表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/34

アンドレとの婚約の挨拶

その夜。


ハンナが、私の部屋に駆け込んで来た。


「お嬢様、母が宝剣について書かれた書物を見つけてくれました!」


「本当に!?」


私は、椅子から立ち上がった。


王宮の図書館にもなかった宝剣について書かれた本。

諦めていたけど、読みたいわ。


ハンナは、赤い布表紙の本を私に差し出した。


手に取ると、題名には「伝説の実在可能性」と書かれていた。


実在? 宝剣が実在する可能性についての本?


「後ろのほうのページに、僅かですが載っています」


私はパラパラとページを捲った。


あったわ! そこには、「時を戻す宝剣の実在可能性」と書かれていた。


『時を戻す宝剣は、金色に輝き腹に赤い宝石が埋め込まれている。どこかの国の王家に、代々、受け継がれているらしい。国が滅びた時に、国王は忠実な臣下にこの宝剣で刺されることを望む。刺した臣下と、刺された国王は、同時に時を遡ることが可能だと言う』


国が滅びた時のための宝剣だったのね。でもアンドレは、自分の願いのために、時を遡った……。


『遡る年数は、約七年』


やっぱりこの宝剣だわ。私は、ちょうど七年の時を遡ったもの。


『なぜ国王は刺されることを望むのか? 宝剣の代償は、刺した者が払わされるからだ』


ハンナの話と合致するわ。


『宝剣は代償として、刺した者の寿命を奪う。刺した臣下は、時を遡っても数年しか生きられない。刺された国王は、やり直しの人生を歩める。国が滅びるのを阻止できるのだ』


待って。刺したアンドレは、数年しか生きられない。刺された私は、やり直せる……。


「おかしいわ。これでは、アンドレの願いは叶えられない。私を助けるだけだわ」


『刺した臣下が生き延びる唯一の方法があると言う。だが、詳細は分かっていない』


「ハンナ、宝剣は伝説ではなく間違いなく実在するわ。ここに書かれている通り、私が身をもって体験したもの。刺した者が生き延びる唯一の方法って何?」


ハンナは、首を横に振った。


「ただ、母が言うには、恐らく刺された者に関係するのではと……」


刺された私に? 私が何かをすれば、アンドレは生き延びられるの?


アンドレは数年の命。救わなければ、ラシェルが悲しむ。

でも、方法が分からない。


「ハンナ、聖女の私なら、アンドレを死の間際に救えると思う?」


「救おうとしてはなりません。宝剣は、呪術的な物です。お嬢様の身に危険が及ぶかも知れません」


私の身に……。でも、放っておくことはできないわ。

刺した者が生き延びる唯一の方法を、探さなないと。でも、どうやって……。


数年……。まだ数年あるわ。

大丈夫よ。王宮に上がれば、宝剣についても調べられるはずよ。





翌日。


アンドレが約束通り、私を迎えにやって来た。


屋敷の入口で、私は挨拶をする。

会うのは、襲われた日以来で、少し気まずいわ。


「アンドレ殿下、わざわざお迎えに来ていただき、ありがとうございます」


アンドレは、私の手を取った。


「エミリー、この間は、すまなかった。君の気持ちも考えず、焦り過ぎたようだ。君の秘密が知られてしまうのが怖かった。先に婚約しよう。そうすれば、レオンも邪魔できない」


婚約してから、男女の交わりをと、思っているのね。

ごめんなさい。私は今日、陛下の前で聖女であることを告げるわ。

その瞬間から、アンドレは私に触れられなくなる。


アンドレが、本当に私を愛してくれているのだとしたら、申し訳ないわ。

でも、私の心も体も、レオンのものなの。どうにもならない。


私は、アンドレの隣に並ぶと、父と母に挨拶をする。


「お父様、お母様、では、行って参ります」


父と母は、複雑な顔で、私を見送ってくれた。


大丈夫よ。心配しないで。強く生きるから。

あっ、そう言えば、私が聖女だと、まだ両親に伝えてなかったわ。

知れば、きっと大騒ぎね。


私は、王家の馬車に乗り、アンドレと共に王宮へと向かった。


あー、これで本当に、また聖女として生きていくのね。



王宮へ着くと、アンドレが、謁見の間に案内してくれた。


玉座には、既に陛下が畏怖堂々と座っていた。


私は、アンドレに手を引かれ、陛下の前におずおずと進み出る。


「陛下、お初にお目に掛かります。エミリー・ド・アヴェーヌと申します」


私は、淑女の礼をした。


この挨拶も二度目ね。一度目はガチガチに緊張していたけど、今はそれ程でもないわ。

人間、慣れるものね。


「男爵家の娘だと聞いていたが、所作の美しさは、まるで王族のようだ」


はい。一度、王家に嫁いでおりましたので。


「お褒めに預かり光栄でございます」


アンドレが、嬉しそうに陛下に説明する。


「父上、エミリーは、この通り美しいのですが、それだけではないのです。成績は、学年トップです。先日の夜会では、僕の命を救いました」


「そうだったな。自分の身体を顧みずアンドレの命を救ってくれた。礼を言うぞ」


「勿体ないお言葉でございます」


アンドレは、自慢げに意気揚々と続ける。


「父上、先日、王宮の玄関ホールのシャンデリアが落下した件はご存じですか?」


「聞き及んでおる。ラシェルが死にかけたと」


「あの時、エミリーが自分を犠牲にして、ラシェルを助けたのです」


そんなに並べ立てないで。私がすごく立派な人間に聞こえるわ。ハードル上がるじゃない。


陛下は、顎髭を撫でた。


「そうであったか。さすがは我が息子。未来の王妃に相応しい令嬢を選んだな」


「ありがとうございます。父上」


アンドレは、嬉しそうに頭を下げた。


私は、顔をスッと上げた。


「陛下、お話ししなければならないことが、ございます」


アンドレが、驚いた顔で私を見た。


私の二度目の人生は、結局一度目と同じ運命を辿る。

でも、一度目とは全く違うわ。レオンと会えたもの。


レオンに、出会えて良かった。

レオンの奴隷になって、良かった。

レオンを好きになって、良かった。


後悔は、しない。レオンとの想い出が、これからの私の人生を支えてくれる。


私は、左手首の腕輪に手を掛けた。外そうとした瞬間。


後方の扉がバンッと勢い良く開いた。


振り返ると、レオンだった。


レオンが悪魔の微笑みを讃えたまま、立っていた。


「レオン様、なぜここへ……」

レオン、来たー。と思った方は★★★★★とブクマをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ