グランバッハ家のDNA②
俺たちはゲストを迎える為にドレスアップをすることになった。用意されていた黒いスーツに身を包み早々に俺の準備は終わった。
それからしばらくしてティリアリアたちが部屋から出て来た。
彼女たちは聖騎士叙勲式の時と同じくそれぞれのイメージカラーに沿ったドレスに身を包んでいる。ティリアリアは白、クリスティーナは青、フレイアは赤、シェリンドンは緑といった具合だ。
あの時より派手さや露出は抑えられているが素材の良さと相まって清楚な雰囲気が出ている。
「うわぁ……」
彼女たちのドレス姿に見惚れているとクリスティーナが「ふふふ」と笑いながら傍に寄って来た。
「どうしたんですか、ぼーっとして。わたくし達のドレス姿にまたしても見惚れてしまいました?」
図星だったので顔を背けてしまう。その方向にクリスティーナが回り込んで悪戯な笑みで俺を見上げていた。
目線を下げると彼女の胸の谷間がよく見える。以前より控え目とはいってもそれなりに胸元が開いているデザインなのでこの角度は色々と凄い。
それを十分に理解しての位置取りなのだろう。このドS姫様は俺の反応を見て楽しんでいるのだ。
「これからお父様とお母様がいらっしゃるんですから、それが終わるまでもう少し我慢してくださいね」
その言葉に恥ずかしながら期待が膨らんでしまう。
ここで助け舟を出したのは他の三人だった。クリスティーナを俺から引き剥がす。
「クリスティーナ様、お戯れはそこまでです」
「そうですよ。それに私たちのドレス姿もハルト君に見てもらいたいので独り占め時間は終了です」
「これからノルド国王とシャイーナ王妃が来るのにハルトを誘惑してる場合!? 皆緊張してるのにクリスはもう!」
三人は確かに俺を助けてくれたのだが、今度は自分たちが身体を俺に押し付けて来る。確信犯だ、この人たち。
まずいぞこれは。これから国王と王妃が来るのに頭の中がエロいことで一杯になっていく。
そんな事を考えていると男子たるもの反応してしまうわけで俺は前屈みになる。こっちは困っているのに、うちの奥様たちは攻撃の手を緩めるつもりはないらしい。
彼女たちは顔が赤く上気していて、夜のお戯れモードのスイッチが入ったようだった。
「まだ……約束の時間まで余裕あるわよね?」
ティリアリアが唇をぺろっと舐めてとんでもないことを言った。何やかんやでこいつが一番旺盛な性格をしているのだ。
「時間的には大丈夫なはずですわ。ささっとやれば四人を一巡できます。そうと決まればお部屋にレッツゴーですわ」
こういう時のティリアリアとクリスティーナの連携は凄まじい。フレイアとシェリンドンは一瞬呆気に取られていたがいそいそと後に続いて来る。
「ふっ……さすがはグランバッハ家の血を引いているだけあって二人共性欲が旺盛ね。それに順応するシェリーとフレイアも中々だわ」
もつれあう俺たちの後ろから女性の声がした。透き通るような美声である一方で出てくる発言がおかしい人物。本日の二人のゲストのうちの一人。
恐る恐る後ろを振り返りながらその女性の名を呼んだ。
「――お久しぶりです。シャイーナ様」
「ひっさしぶりー、ハルト君。元気してた? これから短時間で四発決めるトコみたいだったし元気そうね、うふふふふ。クリスもティリアリアもシェリーもフレイアも、エロ可愛くて皆素敵よ」
いきなり下ネタ交じりに挨拶をかましてきたのが、『アルヴィス王国』の正室であるシャイーナ・エイル・アルヴィス王妃だ。
クレイン王太子とクリスティーナの実母で元々はグランバッハ家の令嬢である。ティリアリアの母親の妹なので彼女にとって叔母にあたる。
グランバッハ家の特徴であるプラチナブロンドの髪をたなびかせ笑顔を絶やさない姿はティリアリアを成長させた感じだ。
シェリンドンもそうなのだが、シャイーナ王妃もとても成人した子を持つ女性とは思えない程若々しくボディラインが全く崩れていない。
本当にどうなってるんだこの世界の女性は。前世の俺の母ちゃんとは全然違う生き物だぞ。
「あらあら、どうしたのハルト君。そんなに熱い目で私を見て――ダメよ。私は夫と子がいる身、そして王妃なのよ。あなたの期待には応えられないわ。ましてや母と娘を同時とか、アブノーマルすぎる!」
頭が痛くなってきた。これだよこれ。この暴走し放題の性格に振り回されて疲れるんだよ。対面から僅か一分で疲れた。家に帰りたい。あっ、ダメだ。ここが俺の家だった。
「失礼ですがお母さまの入る余地はありませんわ。ハルトさんにはわたくし達むちむちもちもちボディの四人がいるんです。お母さまのぶにゅぶにゅボディではハルトさんだって元気が出ませんわ!」
やめてー、そんな際どい話に俺を巻き込まないでー。王妃様が怒っている。頬を思い切り膨らまして目に涙を溜めて怒ってるよ。
この怒り方はティリアリアやクリスティーナと同じだ。頬を膨らませて怒るのはグランバッハ家の遺伝なのか?
「クリス! 誰がぶにゅぶにゅですかっ! 私は若い頃から適度に運動してるし食事にも気を付けてるし、スキンケアにも余念はありません。肌年齢は十代の頃から変わっていないんだから。それに私のことを言ったらシェリーはどうなのよ。そんなに私と年齢違わないでしょう!?」
「私を巻き込まないでください、先輩ッ!」
シャイーナ王妃とシェリンドンは女学校で先輩後輩の間柄で仲が良かったらしい。世間は狭いのだ。
「そもそもシェリーはずるいのよ。錬金学士って凄く忙しくて美容整形に手間をかける暇が無いはず。その上、三十代半ばなのに女学生の時とそんなに外見変わってないじゃない。おまけに今では十代の若い旦那様と毎日毎日――肌艶が良すぎるのよ、シェリー!!」
「そんなこと言われても……」
凄んでくる王妃にたじたじのシェリンドン。すると今度は攻撃先がフレイアに変更される。
「そう言えばフレイアもここ最近で随分メス顔をするようになったわね。以前はティリアリアの侍女として常にきりっとしていたのに。ハルト君にいったいどんな事をされたのかしら。興味あるわぁ」
フレイアがこんななのはあなたの娘が原因なんだよ。ってかメス顔とか言葉遣いが俗っぽいけど、こんな人が王妃で大丈夫なのかこの国。
「それは……色々です。……ぽっ」
顔を赤らめながら何かを思い出すように陶酔するドM。こんな態度をされると俺がえげつないことをしたみたいじゃないか。
ノンストップで嫁たちをいじる王妃様。ふと気が付くと彼女の姿がない。何処にいったんだ?
「きゃっ!」
「あんっ!」
後ろから艶めかしい声が聞こえる。急いで振り向くと、そこには獰猛な王妃に胸を弄ばれるティリアリアとシェリンドンがいた。
両手に花ならぬ両手にメロン。王妃の技巧により二人から漏れ出る声が段々と艶めかしくなっていく。マジで何しに来たんだこの王妃。




