、力任せにリボンをグイッと引っ張った。


青年は、握っていたリボンの端をパッと離した。


えっ? 


私は、その反動で見事な尻餅をついた。


痛いっ! 何なの。急に手を離すなんて酷いわ。


青年は、プッと吹き出した。


笑ったわね。何て失礼なの!


青年が、嬉しそうに私を見下ろす。


「要するに、俺は、お前の弱みを握った訳だ」


えっ? 何でそうなるの?


青年は、しゃがみ込むと、落ちていたリボンを拾った。


私の左手を取ると、手首にリボンを巻き始めた。


「誰にも見られないようにしろ。今日からお前は、俺だけの専属奴隷だからな」


は? 専属……奴隷? 


青年は、リボンをキュッと結ぶと、悪魔の顔で微笑んだ。


嘘でしょ……。全身から力が抜けていく。奴隷など冗談じゃない。でも断れば、聖女であることをバラされてしまう。


その時、私はハッと思い出した。


目の前の男は、隣国の大国、カルドランの、レオン国王陛下だ! 今はまだ皇太子だわ。

どんな相手もねじ伏せて服従させる、まるで悪魔のようだと有名だった。誰も逆らえない。悪名高き王……獅子王とも呼ばれていた。


私は、レオンが視察に来た時に、何度か言葉を交わしたことがある。

周囲の者は皆、奴隷のようにレオンに付き従ってた。


確か、私より一つ年上だったはず。アンドレと同じ歳ね。

レオンも、この夜会に招待されていたなんて、前世では気付かなかったわ。


だけど、瞳の色は綺麗な銀色だったはず。……光の加減で、銀にも金にも見える瞳だったのね。


あの獅子王が、今、目の前で笑っている。悪魔の微笑みを浮かべて。


よりによって、レオンに知られてしまうなんて……。


レオンは、私の手を取ると、立ち上がらせた。


「怪我はないか?」


んっ? 意外に優しい?


「怪我をすると、奴隷として、こき使えなくなるからな」


やっぱり悪魔――――!


まずいわ。このままじゃ、何とかしなきゃ。


「レオン殿下、それでは契約を交わしましょう」


これも王宮で学んだ知恵。キチンと書面で契約を交わさなきゃ、何をさせられるか分からない。


「前向きなのは嬉しいが、なぜ俺の名を知っている?」


しまったー!

レオンと初めて会ったのは、アンドレとの婚約の儀だった。

二度目の人生、むずい~。


「す、数年前、お父様と隣国に行った際、殿下をお見掛けいたしました」


「そうか。お前、名は何という?」


そうだわ。ここで嘘を吐けば良いんだわ。

どんな名前が良いかしら? 


「嘘を吐けば、不敬罪に問うぞ」


出たー! 伝家の宝刀、抜いたわね。これだから王族は嫌いよ。

仕方がないわ。調べられれば、どうせバレてしまうもの。


「エミリー・ド・アヴェーヌと申します」


「では、近いうちに遣いの者をやる」


まさか、私をカルドランに連れて行く気?


「あの……、私を娶る気ですか?」


「お前を俺が? なぜだ」


「カルドラン大国でも、聖女は貴重な存在でしょう?」


「怪我や病気が治れば確かに便利だが、俺には聖女など必要ない。人の生き死には神の領域だ。聖女だからと言って、人間が左右すべきではない。怪我や病気から学ぶこともある」


レオンは、悪魔の微笑みだけを残して、立ち去った。


聖女を必要としてないのね。っていうか全否定ね。

でも、良かったわ。聖女を特別視していない。


レオンといえば、女を一切寄せ付けないことでも有名だった。婚約者を持たず、ずっと独身を貫いていたはずよ。なのに、何で……。


それにしても、専属奴隷だなんて……。

私は、深いため息を吐いた。



部屋に戻った私を、ハンナは心配そうに出迎えた。


「お嬢様、大丈夫でしたか?」


「全然大丈夫じゃなかったよー」


半泣きでハンナに抱きついた。


私は、ハンナに一通り、事の成り行きを話した。


「つまり、お嬢様はアンドレ殿下と、有り得ない程の関りを持った。さらに、隣国の皇太子に聖女であることがバレて、奴隷にされた。と?」


改めて聞かされると、相当やらかしてるわね。


ハンナは、腰に両手を当てた。


「なぜ、そうなるのです? あれほど、壁の華に徹するように言いましたよね?」


怖い怖い。ハンナの瞳の中に、怒りの炎が見える。


「でも、リボンが解けたのは、ハンナがちゃんと結んでくれなかったから」


私は、ハンナを上目で見た。


「奴隷にされたのは、私のせいだと言いたいのですか? サテンのリボンは、ツルツル滑るのです。ドレスに合わせて共布のリボンを徹夜で縫った私が悪いと? サテンのドレスを選んだのはお嬢様ですよ」


ハンナの全身から、怒りの炎がゴーッと燃え上がったかに見えた。


徹夜で縫ってくれたの? 知らなかった。これは、まずいわ。逃げなきゃ。

殺気を感じた私は、部屋の中を逃げ回った。


「嘘嘘。ハンナは悪くないわ。私のせいよ」


逃げながら、何だか楽しくなってきた。あの頃に戻ったみたいだわ。ハンナとまた、追いかけっこができるなんて。


途中から笑い出した私に、ハンナは呆れ顔で足を止めた。手首から、蔦の模様が彫られたシルバーの太い腕輪を外す。


「これは、母から貰った故郷のお守りです。きっと、お嬢様を守ってくれます」


ハンナは、私に歩み寄り、左手首に腕輪を填めてくれた。


聖女の印がしっかり隠れてる。ピッタリだわ。

でも、この腕輪……。


「ダメよ。いつも身に着けてる大事なものでしょ? 受け取れないわ」


外そうとする私の手を、ハンナが押さえる。


「差し上げるとは言ってませんよ。お貸しするだけです。今は、私よりもお嬢様のほうが緊急事態ですから。このお守りが、お嬢様の望む人生を、きっと歩ませてくれます」


ハンナは、可愛くウインクした。


「ありがとう。ハンナ……」


「いつか、その腕輪が必要なくなった時、ちゃんと返してくださいね」


この腕輪を外せる日など、来るのかしら……。

でも今は、ハンナの気持ちが嬉しい。


「分かったわ。ありがとう!」


私は、ハンナに再び抱きついた。


ハンナは本当にお姉さんみたい。と思った方は、★★★★★とブクマをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ