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アンドレからの誘い

「なぜ、ここに……」


「その男は何者だ?」


レオンが、マルクをキッと睨みつけた。マルクは気圧されたように、私の耳から両手を離した。


怖い怖い……。イケメン悪魔の睨みは、迫力が、えげつない。


マルクは、困惑の表情のまま動けずにいる。


早く、紹介しなきゃ。


「マルク・ド・ヴァロワ伯爵家の長男で、私の幼なじみです」


「では、マルク。エミリーに触れたければ、俺の許可を得ろ。エミリーは俺の所有物だ」


所有物? 物扱い?


「えーと、エミリー、この方は?」


マルクが、小声で囁いた。


「隣国カルドラン大国の皇太子、レオン殿下よ」


マルクは、目を剝いた。


「嘘だろっ……。失礼いたしました。殿下」


レオンは、フンと鼻で笑った。


「レオン様、なぜここに?」


「視察だ。これからは、頻繁に訪れることにしよう。エミリーには、俺の所有物だという自覚がないようだ」


視察なんて、何度も訪れるものじゃないでしょ。学園にまで現れて、こき使うつもりだわ。


「俺の目を盗んで、他の男と仲良くするとはな」


レオンは、明らかに不機嫌な目で、私をジトッと睨んだ。


まるで私がふしだらな女みたいだわ。久しぶりに、幼なじみとじゃれてただけなのに。


周囲で、女生徒の黄色い歓声が、飛び始めた。


『キャー、かっこいいわ』

『どなたかしら? 超絶イケメンね』

『あの方、レオン皇太子殿下だわ!』


女生徒の輪がどんどん大きくなっていく。


皆、見た目に騙されてるわ。この人は悪魔よー!

お願い! 私の心の叫び、伝わって!


レオンは、女生徒たちをギロリと睨み付けた。


「うるさい。黙れ」


静かだけど、低く威圧的な声だった。


女生徒たちは一瞬、ビクッとすると、大人しくなった。


この感じよ。前世のレオンは、常にこんな感じだった。

誰もが恐れる獅子王……。


「エミリー、行くぞ」


レオンが、私の手を取った。


ひぇーーー! 今、ここで?


「レオン様、ここは……学園内ですので」


「ぶちまけるぞ」


「ごめんなさい!」


私は、反射的に謝った。


誰も逆らうことができない獅子王の、本領発揮だわ。


レオンは、私の手を取ったまま、歩き出した。


『何であんな女が?』

『あの子、男爵令嬢よね』

『不釣り合いだわ』


顔面偏差値が違い過ぎると、イケメンの隣って晒し者よね。

皆に苛められたら、あんたのせいだからねー。この悪魔!


ようやく教室に着いたわ。


レオンは、私の首輪に触れると、耳元で囁いた。


「俺は帰るが、忘れるな。エミリー、お前は俺の奴隷だ」


もう絶対、逆らえないー。


私は、コクリと頷いた。


レオンは、満足げな顔で帰って行った。


机に着席した時には、既に疲労困憊って……。レオンのせいだわ。


私は、休む間もなく試験に突入した。


あれ? どの問題も簡単だわ。

王妃教育を受けた数年間、血を吐くような勉強をさせられた。

家庭教師は、バカな私を徹底的に鍛え抜いた。

そのおかげかしら?


私は、全科目、スラスラと答えを書いた。


やったー。終わったわー。


「エミリー、どうだった?」


マルクが声を掛けてきた。


「楽勝よ。簡単すぎて退屈だったわ」


「はいはい。で、レオン殿下とは、どういう知り合い?」


マルクには、正直に打ち明けよう。口が堅いのは、良く知ってる。

それに、何かと助けてもらえるはずよ。


私は、マルクの耳元で囁いた。


「弱みを握られて、奴隷にされた」


マルクは、目を丸くした後、大声で笑い出した。


「最高だよ、エミリー。やらかし加減が半端ない」


目に涙を浮かべながら、腹を抱えて笑っている。


笑い過ぎよ。そんなに可笑しい?




帰宅し部屋に戻ると、私は、ハンナに抱きついた。


「学園にまで悪魔が現れたー!」


いつものように、一頻りハンナに今日の出来事を話した。


「これで、マルクとは、今までみたいに一緒にいられなくなるわ。学園で唯一の友達なのに」


「困りましたね。でもそれって、レオン殿下のヤキモチでは?」


ヤキモチ? 絶対に違うわ。


「レオン様は、獅子王と恐れられてたのよ。……分かったわ。私が周囲に助けを求められないように、孤立させる気よ」


「そうでしょうか? それにしても、レオン殿下はこの国で何をなさっているのでしょう? アンドレ殿下と同じ歳なら、カルドラン大国の学園生なのでは?」


そうよね……。何してるのかしら? 


でも、一年間の辛抱よ。レオンがカルドラン大国に戻れば、晴れて私は自由よ!

そう思うと、急に力が沸いてきたわ。





五日後。


やった! 今週末はレオンが忙しいらしく、奴隷から解放される。

せっかくの週末だもの。部屋でゴロゴロするわ。


私は、ベッドに寝転がった。


はー、ぐうたらって最高ね。

王妃だった頃は、自由気ままにベッドに横になるなんて、できなかったもの。


その時、ハンナが大きなスズランの花束を抱えて、部屋に駆け込んで来た。


「お嬢様、大変です!」


「どうしたの? そんなに慌てて」


「アンドレ殿下から、花束とお手紙が届きました……」


私は、寝転がっていたベッドから飛び起きた。


は? そのスズランの花束はアンドレから?


「どういうこと?……」


「命を救ったお礼のようです」


ハンナは、花束をテーブルに置くと、手紙を私に差し出した。


慌てて目を通す。それは、お茶の誘いだった。


「なぜ? お礼なら花束で充分なのに……」


「殿下は、お嬢様に命を救われたんです。直接お礼を言うのが礼儀だと、お考えなのでしょう」


そんな礼儀、要らないのに。全然ありがたくない。


私は、溜息を吐いた。


「会いたくないわ……」


「お礼以外にも、もしかして……。殿下は、お嬢様をお気に召したのでは?」


は? 


「そんなはず、ないわ。絶対にない。あって堪るもんですか! だって、私は嫌われようと、失礼な発言をしたもの」


「でも、最後には助けてしまった。考えてみて下さい。あの夜会は、王太子殿下の事実上の婚約者選びでした。殿下は大広間には現れず、言葉を交わしたのは、お嬢様だけです」


身体から力が抜けた。私は、近くの椅子にストンと腰かけた。


嫌われるための失礼な発言は、命を助けたことで、帳消し? 努力が水の泡?

だとしても、アンドレが私を気に入ったはずないわ。これは単なるお礼よ。きっと深い意味はない。


手紙には、明日とある。


また、王宮へ足を運ぶのは憂鬱だけど、断れるはずもない。断れば不敬罪だわ。

あー、もう。せっかくの週末が台無しよ。


不思議ね。まだレオンのほうがマシだと感じるなんて。

アンドレとレオンの二択って、選択肢が、おかしすぎる。


アンドレに完全に気に入られちゃってるね。と思った方は、★★★★★とブクマをお願いします!

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