フレイアの覚悟
「散開した! そう動かざるを得ないよな! 一機ずつ相手にできればこっちが有利なんだよ! 落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
散開した<シュラ>のうち<サイフィード>から一番近い敵に即座に接近し、横一文字に斬りつける。
爆発から逃げることに意識が向いていた<シュラ>は反応が遅れ防御が間に合わずに胴体が上下に裂かれて燃え上がった。
味方がまた一機倒されたことに気が付いた敵集団の意識が俺に向く。
それによって<アクアヴェイル>と<グランディーネ>への包囲網が緩くなる。それを待ってたんだよ。
『敵の攻撃が弱まりましたわ! パメラ!』
『あいよ! ここが狙い目ってわけね』
敵の隙を突いて<グランディーネ>が剛腕で敵を殴り倒し、<アクアヴェイル>はエーテルトライデントで応戦し包囲網から脱出した。
俺は敵を斬り飛ばしながら二人と合流を果たすのであった。
「遅くなってすまない。二人とも怪我してないか!?」
『わたくしたちは大丈夫ですわ。――ティリアリアも一緒ですのね。安心しましたわ』
クリスティーナがホッとした顔をして、モニター越しに俺とティリアリアを見ている。
それから俺たちは前方で臨戦態勢を取る<シュラ>の集団に視線を向けた。
さらにその奥には、体勢を立て直して俺に殺気を叩き付けるアグニ専用<シュラ>の姿もあった。
「――さてと。無事合流できたし、ここから反撃に出るぞ!」
『『了解!』』
ハルトがクリスティーナたちと合流を果たし、<シュラ>部隊と交戦を開始するのをフレイアは離れた場所から見ていた。
先程救護班が到着し、フレイは現在ストレッチャーの上で横になっている。アグニ機によるダメージで全身打撲と軽度の火傷を負ってはいたが命に別状はなかった。
フレイアも大した怪我はなく、歩行も問題なかったためフレイに付き添って地下への避難通路を目指して戦場から離れたルートを移動している。
(皆がまだ戦っているというのに見ていることしか出来ないなんて)
フレイアの悔しそうな顔を見てフレイが声を掛ける。
「ここはあいつらに任せよう。ハルトが戻って来たんだ、大丈夫さ」
その言葉を聞いてフレイアはますます唇を噛み、その思いを兄に吐露した。
「フレイ、確かにハルトは強い。南方で戦っていた時も、そして王都に戻って来てからもあいつは強くて皆から頼りにされている。でもそれがあいつを追い込んでいるのも事実なんだ。今までだって危険な状況は何回もあった。戦いが激化している今だからこそ、あいつの負担を減らしてやりたい。けれど、それをしたくても今の私は――無力だ」
泣きそうになる妹をフレイはまじまじと見ていた。
「フレイア、お前……そんなにハルトに惚れてんのか?」
「はっ? なっ、何を見当違いなことを言ってるんだ!? わたしはあいつの戦いに関して話をしているの! 何でもかんでも恋愛に絡めるな!!」
フレイアは顔を真っ赤にして早口でまくし立てる。その様子を見てフレイは笑みを浮かべるのであった。
「本当に嘘がつけないなお前。図星の時に顔を赤くして早口で喋る癖は昔のまんまだ」
「うぐっ……それに、ハルトはティリアリア様のことが好きだし、ティリアリア様も……。とにかく私は仲間としてあいつを支えたいんだ!」
少し悲しそうな顔をしながら怒るフレイアを見て兄は優しい眼差しを向けるのであった。
「別にいいじゃないか、自分の気持ちに素直になっても。俺は応援するぞ、あいつはいいヤツだからな。それにあいつは聖騎士の称号をもらうんだよな? 確か聖騎士って伴侶を複数持てるはず。問題ないじゃん!」
「だから、そういう問題じゃ――」
「そう言う問題だよ。自分の素直な気持ちをちゃんとあいつにぶつけて、そのうえであいつを支えてやれ。お前ならそれが出来る。兄貴の俺が言うんだから間違いない!」
「兄さん――分かった。ちゃんと自分の気持ちをハルトにぶつけてみる。そして、私があいつを、そして皆を必ず守る!」
フレイアにはさっきまでの思いつめた表情はなく、力強い意思が満ち溢れていた。そんな妹の姿を見てフレイは嬉しそうにするのであった。
それと同時刻、『第一ドグマ』地下の一区画で緊急事態が起きていた。
最終調整を終えていた<ヴァンフレア>が突然動き出したのである。
周囲にいた作業員たちが避難する中、<ヴァンフレア>の設計者であるシェリンドン・エメラルドは操者不在で動き始めた深紅の竜機兵の様子を見守っていた。
「操者なしにフルパワーで動き始めた。――この状況は、もしかして操者を見つけたというの?」
シェリンドンが<ヴァンフレア>の動きを分析していると、その深紅の機体は地上へのエレベーターへ向けて迷うことなく歩き出した。
この場から逃げようとしないシェリンドンの所に部下の錬金技師たちが集まってくる。
「主任、ここは危ないですから逃げましょうよ! <ヴァンフレア>の暴走に巻き込まれちゃいますよ!」
半泣きの部下たちにシェリンドンは冷静さを崩さず説明する。
「皆、これは暴走ではないわ。<ヴァンフレア>は地上に行こうとしている。もしかしたら、操者の意思に反応しているのかもしれないわ」
「で、でも<ヴァンフレア>の操者はまだ決まっていませんよ!? いったい誰が?」
シェリンドンはエレベーターを起動させて地上に向かう<ヴァンフレア>を見送りながら言った。
「それは、これから<ヴァンフレア>自身が教えてくれるわ」




