悪魔との出会い①
「殿下、失礼いたします!」
私は、アンドレのズボンのベルトを外した。スルリと抜き取ると、アンドレが噛まれた傷より上を、きつく縛った。
本当に、これで助けられるのか分からない。でも、やるしかない!
私は、アンドレの傷口に唇を押し付けた。血を吸い出し、吐き出した。
何度も、吸い出しては吐き出した。少し、腫れが引いてきた気がする。
その時、背後から声が掛かった。
「殿下!」
振り返ると、アンドレの執事だった。
「毒蛇に噛まれたのです。毒を吸い出しましたが、早く侍医を!」
私が叫ぶと、執事は蒼褪めたまま、駆け出した。
良かった……。これでアンドレもきっと助かるわ。
私は、アンドレを助ける努力をした。死罪は免れたはずよ。
その時、アンドレが薄っすらと目を開けた。
「殿下、大丈夫ですか?」
アンドレが、私の頬に右手を伸ばす。そっと触れた。
えっ……。
苦しそうにしながらも、口元にだけ笑みを浮かべている。
何……。
その時、侍医と数人の王宮の者たちが、駆け込んで来た。
「殿下!」
侍医が傷を見た後、アンドレは、慌ただしく運ばれて行った。
一人取り残された私は、さっきアンドレが触った頬を撫でた。
何だったの、あれ……。アンドレが、私の頬に……触れた?
私は、頭をブンブンと横に振ると、ゆっくりと立ち上がった。
疲れた……。考えるのはやめて、もう帰ろう。
アンドレとは、関りを持たないと決めたのに。とてつもなく関りを持ってしまった気がする。
「わ~~~!」
私は、叫びながら走り出した。
お願いよ、誰か、気のせいだと言って!
神様。私を殺したアンドレを、私は助けました。仇を恩で返したのよ! 私って良い子でしょ? だから、お願いです。アンドレの頭に毒を回らせて、さっきの記憶を消して下さい!
心の中でそう叫んだ時、バンッと誰かと派手にぶつかった。
うっ、左肩が痛い。今日は、何て日なの……。
振り返った私の目の前を、赤いリボンがフワリと舞った。
次の瞬間。
私の左手首から、リボンが引っ張られて、スルスルと解けていった。
嘘でしょ……。
私の左手首の聖女の印が顕わになった。
目の前には、華麗な衣装に身を包んだ青年が立っていた。その青年の胸飾りに、赤いリボンの足が引っ掛かっている。
私は、咄嗟に左手を後ろに隠した。
見られたわよね……?
終わった……。二度目の私の人生、完全終了……。
ハンナのばかー! 何でもっとしっかり結んでくれなかったの!
どうする? 逃げる? いいえ、もしかしたら、見られていないかも。確認しなきゃ。
私は、頭を下げる。
「失礼いたしました」
そっと顔を上げた。
漆黒の闇のような黒髪が風に靡く。銀色と金色が混ざったような綺麗な瞳。イケメン過ぎて目が眩む。だけどこの顔、見覚えがある。誰だっけ?
私の思考は、青年の言葉で遮られた。
「このリボンを外せ。お前の物だろう?」
青年は、私の目の前に、体をズイッと寄せた。
「はい? ……いえ、今、外します」
自分で外してくれれば良いのに。お前のせいだと言いたいのね。
左手は使えない。
私は、右手だけで何とか外そうとした。
けれど、リボンの縫い目の間に、胸飾りの一部が引っ掛かり、外れない。
青年は、冷たい瞳で私を見下ろす。
「なぜ、左手を使わない?」
それ、聞きます? 今、一番聞いてほしくない地獄の質問。
「ひ、左手を怪我しておりまして」
「だったら、早く言え」
青年は、自分の胸元からリボンをスッと外すと、差し出した。
良かった。この様子だと見られてなかったようね。
ホッと胸を撫で下ろした。
私は、リボンを受け取ると、右手だけでスカートを軽く持ち上げた。淑女の礼をする。
「ありがとうございました」
リボンを握り締め、立ち去ろうとした。その時だった。
リボンがグイッと引っ張られた。
何?
振り返ると、リボンの端を、青年が掴んでいる。
「なぜ、聖女の印を隠す? 青い百合の印は聖女の証だ」
ドッキーン! 心臓が跳ね上がった。
見られてたーーーー!
もうバレちゃったね。と思った方は、★★★★★とブクマをお願いします!
 




