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図書室でアンドレと

翌日、私は学園の図書室に向かっていた。

宝剣について、何か文献が残っているかも知れない。


図書室へ繋がる廊下を早足で歩いていると、背後から声が掛かった。


「ちょっと、待ちなさい」


振り返ると、女生徒が数人、殺気を帯びて立っていた。


来たーーー! この殺気は、確実に女の嫉妬よね。


一人の女生徒が口を開く。


「学園内で、殿方と手を繋ぐなんて、はしたないと思わないの?」


思うわ。できれば私だって、手なんて繋ぎたくないもの。

文句があるなら、レオンに言ってくれれば良いのに。


「男爵令嬢ごときが、レオン殿下と手を繋ぐなんて」

「アンドレ殿下を助けたからって、調子に乗ってるわね」

「助け方も、はしたないわ。殿下のベルトを抜き取るなんて」


次々と、罵詈雑言が飛んで来る。


どうする? 逃げる?  逃げれば、また同じことが繰り返されるわよね。

そうだわ。とりあえず、頭がおかしな振りしよう。


「私、空、飛んだ。昨日、空、飛んだ」


私は、その場で両手を広げ、クルクル回って見せた。


女生徒たちが、ドン引きしているのが分かる。


「何、この子……。気持ち悪い。頭がおかしいの?」


そうよ。だから、私に構わないほうが良いわよ。


私は、クルクル回りながら、女生徒たちに近づいた。


「嫌! 来ないで!」


女生徒の一人が、私を突き飛ばした。


失敗したわ。やり過ぎた!


尻餅をついた私の前に、人影が現れた。


見上げると、ラシェルだった。


「貴女方、何をしているのかしら?」


「ラシェル様」


女生徒たちが、気圧されたように一斉に礼をした。


さすがだわ。公爵令嬢の力は絶大ね。


「エミリー、大丈夫?」


ラシェルは、私を立たせると、再び女生徒たちに向き直った。


「大勢で一人を苛めるなんて、恥ずかしいとは思いませんこと? 学園の品位を落とすような真似は、この私が許しません。貴女方の言動の一つ一つ、全て見られているのですよ。ご自分を貶める言動は、慎むべきでは?」


すごいわ。我がまま公爵令嬢だったのに。

以前のラシェルと違い、毅然としている。


「申し訳ありませんでした。ラシェル様」


女生徒たちは、礼をするとそそくさと立ち去った。


私は、敬意を込めてラシェルに礼をした。


「ラシェル様、ありがとうございました」


「私、レオン殿下に言われて気付きましたの。王妃に相応しい女性を目指して、現在、努力中ですのよ」


ラシェルは、ニッコリ微笑んだ。


それ程、アンドレを好きなのね。


「それにしても、頭のおかしな振りとは、笑ってしまいましたわ。また何かあったら、すぐに私に言ってね」


ラシェルは、キラキラとした笑顔を残して去って行った。


好きな人のために努力をしてる姿は、こんなに素敵なのね。




図書室に入った私は、呪術や伝説に関する本を探した。

何冊か手にしてみたけど、それらしい内容は見つからなかった。


ん? 棚の上に横積みの本が十冊ほどあるわ。

題名が見えない。あんな所に本を積み上げたの、誰よ。


私は、近くの脚立を踏み台に、本に手を伸ばす。

下のほうの本に手が掛かった。そのまま引き抜こうとした瞬間。


うわぁぁぁ。バランスを崩し、体が後ろに仰け反る。

ガッシャ―ン、脚立ごとひっくり返った。


あれ? 痛くない。

振り返ると、アンドレが私の下敷きになって支えてくれていた。


「殿下!」


私は、すぐさま上半身を起こした。


「エミリー、無事?」


アンドレも上半身を起こした瞬間。


上から本がドサドサッと落下してくるのが見えた。

避けられないわ!

私は目を閉じ、身を守ろうと咄嗟に腕を上げた。


あれ? 痛くない。

目を開けると、アンドレが私を庇って、背中で全ての本を受けていた。


「殿下! 大丈夫ですか!?」


何でアンドレが私を助けるの? 私を憎んでいるはずなのに。

やっぱり前世の記憶がないんだわ。


「何ともないよ。エミリー、怪我はない?」


「はい。殿下のおかげで、どこも痛くありません」


アンドレが立ち上がり、私に手を差し伸べる。


手を取らないと不敬罪?


私は、仕方なくアンドレの手を取り、立ち上がった。


「殿下、ありがとうございました。本当にお怪我はありませんか?」


アンドレは、服に付いた本の埃を払いながら、微笑んだ。


「これで、少しだけ借りを返せたかな」


借り? あぁ、命を助けられたことね。


「借りだなんて、とんでもありませんわ」


アンドレは、床に散らばっている本を一冊拾った。


題名に「なんちゃって伝説集」と書かれている。


なんちゃって? ここの図書室には、まともな文献はなさそうね。


「エミリー、伝説に興味があるのかい?」


「侍女が伝説好きでして、話を聞いているうちに、私も興味が」


ハンナ、ごめんね。伝説好き女にしてしまったわ。


そうだわ。ラシェルがあんなに努力をしてるんだもの。

援護射撃してあげなきゃ。


「私、先程、女生徒たちに絡まれているところを、ラシェル様に助けていただきました。公爵令嬢として、とても立派に女生徒を窘めて下さいましたわ」


アンドレは、意外な顔をした。


「ラシェルが? 子供っぽいと思っていたが」


「ラシェル様は、殿下の隣に立つべき素晴らしい女性だと思います」


アンドレは、不機嫌そうに眉根を寄せた。


「そんな言葉、君からは聞きたくない。エミリーは、僕に興味がない?」


は? どういう意味?


「エミリー、君に婚約者は、まだいないと聞いた」


調べたの? まさか私に興味を? それは、ないわよね。

でも一応、牽制しなきゃ。


「私は男爵家の娘ですから、身分相応な方とそのうちに」


私は、目を合わせないように、しゃがみ込んで本を拾い始めた。

これ以上、関わってはダメよ。


アンドレが、私に合わせてしゃがみ込んだ。本を拾っている。


何でーーー! どうか放っておいて。今は記憶がないかも知れないけど、もし思い出したら、憎き相手を助けたこと、後悔するわよ。


アンドレが、顔を上げた。


「君は、身分を気にしているようだが、僕は気にならない」


これは……どういう意味?


「そうだ。王宮の図書館には、伝説に関する本もあるはずだ。週末に来ると良い。案内するよ」


えーーー! いいえ、結構です。


でも、あの宝剣が王宮にあるなら、宝剣に関する文献もあるかも知れない。


あ~、けど週末は悪魔がやって来る。


「ありがとうございます。週末ではなく、明日、学園が終わってからでも、よろしいでしょうか?」


アンドレは、ちょっと驚いた顔をした。


「余程好きなんだな。良いよ」


良かったわ。これで、悪魔にバレずに王宮に行ける。


アンドレが、ソワソワしながら尋ねてくる。


「ところで、レオン殿下とは、知り合い?」


奴隷ですけど、何か? とは、言えない。


「はい。少しだけ」


「レオンに勉強を教えてもらって、学年トップになったとか」


噂が駆け巡る速さは、侮れないわね。


「私がバカなので、見かねたようで。常に学年トップの殿下が羨ましいですわ。オホホホホ」


とりあえず、笑って誤魔化そう。


「レオンを……好きなのかい?」


はぁ? それはないわ。だって奴隷にされてるのよ。


でも、ちょっと待って。好きと答えれば、これ以上ない牽制よね。


私は立ち上がると、本を棚に置いた。


「はい。とても素敵な方なので」


アンドレの顔色がサッと変わった。スッと立ち上がると、私を見据える。美しいブルーの瞳に、怒りが見え隠れしていた。


「どこが素敵?」


え? 急に言われても……。素敵だと思える要素が何もない。

でも答えなきゃ。


「顔が……素敵です」


容姿しか褒めるところを思いつかないわ。


アンドレが鼻で笑った。直後に、私の両肩をガシッと掴んだ。私をグイッと引き寄せる。


え、何!? 近い! 近い! 綺麗なその顔、近づけないで!


「君は、あの顔に惑わされてるだけだ。レオンは君に相応しくない!」


その時、図書室の扉が開く音が、ギーッと響いた。


扉のほうを向くと、レオンだーーー! 

何でこのタイミング。神様、私はそんなに悪い子ではないはずです!


「エミリー、何をしている?」


修羅場だーと思った方は★★★★★とブクマをお願いします!

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