アンドレの真意は?
ラシェルが、呆然と立ち尽くしていた。
「殿下……、何をなさっているのですか?」
アンドレが、振り返った。同時に私は、解放された。
最悪のタイミングだわ。ラシェルに見られるなんて。誤解される。
「ラシェル様、違うのです。これは」
「聞きたくないわ」
ラシェルは、私に背を向けると、駆け出した。
「ラシェル様!」
私は、追いかけた。
図書館を飛び出すと、ラシェルの後ろ姿を見つけた。
「ラシェル様、お願いです。私の話を聞いてください!」
ラシェルの足がピタッと止まった。こちらを振り向く。
「友達だと思っていたのに、酷いわ! 心の中で私を嘲笑っていたのでしょう」
綺麗な瞳から、大粒の涙を流している。
どうしよう……。
「違います。決してそのようなことは」
ラシェルは、そのまま私に背を向け、走り去った。
あぁ、ダメだわ。どう誤解を解けば良いか分からない。
でも、アンドレが来ないうちに、今日は帰ったほうが良さそう。
ある意味、ラシェルが現れて、助けられたわ。
私は、そのまま王宮を抜け出した。
屋敷に戻ると、いつものように、ハンナに事情を説明した。
「お嬢様、アンドレ殿下は、確実にお嬢様に心を寄せています」
「何で? どうして? おかしいわ。前世では、あんなに冷たかったのに」
私は、ベッドに突っ伏した。
「命の恩人を好きになるのは、ある意味、必然です」
「前世でも私は、アンドレの命を助けたのよ。あの時は、聖女の力を使ってだけど。でも、その後、アンドレが私を好きになることは、なかったわ」
「前世との違いは、聖女の力を使ったか、使わなかったかですね……。やはり、毒を含んだ血を吸い出すなど、命懸けで殿下をお救いしたことが原因でしょうか?」
私は、ベッドの上でゴロッと寝返った。
そうかもね……。
はー、宝剣に関する書物は見つからなかったし、ラシェルには誤解されるし。
レオンの命令に逆らった罰かしら?
何だろう……。胸の奥がチクリと痛むわ。
アンドレに抱き締められた時、レオンの顔が浮かんだ。
前世であれ程、恋焦がれた相手に抱き締められたのに。私、変だわ。
「お嬢様。殿下が時を戻した目的は、本当にラシェル様と子を、再び得ることだったのでしょうか?」
は? そこは、確定事項だと思うけど。
「間違いないわ。だって、それ以外考えられないもの」
私は、自分の言葉にハッとした。
そうだわ。なぜあの時、気付かなかったの。
「未来のラシェルと子を救うために、アンドレが医学の発展を進める気だとしたら? 聖女の力は借りられないと、前世で知ったなら、私でもそうする。……アンドレに、前世の記憶はあるわ」
「え! では、お嬢様が聖女であることを、アンドレ殿下はご存知なのですか? でも、それならお嬢様の弱みを、わざわざ聞く必要はありません」
「そうよね……。私には、前世の記憶があることを、隠してる?」
「何のためにですか?」
何も知らない振りをして、私に近づく理由……。何かしら?
「お嬢様。私には、前提が間違っている気がしてなりません。殿下が時を戻した理由は、お嬢様とやり直したかったからでは?」
は? 何をバカなことを。
「ハンナ、それはないわ。だって、アンドレが私を死罪にしたのよ」
「普通、命の恩人を嫌ったりしません。ですが、前世ではお嬢様に触れることは許されませんでした。時を戻し、もう一度出会いから、お嬢様とやり直そうとしたのでは?」
えっ……。考えも付かなかった発想だわ。
「……違うと思うわ。だって、前世でアンドレはラシェルを寵愛していたもの」
「王太子ですから、側室を迎えるのは仕方のないことです。殿下の今の様子から、ラシェル様を想ってはいないでしょう。ですが、男女の交わりで情は湧きます。けれど、殿下の本心は、お嬢様にあったのでは?」
えー。それはないと思うわ。何だか考えるのが、面倒になって来た。
「もう寝るー」
私は、ゴロンと横を向いた。
「考えるのを放棄しましたね」
ハンナは、仕方なさそうに私を転がしながら、着替えさせた。
今日は、いつもにもまして、転がし方が雑だわ。
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