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悪魔と私の嘘

レオンに連れられて、校舎の最上階まで上がった。最上階は、生徒の立ち入りを禁じられている。

こんな所に部屋があるの?


部屋の前には、パトリックが控えていた。

パトリックは、レオンの姿を目に留めると、すぐに扉を開いた。


私とラシェルは、レオンに続いて部屋の中に入った。


そこは、まるで王宮のサロンのようだった。煌びやかなシャンデリアに、ピカピカの紺色のキャビネット類。

窓辺には、豪華な花が飾られていた。


更に、仮眠のためか、体調不良の時に休むためか、天蓋付きのベッドまで完備されていた。


「ここは?」


「視察用に用意されている部屋だ」


カルドランは、我が国よりも大国だから、気遣いが凄いわね。

学園内に、視察用の部屋までわざわざ用意されてるなんて、知らなかったわ。


レオンが、丸いテーブルの椅子に腰かけた。


私とラシェルも、おずおずと椅子に腰かけた。


「それで、エミリーに相談とは何だ」


本当に三人で話す気? いくら何でも、これではラシェルが話せないわ。


ラシェルは、パッと私に向いた。


「エミリー、私、アンドレ様が好きなの」


話せたーーー!


「もしかして、エミリーも好き?」


ラシェル、どういう神経なの? 

レオンの前で、堂々と恋話を。


レオンをそっと見ると、運ばれてきた紅茶を口に運んでいる。

気にしてないの? 気にする私がおかしいの?


「どうなのだ、エミリー。アンドレを好きなのか?」


私に答えを促すとか、そういう立ち位置?


ラシェルを見ると、切羽詰まった顔をしている。

私が、アンドレを好きなのではと、心配しているのね。

こうなったら、答えてあげようじゃないの。嘘でも、ラシェルが最も安心できる答えをね。


「私、アンドレ様ではなく、他に好きな方がいますの」


一瞬、その場が静まり返った。


なぜか、レオンの紅茶を持つ手がピクリと止まった。ゆっくりと顔を上げると、私を見据える。


「好きな奴だと? 誰だ」


急に? なぜレオンが割り込むの?


ラシェルも、身を乗り出して来る。


「そうですわ! 誰ですの?」


乗っかるなー! 貴女を思っての嘘なんだから!


「ラシェル様のご存じない方です」


レオンが、ジロリと私を睨む。


「では、俺は知っているのか?」


深堀するなー! 黙ってて!


「レオン様、私の話はまた今度。今は、ラシェル様のお話ですわ。ラシェル様のお気持ちを、アンドレ様はご存じなのですか?」


私は、さっさと話題を変えた。


レオンは、一瞬ムッとした顔をした。けれど、そのまま何も言わなかった。


良かったわ。何とか、誤魔化せた。


ラシェルは、困った顔を私に向ける。


「分からないわ。私、アンドレ様と結婚するのが、子供の頃からの夢でしたの。アンドレ様には何かとアピールしてきたつもりですけど」


「アンドレ殿下は、ラシェル様のお気持ちに気付いていないのかも知れませんね。先日の夜会は、事実上の婚約者選びだったようですし」


「アンドレ様は、今年で学園を卒業するでしょう? だから、陛下に言われましたの。卒業パーティーまでに婚約者を決めて、エスコートするようにと。それで、夜会が開かれたのですけど、あんなことになってしまって……。私が選ばれると思っていたのに」


そうだったのね。王太子も大変ね。ん? もしかして、私がぶち壊した?


「エミリー、アンドレ様に私を好きか、それとなく聞いて欲しいの」


私が? 何で?


レオンが、ラシェルを睨みつける。


「なぜエミリーが? 自分で聞け」


その通り。私の気持ちを代弁してくれたわ。

今日は、悪魔が大活躍よ。


「そのような、はしたない真似、私にはできませんわ」


それを私にしろと? さっき、そう言ったよね。


「だからエミリー。お願い」


どういう思考回路? 

『公爵令嬢、周りの人間、みんな侍女』そんな感じ?


レオンが、ラシェルをギロリと見据えた。


「君は、自分ができない、はしたない真似を、エミリーにしろと? エミリーがはしたないと思われても構わないと? 自分さえ良ければ他人はどうなっても良いのか? 笑わせるな。何様のつもりだ。この国の公爵家の娘が、これ程お粗末とは。全く呆れる」


その通り。拍手を送りたい気分よ。胸がスカッとしたわ。

でも、言い過ぎー!


ラシェルの表情が一瞬で曇る。目から大粒の涙が零れ落ちた。


あぁ、泣いちゃったわ。どうしよう。


レオンは、プイッとそっぽを向いた。


知らん顔? 泣かせたのは貴方よ。


あぁ、もう。ラシェルの泣く顔は、私の罪悪感を呼び起こすのよ。


「ラシェル様、泣かないでください。アンドレ殿下に想いを寄せるあまり、つい言ってしまっただけですよね? 悪気はなかったんですよね?」


「エミリー、ごめんなさ~い」


謝った……。我がままだけど、本当に悪気はないのね。


「良いのです。私は気にしてませんから。もう泣かないで下さい」


「私、そんなつもりじゃ……。わ~ん」


ラシェルは、ますます激しく泣き始めた。


私が何を言っても、泣き止んでくれそうにないわ。どうしよう。

そうだわ。泣かせた責任を取ってもらうじゃないの。


「レオン様に、アンドレ殿下の気持ちを、それとなく聞いてもらいましょうか。殿方同士のほうが、話し易いでしょうから」


泣き止ませてくれと言わんばかりに、私はレオンを睨んだ。


レオンは、溜息を吐いた。


「その必要はない。今は知らないが、一年ほど前、偶然、婚約者選びの話になった。その時、アンドレ殿下はラシェル嬢の名を挙げた」


ラシェルが、一瞬で泣き止んだ。すごいわ。


「本当ですか?」


ラシェルは、泣いていたとは思えないほど、キラキラと目を輝かせている。


切り替え早いわね。


レオンは頷いた。


「だが、俺たちのような立場の人間は、可愛いだけの女を婚約者にはできない。王妃として相応しいか、その一点のみで選ぶ。周囲に対してのふるまい、気遣い、思いやり、全てを見ている。君が、使用人にまで思いやりを示せるようになれば、殿下も君を選ぶだろう。選ばれたければ、王妃として相応しい人間になれ」


すごい説得力。

けど、獅子王のレオンが言う?

周りの人間を悉く服従させてきたレオンが、気遣いや思いやりを説くとはね。


果たして、ラシェルは素直に聞くかしら?


「殿下、私、肝に銘じますわ。王妃として相応しい人間になってみせます!」


素直に聞いたー!


ラシェルは、笑顔で立ち上がった。


「殿下、私はこれで失礼いたします」


礼をすると、そのまま部屋から出て行った。


良かったわ。レオンのおかげで、おかしな役回りを回避できた。

ラシェルと二人で話してたら、絶対に断れなかったわ。


「レオン様、ありがとうございました」


「エミリーは、俺の専属奴隷だ。あんな女にこき使われて堪るか」


やっぱりね。そんなことだと思ったわ。


「単純な女だ。俺とアンドレが婚約者の話などする訳がない」


は? ということは……。


「嘘だったんですか? アンドレ殿下が、ラシェル様の名を挙げたって」


「当然だ。泣き止ませるために最も効果的な嘘を吐いた」


何ですってー! 

まぁ、でも良かったのかも。王妃に相応しい人間になると張り切ってたし。


私は、立ち上がった。


「それでは、私もこれで失礼いたします」


礼をして、帰ろうとした瞬間。


「誰が帰って良いと言った?」


レオンが、立ち上がった。私の腕を掴んで引き寄せる。腰をグイッと抱き寄せた。


ひぇーーー! 近い、近い!


レオンが、私の顔を覗き込んで来る。レオンの右手が私の頬へと伸びた。そっと触れると、首元へと下りてきた。


うわぁぁぁぁぁぁぁ。無理無理。近すぎる! 心臓がショック死する!


「好きな男とは、マルクか?」


顔が熱い。心臓が壊れるー。


「あ、あれは、嘘です。好きな方などいません。ラシェル様が最も安心する嘘を吐きました」


「嘘吐きめ」


「レ、レオン様に言われたくないですわ」


レオンは、フッと微笑むと私を離した。


良かったわ。解放された。


心臓さん、最近酷使してごめんね。これも全て悪魔のせいです。

心臓さん、大変だね。と思った方は、★★★★★とブクマをお願いします!

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